青く澄渡る空に、灯が燈る。
鈴響聖夜
暗い部屋と明るい星
ふと僕は目醒めた。
何か夢を見ていたような気がするが、相変わらず憶えていない。いつもと同じだ。
壁掛け時計を見れば、いつからが止まったままの短針と長針が、真上を指している。外の静けさから、深夜だと悟った。これもいつも通り。
最近は何故か、よく眠れない。ちょうどこのくらいの時間に目が醒めてしまう。おかげで寝不足もいいところだ。そろそろ倒れてしまうのではないかと心配になる。
手探りで遮光カーテンを開いて、窓越しの夜空を眺める。田舎のこの町に光害なんてものはなく、曇っていない限り毎日、満天の星が瞬いている。今日は確か新月。どうりでいつもより星の光が強いわけだ。どれが何という星座なのかなんて分からないけれど。
立て付けの悪い窓を静かに開き、頬を撫でる夜風を感じながら目を瞑る。運ばれてくる海の香りに包まれながら僕は、もう始まってしまっている今日の景色を想像する。
今日も散歩に行こう。目的地を決めずにふらふらと。そして帰りにいつも公園で走り回ってる元気な犬と追いかけっこして、いつも寝ている猫と昼寝して、いつも揺れているあの花に話しかけて。
もしかすると今日、新しい出逢いがあるかもしれない。どんなやつかな。凄く恥ずかしがり屋かもしれないし、どこまでも能天気かもしれない。敵対心剥き出しかもしれないし、礼儀正しいかもしれない。
想像を膨らませて浮かれながら鏡の前で寝癖を直す。流石にこの時間では誰もいないだろう。でもまぁ雰囲気だ。雰囲気大事。
浮き足立った歩調で廊下を歩いて、静かにしなければと思い直し、音を立てないように靴を履く。家族は多分寝ている。もう暫く会っていないけれど。高校に入って一度も登校せずに部屋に引き籠った僕をどう思っているのだろう。忘れてしまったかも。憶えているなら、幻滅でもしているのだろうか。それなら忘れてくれた方が僕も家族も楽だ。いっそ忘れていてくれ。
玄関に立て掛けられている姿見で、非常にラフな格好の冴えない僕を見つめる。もしかしたら少し寒いかもしれない。まぁそんなに長い間外にいるつもりはないから、きっと大丈夫だろう。
「行ってきます」
家族の誰の耳にも届かないような声を放って、そっと扉を閉めた。
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