横浜のナルシス
薮崎葵
第1話 天使降臨
ある処に、文学を愛する青年がいた。
青年は、たぐいまれな美しさを持って生まれ、その美しさで人々を魅了していた。
青年は、まさに透き通る水辺に咲く蓮の花であった。
美形に生まれたもので、自らが美形であるという認識を持たないものはいない。
青年も例に漏れず、自らの美しさ、その鮮烈で豊饒な香りを、ナルシスの宿命をもって、欺瞞と醜悪ではびこる現世という禁じられた花園で光輪のごとく漂わせていた。
青年は、自らと同じ美の血族、アフロディーテに愛された少年たちを愛した。
青年は横浜の「太尾公園」に向かった。
ここは忌むべきヘテロの民から隔絶されたエデンの地、美しき薔薇たちが戯れる神聖な花園であった。
青年はここでSNSを通して関係を持った15歳の少年と待ち合わせていた。
夜が更け、メフィストフェレスが祝福をもたらした。
少年が黒の帽子を目深にかぶり現れた。
暗黒にちりばめられた星々を頭上に置きながら。
青年はそれを天使の降臨だと感じた。
天使が現れる場所は美しくなければならなかった。
この暗黒は、さながら天使の美しさを現世に引きずり出す装置であると思った。
少年が、微笑を湛えた顔で語りかけた。
「お久しぶりですね、悠貴さん」
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