第21話 懈怠

ある日、部活が終わり、着替えをしているときに、赤堀が俺に訊いた。

「君はなぜ彼女をつくらないんだ?」

俺は昔から女にモテる方だったが、その傾向は高校に入って、テニスで全国大会に出るようになってから、より増すようになった。

女というものは、皆勝ち馬に乗りたい生き物なのだろう。

男は自分好みの女にするために、女を育成する事があるが、女が男を育成する事は滅多にない。

女は、自分好みでない男からは、ただ距離を置くだけだ。

世の恋愛の成り立ちにおいて、男から女にアプローチするのが一般的な形だから、俺たちはつい勘違いしてしまいそうになるが、常に選ぶのは女の側だ。

女たちはいつも冷徹に俺たちを品定めしている。

アプローチするというのは、つまり手を挙げる事だ。

俺は優秀な男だ、と必死にアピールしているのだ。

そこでは人気のある男、功績のある男が選ばれるのだ。


俺は赤堀に答えた。

「彼女をつくって、俺になんのメリットがある?歴史上の偉人たちの多くも、女に入れ込んで破滅してきたんだぞ」

「女の子と遊ぶのは楽しいじゃないか、男として産まれてきたんなら、やっぱり女の子と遊ばないと損だよ」

「損だと?いいか?人間関係というのは、常に搾取するかされるかなんだよ。俺は女に搾取されるのは御免だ」

「それは余りに貧しい考え方だよ。君ほどの男が女遊びをしないなんて・・・、やっぱり勿体ない気がする」

「お前ももう少し悧巧に生きた方がいい。女遊びも結構だが、先の事まで考えねえと、人生は甘くねえぞ」

言いながら、自分のロッカーの扉を閉めると、赤堀は不思議と憐れむような、悲しむような目を俺に向けた。

俺は奴に背を向け、男たちの噎せ返るような汗の匂いで溢れるロッカー室を出た。

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