第6話


・・・・・。


「……なるほど」


 保健医の白衣の美女は、俺の胸の直ぐ側まで顔を近づけると、くんくんと匂いをかいだ。



「……嘘じゃないみたいだな」

「……何故、匂いを嗅ぐ?(汗)」


 じっと見られるよりも、匂いを嗅がれる方が恥しい感じがするのは何故だろう?



「や、すまん。私はあまり眼が良くないのでな。女子化したっていうんなら見た目より匂いのほうがある意味確実に判りやすいし。

…第一、確認させろって言っても人前ですっぽんぽんになるのは普通嫌がるだろ?」


おお!流石は常識のある一般教師だ。

その辺の飢えた、友人のふりをしている男子生徒達とは違って話が出来る。



「なんか、変な感じだな。昨日怪我してきた時は間違いなく男の子の匂いしてたのに、今のお前からは恋する女子の匂いがしてるぞ?


「なに?瞳ちゃん怪我したの?」


珍しいものを見る目でこちらを見る優希に俺は昨日の話をした。



「いや、ちょっと指先を怪我したんで絆創膏を貰いに来ただけだけど……」


その先生の言葉が妙に引っかかった俺は、もう一度先生に確認してみる。



「・・・今……妙なキーワード言わなかったか?何だよ?その『恋する乙女』って」


「読んで字のごとく、そのまんまの意味だが……」


 また顔を胸に近づけてくんくんと匂いを嗅いだ色河先生は何かを確信して大きく頷いてから口を開いた。




「お前さんから、発情しているメスの匂いがする・・・と言えば解りやすいか?」




・・・・・はい?

はつじょうした、めすのにおい???



「そっかあ・・・瞳ちゃん、発情してたんだぁ。ど〜りで、甘いいい匂いがするなあって、思ってたんだぁ〜♬」


いやいや、ちょっと待てい!

優希よ、変な納得をしているんじゃない!

第一、そんなもの…まったくもって身に覚えは無いんだが?


「・・・あんた…… “お星さまの願い事” で変身しちゃったのかもしれないって言ってたよね?

その願い事をしたのはアンタと彼女だけなのかい?」


・・・いや、まあ…確認を取れたのはその二人だけなんだけど……。



「あくまで架空の話に架空を重ねる話なんだけども……アンタのことを知っている人間…つまり、クラスメートとかの連中の中に、女性化を願った奴がいたとする。

 さらに、そんな変身した後のアンタと一発犯りたいっていう超邪な考えを強烈に持った奴…もしくはそうなったほうが嬉しいと思っていたがいれば……アンタが発情していたほうが事を起こしやすい、って事も踏まえたような事まで含めてついでにお願いしちゃうんじゃないのか?」




・・・・・。


・・・・・うげぇ★

嘘だろ、おい!


俺が逆の立場なら…『面白い』で止まるぞ。


 全く相手のことを知らないのならともかく、よく知っている相手にそんな事まで願うなんて、俺から見れば正気の沙汰じゃ無い。



「…心当たりはあるか?そんな邪な事願う奴、意外と少ないと思うが?」



・・・・・いや。沢山いる気がする……。


さっきの大木に、腐女子筆頭の根倉菜乃ねくら なのとその取り巻き連中数人…それから俺を追っかけ写真を撮りまくる写真部の鳥間久利須とりま くりす・・・。

あ、うちの姉ちゃんもそっちの類に入るし……


そうそう。

目の前にいる色河先生この女性も、こういう事には目がない・・・


まさか…?



「ひょっとして、せんせもお星さまに願い事…してません?」


「…あ。やっぱ、わかる?」


あんたもかーーい!!


「いや〜…最近色々マンネリしててねぇ…アンタが女性化して、ひょっこり一人で悩み相談に来たらさぞ楽しいことが出来そうだな〜…って」



こらこらこらこらぁ!!

仮にも保健室を預かる保健医が、そんな事考えてんじゃねえよっ!


「・・・??楽しい事?」

「ひん剥いてよ〜く観察した後、色々弄くり倒して男と女の感じ方の違いとか聞いて…」

「……弄る??」

「つまり、女の子になった瞳ちゃんの本物のお…「こら〜〜っ!!幼気な優希に変な事を教えるんじゃないっ!!」


「冗談だ、じょ・う・だ・ん☆」


人指指を立ててちっちっち☆と振るエロ保健医をスリッパで引っ叩き、優希を俺の後ろへ隠しながら俺は怒鳴り散らした。



「え〜っ?!僕、もうちょっと詳しく聞きたかったのに……」


「お前ももう少し世間の色んな事を勉強しとけ。でないとそのうちこういう輩に取って喰われちまうぞ?」


 純情すぎるというか、世間を知らなすぎると言うか……優希にはまるで純粋培養の花を扱うような気持ちにさせられるから困ったもんだ。



「……学校の先生としてはあまり言うべきことじゃないが、今日は家に帰って大人しくしておけ。私がちゃんと病気扱いにして届けを出しておくから。

 このまま今のお前が学校に居座ると、フェロモンが出まくっているお前に感化されて純朴な男子生徒が暴徒化する可能性があるからな」



「あ、ああ、分かった。こんな状況じゃあ皆勤がどうとか言ってる場合じゃねえもんな」


……一応、真面目な生徒として通っている俺は、学校を抜け出したりズル休みしたりしたことは今まで一度も無い。



「持つべきものは学校の保健医だな、助かるぜ……」


流石というか…普段からふざけた感じなこの先生だが、いざって時は頼りになるもんだな、と感心する。




「・・・・・あ、一応言っておくが……」


保健室を出ようと扉をがらがらっと開けた俺に、保健医がニヤつきながら言葉を付け足してきた。



「この先何がきっかけでどう変化していくか分からんから、迂闊なことはしない事。家に帰って一人になったっからって女体の神秘を味わおうナンテことはするなよ?男に戻れなくなるかもしれないからな?」



・・・女体の神秘って……あのなぁ(汗)



「んなこたあ、しねえよ」

「……にょたいのしんぴって、なに?」



優希、君ねえ……(汗)

ホントは、君は分かってて聞いてるんじゃないか?(汗)




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る