最終話 修羅場すぎんだろ


「あっ、おはよ、早坂」


「おはよ、透くんっ」

 

 下駄箱のところで偶然鉢合わせた俺と早坂は、向かう教室が同じということもあってそのまま肩を並べて歩く。


 回数は多くないが、別段珍しいわけでもないことなのに、いつもよりざわざわするのはなぜだろう。


 多少の疑問を感じながらも歩き、教室に着くと、教室中の視線が俺たちに向いた。


 それはほとんど好奇の視線であり、妙に居心地が悪い。


 気にしてない体を装い席に着くと、伊織が俺のことをニヤリとした笑みを浮かべて見ていた。


「なんだよ」


「いやぁ、べっっにぃ?」


「…………」


 逆にその反応をされて何もないとか、ありえんだろうが。


 はぁ、とため息をついていると、俺の机がバンッ! と叩かれた。


「おい松下。一つ聞きたいことがある」


 声ひっく。


 もはや話し方も含めて、俺より勇ましい日本男児だ。


 そんな水野が、鋭い視線を俺に向ける、いや、もはやぶっ刺している。


「松下って――友梨と同棲してるの?」


「……は?」


 な、なんでそのことが……。


「イェスかノーで答えろ」


「え、は?」


「よし、殺す!!!!」


「いややめろやめろ!!!」


 胸倉をつかんでくる。


 助けを求めて辺りを見渡すと、ヒソヒソと陰口を言い合うクラスメイト達が、遠目から俺のことをチラチラと見ていた。


 つまり、これは周知の事実という事。


 だからあんなにも見られていたのか。


「しかも、転校生の広瀬ちゃんとも暮らしてるんだって⁈」


「⁈⁈⁈」


「その反応……ッ! 貴様ッ!!!!」


「いや、違うんだこれは!!」


「違くないッ! 松下は、二人の女の子を家に連れ込んでは弄んでいる、クズ男だッ!!!


「ちげぇよぉぉぉぉぉ!!!!」


 俺が必死に否定するが、周りは、


「うわぁ浮気男だ……」


「しかもうちの二大美少女を」


「処刑だ、処刑だッ!!」


 水野に圧倒的賛同。


 四面楚歌にもほどがあるだろうが……。


 だが、事実は少し異なる。だから俺は、ちゃんと落ち着いて、真実を真摯に伝えれば……きっと!


「違うんだ、これは誤解なんだ! だ、第一、俺は二人に、というかそもそも女子に興味なんて……!」


 不意に、俺のことを見ている二人の姿が視界に入った。


 やっぱりいつ見ても、誰が見ても美しい二人はどんな状況でも絵になって。こんなヤバい状況で、しかも当事者なのに少し笑っていた。


 なんで笑ってるんだよ!


 そう言いたくなると同時に、俺はさっき言おうと思っていた言葉が、言えなくなっていることに気が付いた。


 言えない。言えるわけがない。


 今の変わった俺の状態で、あんなことが言えるわけがない。


 だってそれは間違いないなく――嘘であるから。


「ほらやっぱり! 何も言えないってことは、そういうことなんだ!」


「いや、ほんと、それは……」


 何かほかに弁解する方法はないかと思案していると、追い打ちをかけるように水野が言う。


「――昨日、広瀬ちゃんと二人でカップルの聖地にいたな?」


「へ?」


「――こないだ、友梨が風邪引いたとき、看病しに行ったな?」


「…………」


「両方目撃者がいる! おまけに三人でスーパーに行って、仲良く買い物している姿も、見た人がいるッ!!!」


 や、ヤバい……!


 目撃者がいる以上、これに限っては何も言い返せない!!


「――よって、松下は二股クズ男として、死刑だ!!!」


「えぇぇ⁈」


 とんでもない暴論だが、世論は水野に傾いているようだ。


 もうなすすべなしか、と思われたその時。



「ちょっと待って、愛莉」


「ちょっと待って、水野ちゃん」



「……は、早坂。ひ、広瀬……」


 俺の目の前にやってくる、少しニヤけた当事者二人。


 おいおい、嫌な予感しかしないぞこれは……。


 冷や汗が全身の毛穴から吹き出て、おまけにとてつもなく暑い。


 助け舟を求めて伊織の方を見るが、相変わらず「楽しくないって来たぞこれは……!」と目を輝かせていて、こいつと友達の縁を切ってやろうと思った。


「ねぇ、透。この現状、どうにかしたいわよね?」


「そ、そりゃ、な」


「じゃあさ、透くん。この質問に答えてもらっても、いい?」


「し、質問?」


「そう。ただの質問」


 ただの質問。


 早坂はそう言ったが、それがただの質問ではないことは当然わかって。」


「今透が反感を買っているのは、大まかには二股疑惑がある、ってことよね?」


「ま、まぁ」


「ってことは、さ、二股じゃなくすれば、解決する話だよね?」


「……へ?」


「つまり、さ」


 二人が机に手をついて、俺に迫るように近づいて、言うのだった。





「「君は一体、どっちを選ぶ?」」





 にやっ、と笑って俺の顔を覗き込む。


 そんな質問、答えられるわけがない。


 だって二人とも、二人とも……。


 

 あぁ。もうこんなのやってられない。


 だってだって、こんなの――



 修羅場すぎんだろ……




                            完

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学園一の美少女が許嫁になった翌日に、疎遠になっていた幼馴染が実は女の子でしかも結婚の約束を幼い頃にしていたことが発覚して修羅場過ぎるんだが 本町かまくら @mutukiiiti14

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