エピソード12 ヨハン氏への手紙


 正直、内容は面白くないと思う。 


 でも、依頼されたし印象深いから話そうと思う。


 わたしがしでかした事は知っているでしょうから、省略。


 しでかした結果、父とシュナイダー様の関係を知る事ができた。

 良かったわけではないんだけど、知らずにウィル様を殺めていらたらと考えると、今でも身の毛がよだつ。

 

 父とシュナイダー様が、想像がつかないくらい重いものを背負っていたのか。

 それを知るきっかけをくれたウィル様には感謝しています。



 ハンスに連れられて広場へ。

 その真ん中で夜を過ごした。

 そばにはハンスがずっと付きっ切り。

 夜は冷えるからと外套までくれて…。


「あなたまで、付き合う必要はないのよ」

「付き合ってるわけじゃない。おれは監視役だから」

「監視ね…こんな緩い縛り方でいいわけ?」

 少し力を入れれば、手足のロープを抜くことができてしまう。

「縛らなくても、お前は逃げたりしない。そうだろ?」

 それは、そうだけど…。


「おい!見てんじゃねえよ。さっさと寝ろ!」

 わたしの事を聞いた兵士達が宿舎から出て来ていた。

 暗いから表情はよく分からないけど、いい顔はしていないでしょうね。

「いいって…」

「でも…」

 こうやって晒されるのが、目的なんだから。

「お前だけが、悪いわけじゃないだろ?そもそも、この件で悪い奴や原因もない…」

「わたしが悪くて原因。それは間違いない」

「百パーセント悪いわけじゃないんだよ。色々重なった。生い立ちとか…さ」

「生い立ちを言ったら、やっぱりわたしが…」

「そうじゃないって!」

 彼は声を荒げる。

「ハンス、ありがとう…」

「ああ。おれは何があっても、お前の味方だから」

 彼の言葉にわたしは頷いた。


 そして、朝。

 立っているだけって意外に辛い事知る。

 屈伸運動をするものの、大して辛さは変わらない。


「よお、大丈夫?」

 起きてきた兵士達が宿舎から声をかけられる。

「ええ、大丈夫よ」


 ハンス?

 彼はわたしの足元で丸くなって寝てる。

 監視役なのに。


「朝よ」

「あ、ああ…」

 のそのそと起き上がり、大きなあくびをする。

 宿舎の兵士が笑ってる。


 竜騎士達は竜の手入れや素振りをしている。


 カンカンカンカン…。


 この音は、食事の用意が出来た合図。

 木の板を木の棒で打っている。


 食事を取りに宿舎から兵士が出てくる。

 食事と食器は宿舎ごとに分けられていて、それを宿舎に持っていて、自分達で分配し食べる。

 誰が運ぶかは、持ち回り。


 当然ながら、兵士達がわたしのそばを通り過ぎていく。


「領主に夜這いとか、勇気ありますねぇ」

「リサ。襲う、の意味違うって…。ごめんね、ソニア」

「いいのよ」

 リサとレベッカがそう話しながら通り過ぎる。


「自分の気持ちをコントロールできない奴は、敵が増えていくぜ」

 そう言って通り過ぎたのはゲイルさん。

「お前なっ!」

 ハンスはゲイルさんの肩を後ろから掴むが、その手を素早く取られ、足払いをされて地面に倒されてしまった。

「ぐはっ」

「ハンス。お前、状況分かってねえな。一歩間違えば、俺達は路頭に迷うとこだったんだぜ?文句の一つも言いたくなる」

「そうなってないだろ?」  

「今回はな。ウィル様の運が良かったのか、ソニアの運が悪かったのか。紙一重ってやつさ」

「だから、何もなかったんだ。もうソニアを悪く言うはやめろ。聞いたろ?彼女の事情を」

「知ったから何だってんだ?大目に見ろってか?虫が良すぎるぜ」

 ゲイルさんは吐き捨てるように言う。


「ウィル様に何かあっても、お前はコイツを庇うのか?どうなんだ?」

「どんな事があっても、…おれは彼女の味方だ」

 ハンス…。

「たくっ…呆れた野郎だ」

 ゲイルさんはハンスの腕を取り、引き起こす。

「お前の女なら、ちゃんと言っとけよ。いや、お前は尻に敷かれる性格だから、無理だな」

 ハンスの肩を笑いながら叩き、去っていく。

「お前…」

 ハンスはゲイルさんを追おうとしたが、動きを止める。

 彼の視線の先にヴァネッサ隊長が立っていた。


「おはようございます、隊長殿。ご機嫌麗しく」

 ゲイルさんが敬礼しながら挨拶をしている。

「麗しくはない」

「ですよね~」

 ヴァネッサ隊長はゲイルさんに去るよう言うと、こっちに近づいて来る。


「おはようございます」 

 ハンスとともに挨拶をする。

「おはようさん」

 ヴァネッサ隊長は怒っていると思うが、表情には出ていないように見える。


「ここは訓練するには邪魔だから移動するよ」

 そう言われ、ヴァネッサ隊長とハンスに両脇を引っ張られ、引きずる形で館側へ移動させられた。

「ウィル様には言ったんですか?」

「後で言う」

 ハンスにそう答える。


 メイドが踏み台を持ってきて、その上に一人分の食事を置いていく。

「一人分?俺の分は?」

「あんたは宿舎に行って食べればいいでしょ。いつもどおり」

「でも俺、監視…」

 ハンスはわたしとヴァネッサ隊長を交互に見る。

「あんたは、いつまでくっついてんの」

「くっついてるわけじゃなくて…」

「ケツ蹴られるのと、デコ弾かれのと、宿舎に戻るのとどれがいい?」

「え?…えっと…ごめん、ソニア!」

「別にいいから」

 ハンスは剣兵隊の宿舎へ行く。


「手、出しな。それじゃ食べれないでしょ」

「はい…」

「なんだい、この縛り方。緩すぎる…誰、縛ったの?」

「誰って…」

 わたしは剣兵隊の宿舎に目を向ける。

 ヴァネッサ隊長はため息を吐いた。

「あのバカ…」

「足もキツくはありません」

「ああ、そう…」

 彼女はそれ以上は言わない。


「悪かったね、殴ったりして」

「いいえ、当然の事です」

 ヴァネッサ隊長からしたら、足りないかもしれない。

「殴りたりないのなら、ご自由に」

 わたしはヴァネッサ隊長の目を見つめる。

「もういいよ。これ以上殴ったら、リアンが不機嫌になるから」

「はい…」

 リアンにも謝ってお礼を言わないと。


「リアンとウィルさんは起きてますか?」

「二人ともまだ寝てるよ」

 いつもは、もう起きてるらしい。

「昨日の事もあるし、今日は遅くてくいい」

 確かに。わたしのせいなんだけど…。


「ソニア」

 隊長はわたしの肩を掴む。

「はい」

「あんたの仇を取りたいって気持ちわかるよ。だから、余計にムカつく」

 ハンスからシュナイダー様の事を聞いた。

 何も出来なかった。それが実情だという。

 犯人の顔すらわからない。

「あたしはしたくても、できないから…」

 隊長は小さく息を吐く。

「この話、もういいよね。あんたにこんな事言ってもしようがないし」

「はい…」

 そう言って、軽く肩を叩き立ち去ろうしたが、戻って来る。


「言い忘れるところだった」

 …?。

「ウィルは領主なんだから、敬語を使いな」

「はい…あの、ヴァネッサ隊長はいいんですか?」

「隊長職は了解を貰ってる。タメ口なのは、あたしとミャンだけ、ああっとライアもかな?」

「そうなんですか」

 確か、リアンも敬語は使ってなかった。


「ウィルは、あんたに襲われても庇って、借りがあるんだからね。ウィル本人はそんな事思ってないけど、筋は通すんだよ」

「はいっ」

 わたしは姿勢正し頷いた。

 ヴァネッサ隊長は礼儀には結構うるさい。

 

 うるさいって言い方は失礼よね。

 当然、最低限の礼儀作法は心得ておくが常識。


「じゃあね。しっかり食べるんだよ、ぶっ倒れないように」

「はい」


 朝食を食べ始める。

 いつもの味。昨日は動揺していて分からなかった。

 何故か安心する。


「ソニア!」

 食べ終えた頃、リアンが二階の廊下の窓から呼びかけてきた。

「おはよう。大丈夫?」

「おはよう。平気よ」

 努めて明るく話す。

 彼女を心配させてしまった。心から詫たい。

「昨日はごめん!…ごめんなさい!」

「いいのよ、謝らくて。私は平気だから」

 リアンは笑顔を見せる。

 

 少し居ない間に、彼女は強くなった気がする。

 以前の彼女なら塞ぎ込んでいたかもしれない。


 リアンの隣に、もう一人現れた。

 ウィルさん…じゃなくて、ウィル・イシュタル様だ。


 リアンに挨拶した後、わたしに気づく。


「おはよう」

「おはようございます。イシュタル様」

 そう言って敬礼をした。

「敬礼はいらないよ。それとウィルでいいから」

「はい」

 

 ウィル様は気さくで感じのいい人。今更気づく

 

「大丈夫そう?」

「はい、問題ありません」

「そう。ハンスは?」

「今食事中かと…」

 宿舎を振り向くと、ちょうどハンスが出てきて、慌て様子で走って来る。

「おはようございます!」

「やあ、おはよう」

 ウィル様は慌ててきたハンスに、ちょっとだけ苦笑いになる。

「今日の日没まで、がんばって。ちょっと日差しが強そうだけど」

「平気です。これくらいは」

「うん。ハンス、彼女のそばを離れないように。何か異常あれば、報告して」

「わかりました!」

 何をそんなに張り切ってるのか…。


 ウィル様は奥へ去り、リアンも笑顔でわたしに手を振ってから行ってしまう。


「ねえ、ハンス。ウィル様ってどんな人?」

「どんなって…見た目の印象そのままだぜ。失礼な言い方になるかもだけど、普通の青年って感じで」

 ハンスからウィル様の素性を聞く。


「元商人だからか、話が面白いなぁ」

 商人だったの。

「どんだけ話ししてるのよ…。領主なのよ」

「時間がある時は剣術の訓練をしてるんだよ。で、休憩の時に雑談」 

「剣術の訓練…そんな事まで…腕前は?」

「まあ…それは…」

 ハンスは言いよどむ。

「そうでもない、と」

「それは仕方無いさ。剣を振る事が仕事じゃないし」

 確かにそのとおりね。


「リアンの印象も変わった感じがする」

 昨日のあんな事してしまったから、心配していたんだけど、笑顔を見せていた。

「うん。どう言えばわかんないけど、逞しくなった気がするな。王都まで行ったのがデカイかもな」

「え!?王都まで行った?」

「お前、何も聞いてないかよ…」

「ごめん…。昨日は色々、考えが頭の中ぐちゃぐちゃで…」

「ああ…そうだったな。じゃあ、俺が話してやるよ。あくまで聞いた話だから、詳しくは行った本人達に聞いてくれ」

「ええ、分かったわ」

 

 ウィル様達が王都に行った話を聞く。

 往復で一ヶ月ほどかかったという。


 何より驚いたのはリアンが同行した事。

 賊にも襲われているし。


 国王陛下と食事とか、ウィル様が竜を手に入れたとか…。


「ごめん、ちょっと混乱してきた…」

「マジでな」

 ハンスは笑ってる。

「よく無事に帰って来たと思うぜ」

「ほんとね…」


 リアンがちょっと逞しく見えたのはそのせいか。


 わたしの知らない間に、リアンは強くなっていた。

 それはウィル様のおかげかもしれない。

 

 昨日のリアンを庇っている姿。

 お互い信頼しているのは、わたしにも分かった。


 リアンの事をないがしろにしていたわけじゃない。

 後から言っても、言い訳にしか聞こえないわね…。

 

 

 そして、時間は過ぎ、日没を迎える。



Copyright(C)2020-橘 シン

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