第二十三話 冬と言えば、これ!
たどり着いたのは――とあるスーパー。
と言っても、今日はとあるでは済まされないほどに、他とは一線を画したスーパーである。
なぜならば……。
「ただいまセールをやっておりま~す!」
そう、この店は月に一回の大セールを行っているのだ。
ただのセールじゃない。大セールだ。
「結構人いるね~」
「そうね。まぁ人間でセールが好きじゃない人はいないものね」
「……それ、結構偏見では?」
実際俺はセール大好きなので、一概に否定することはできないのだが。
「早坂、何買った方がいい?」
「そうだね……白菜が安いね」
「白菜ならこっちよ!」
「了解、広瀬戦隊長っ」
「ふふっ。ついてきなさい下等兵たち!」
まるでトイ〇らスに来た子供のようにはしゃぐ広瀬に、早坂と目を見合わせて笑う。
現在、俺がカートを押し、隣で早坂がセールのチラシを見て、その指示を元に広瀬が足を動かすというフォーメーション。
ただの買い出しにこんな陣形を予め打ち合わせして組んでしまうほどには、今日という日を楽しみにしていた。
三人で同棲しているのだが、実はそこまで贅沢できるほどの仕送りをもらっているわけではない。
突然同棲させるほどにぶっ飛んだ親たちだが、金銭に関してはしっかり学べとのことらしい。
はっきり言って、よく分からん。
だがまぁ、その甲斐あってか無事ケチ臭くなってしまった俺たちは、今意気揚々としているわけである。
「そういえば、友梨の好きなお菓子安くなってたわよ?」
「えうそ……あっ、ほんとだ! ……じゅるり」
「今買えるだけ買ったらどうだ?」
「……じゃ、じゃあ、三十個買ってもいいかな?」
「「それは買いすぎ」」
「う、うぅ……だ、だよねぇ……」
しょんぼりする早坂だったが、結局かごに十個ほど入れた。
どんだけ食うのこいつ。
「あっ、このお肉安い!」
「買い得だな」
お肉を手に取って、キラキラと目を輝かせる広瀬。
最近の女子高校生で、お肉で目を輝かせる奴はこいつくらいだろう。
「……っておいおい。ピーナッツが……この値段、だと⁈」
「あははっ、ほんと透くんはピーナッツ好きだね」
「って透? 何個買うつもりなのかしら?」
「……五十個ほど」
「「それは買いすぎ」」
「で、ですよねぇ……」
ピーナッツのことになると自分を失うんだよな俺。
しょげつつも十個ほど入れると、二人に笑われた。
なんか恥ずかしかった。
しばらく店内を練り歩いていると、最前線にいる広瀬が「あっ」と声を上げた。
「ねぇ二人とも、今日は『これ』にしないかしら?」
広瀬が手に取った『これ』を見て、俺たちは頬を緩ませ、
「「いいね!」」
サムズアップをし、ウキウキでレジに向かった。
……今夜はいい夜になりそうだ。
「「「いただきま~す!」」」
家について、三人で協力して調理をし、テーブルを囲む。
俺たちの中心にあったのは――鍋。
寒くなってきたら、鍋だよな!
「ん~! おいひいっ!」
「やっぱり冬は鍋よねぇ~」
「まだ秋だけどな」
「細かいことはいいのよっ」
夢中になって鍋をつつく。
まだ本格的に冬ではなく、さながら冬の予行練習みたいなものだが、それでもこんなに楽しい。
だから俺たちは余計に、本当の冬に対しての期待を胸いっぱいに膨らませた。
「へっくちっ」
そんな中、響く可愛らしいくしゃみ。
音の発生源の方を見てみると、少し顔を赤くさせた早坂の姿があった。
「……わ、私じゃないもん」
……それはさすがに無理があるだろ。
「まぁなんだ、そういうこともある」
「くしゃみなんて生理現象よ」
「……もぉ~二人とも、からかわないでよ~!」
ぷりぷりと怒る早坂に、俺と広瀬は顔を見合わせて笑った。
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