第7章 集落再訪

第25話 商品の準備

 明日は雨が降らない限りはイロン村に行くつもりだ。

 だからお昼を食べた後は出荷準備。

 3人揃ってそれぞれ商品確認やその他作業中。


 用意できた商品と販売価格はこんな感じ。

  ○ 甜麺醤 20kg  500gあたり正銅貨3枚300円

  ○ 信州風味噌 20kg 500gあたり正銅貨3枚300円

  ○ 醤油 30ℓ 0.5ℓあたり正銅貨3枚300円

  ○ ヘイゴ新芽の醤油粕漬け 1包500g入り正銅貨3枚300円 

  ○ ヘイゴ芯の醤油粕漬け 1包500g入り正銅貨3枚300円

  ○ 醤油粕漬けセット(新芽・芯) 1包500g入り正銅貨3枚300円


 醤油は絞って漉して火入れして沈殿させ漉した結果、色も香りもいい感じになった。

 僕の知っている普通の醤油より少し甘みを感じる気がする。

 でも味としては悪くない。

 九州の醤油は甘いと聞いた事があるがこんな感じなのだろうか。

 今はもう確かめられないけれども。

 

 漬物は美愛によるアイデア商品。

 醤油を絞った後の粕にヘイゴの新芽や芯をつけたものだ。

 粕は廃品利用でヘイゴの芯や新芽は家の近くで採ったもの。

 つまり材料費がかかっていない。


 しかし食べてみると確かに日本の漬物っぽい。

 特にヘイゴの芯で作ったものは沢庵そっくり。

 美味しいし日本人の移住者には喜ばれると思う。

 この辺も美愛様々といったところだ。


 ただこれら全部が売れても売り上げは正銀貨5枚5万円程度。

 委託販売の手数料を取られるともっと少なくなる。


 しかしこれ以上の値付けでは高すぎると判断した。

 出来れば毎日消費して欲しいので、安心して使える金額にしたい。

 売れるならこの数倍以上の量だって作れる。

 更にエビ養殖なんてのも出荷はこれからだ。


 それに今、生活にはあまりお金がかかっていない。

 食事でかかっているのは主食のパンと調味料少々だけ。

 肉や魚、野菜は現地調達。

 家賃もタダだ。


 だから今すぐ儲けを考える必要は無い。

 商品が周知され、売り上げが読めるようになってから増産なり別の商品を考えるなりすればいいだろう。


 主な商品は量り売り。

 だからビニル袋を入れたバケツごと持ち込む。

 ただ漬物だけはビアルネイパの葉で包んだ形で販売する予定だ。

 包装作業が必要になる。


 これは漬物のカットを含め、美愛に頼んだ。

 ビアルネイパの葉を選んで包みやすいように整形したり。

 漬物を同じ分量になるようカットして詰め合わせたり。

 ビアルネイパの葉と繊維できれいに包んだり。

 この辺は全部お願いしてしまっている。


 僕と結愛は商品確認の後は案内チラシの印刷作業。

 このチラシは商品や此処の説明を書いた案内で、購入者や興味を持った人に配って貰う予定だ。

 この商品について知ってもらう為。

 そしてちひに僕がここにいる事を知らせる為でもある。


 今回の印刷は木版画方式。

 ただし普通の木版は凸版だが今回は凹版。

 説明文その他を凸版で彫る技術がないからだ。


 版木は僕の土地にある中で唯一普通の木材として使えるアルカイカ。

 まっすぐに伸びない樹形なので板を作るのには向かない。

 しかし版木くらいなら何とか作れる。


 きれいな面になるようカットした板を作成。

 水蒸気で出てくるヤニを取った後、圧縮しながら乾燥させる。 

 勿論この辺の作業は魔法だ。


 剪断魔法できっちり表面を平らにしたらいよいよ文字を彫る。

 勿論凹版だろうと手で彫る訳では無い。

 僕は自分がそこまで出来るほど器用であると思っていないから。


 作成手順はこんな感じだ。

  ① 紙に太字で商品説明を書く。裏写りするよう、薄い紙に油性インクを使って。これが原稿になる。

  ② 裏側が上にくるように、版木に原稿を貼る。

  ③ 反対返しになった文字や図柄の部分を意識し、その1㎜奥からこっちに向けて物質が動くようベクトル操作魔法をかける。

  ④ 凹版の版木、無事完成。


 なお凹版の版木用インクなんてものも持っていない。

 これも自作だ。

  ① アルカイカの枝を熱分解し、カーボンブラックに似た物質を生成

  ② 恐竜の骨髄や皮を高熱で蒸してゼラチン質を採取

  ③ ①、②、イルケウスの脂肪を80℃くらいでしっかり練り合わせる

  ④ 冷ましてほどよい粘度になれば完成。


 この辺は身近にある物で適当に作った。

 大昔に何かで読んだ書道用の墨の作り方を参考にはしている。

 凹版用のインクなので脂肪も使ったのが記憶との相違点。

 脂肪を使ったので揮発油と違って乾きにくい。

 でもこれは魔法で乾燥させれば問題は無いだろう。


 そんな訳で印刷作業。

 これは結愛の手を借りている。

 本人がやりたいと言ったのでお願いしたのだ。


 ① 結愛が版木にインクをつけ、ゴムべらで凹部に行き渡らせた後、余分なインクを取る

 ② 僕が紙を結愛の前にセット

 ③ 結愛が紙に版木を押し当てる

 ④ 僕が紙をはがして、魔法で乾燥する


 この繰り返しだ。

 なおこのチラシ、割と風情があっていい感じに仕上がっている。

 紙が日本で購入したコピー用紙を半分に切ったものというのを除けば、だけれども。


 更にはこのチラシ、少しばかり細工もしてある。

 その辺は言わぬが花という奴だ。


 それにしても家内制手工業の世界だな、まさに。

 家族全員でテーブルを囲んで作業している図をみてそう思ってしまう。


「漬物、梱包おわりました」


 美愛の作業が終わったようだ。

 ならこっちもそろそろ終わりにしよう。

 そこそこ充分な数は印刷できたと思うし。


「それじゃ印刷作業ぺったんも終わりにしようか」


「もう少しお仕事する」


 さいですか。

 どうやらこの作業、結愛はお気に入りのようだ。


「でもそろそろおやつの時間よ。その後水路にも行かなければいけないし」


「食べる! 水路も行く!」


 この辺は流石姉妹、妹の扱い方を心得ている。

 いや姉妹と言うよりお母さんに近いかなとも感じる。

 年齢が離れているし。


 一式を片付けた後、お昼の休憩時間。

 今日のおやつは団子だ。

 餡子っぽいものまでついている。


 食べて見るといかにもそれらしい味。

 強いて言えば餡が少しだけ粘度高めかな程度。


「美味しい!」


「団子も餡子も初めてだけれど美味しいな。でもどうやって作ったんだ?」


 小豆なんて何処にも無い筈だ。

 団子も材料に心当たりはない。

 米代わりのアローカは味噌等作業で全部使っているし小麦粉ならもっと風味が違う筈だ。


「団子はヘイゴから取った澱粉とクァバシンの幹から取った澱粉を混ぜて作りました。餡はこの前取りに行ったアルカイカの実と砂糖。あと色づけにアルカイカの近くで採取したクロショロというキノコを少しだけ使っています」


 うーむ、その辺の工夫の産物か。

 美味しくて何か懐かしい味だ。 


「これもあったら売れそうだよな。特に日本人に」


「まだ試作レベルです」


「このままでも充分美味しいと思うけれどな。団子も餡子も」


 実際凄いなと思う。

 僕ではこんな応用できないから。

 麹も醤油も味噌も、養殖場も全て文献等で調べてきたものばかり。

 どれも僕独自という訳ではないから。

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