第24話 ガサガサの代わりに

 結構まとまった雨が降った。


 水路も養殖場も大丈夫だろうとは思う。

 今までも何回か雨が降ったが問題なかったし。

 崩れそうな場所はあらかじめそれなりの対処をしてある。

 壁的な場所の土を乾燥させた後焼いたりして。


 ただ見ておくにこした事はない。

 それに気になる事もある。


「雨で水位が上がった影響も見ておきたいかな」


 養殖池本体の水の出入口は水路に面した1箇所。

 だから急激に水が流れたり入れ替わったりする事は無い。


 しかし水路は川の水位が上昇すると海へのバイパスとして機能してしまう。

 無論川の本流程の水が流れる事は無いだろう。

 それでも何か大きなゴミだの障害物だのが流れされてきて、つまったりする可能性は否定できない。


「何か捕れるかな」


「水位が高くなっていれば捕れないかもしれないな。流れているなら危険だから」


「つまらない」


「仕方ないでしょ」


 そんな事を話しながら歩く。

 近づくと案の定水路の水が流れていた。

 いつもなら潮位が低くて止まっている筈の時間なのに。


 他にも違いがある。

 更にいつになく大きな気配が水路上に感じられる。

 アルパクスやアルケナス程では無いが、イルケウスやミルロケナスよりは大きい。

 僕にとっては既にお馴染みの奴だ。


「美愛、わかるか」


「大きそうですね。行かない方が安全でしょうか」


「何かいる?」


 結愛もわかるらしい。

 僕は偵察魔法で先を視覚で確認する。

 やはり見覚えのある奴だ。

 こいつなら水路の上の通路から見える距離まで近づく分には問題無い。


「ダルサラスという水の中を得意とする恐竜だ。大きさはだいたいこのくらい」


 両手を広げて80cm程度の大きさを作ってみる。


 なお日本語で恐竜というと水棲爬虫類は含まない。

 同じ爬虫類でも一般的な恐竜とは系統上かなり遠いグループに属するから。


 ただここは惑星オース。

 全長50cm以上になる爬虫類は亀の仲間を除き全て恐竜扱い。

 ちなみに惑星オースではまだヘビは発生していない。

 参考まで。


「小さい恐竜。美味しい?」


 恐竜と聞いて美味しいと尋ねるとは。

 結愛もここの生活に染まったなと思う。


「脂がのっていて美味しいですよ。焼いても揚げても煮ても」


 以前1匹採って持って帰ったから美愛も知っている。


「ハンバーグにして食べたい」


「捕れればね。どうですか」


「もう少し近づいても大丈夫そうだ。注意してゆっくり行こう」


 水路が流れないときには通路にもなる2段目の場所に、本日は5cm程度の深さで水が流れている。

 増水といってもそこまで多くはないようだ。 


 しかし水が流れている場所を歩くわけには行かない。

 ダルサラスもいる事だし。

 だからその上、満潮時でも水をかぶらない通路をゆっくり歩いて行く。


 いた、ダルサラスだ。

 2段目の左側に陣取って休んでいる。

 以前ここで捕った奴よりひとまわり大きい。


「あれ、ワニ?」


 確かにこうして見るとワニにも似ているなと思う。

 細長い身体、長く裂けた口。

 少なくとも以前僕が思ったイルカとはかなり異なる。

 ただワニと比べると前後の足がひ弱だ。  


「ダルサラスという小さい恐竜よ。和樹さん、私がやってみていいですか」


 なら頼んでしまおう。

 どうせ解体や調理は美愛がやってくれているし。


「頼む」


「わかりました」


 美愛はさっと冷却魔法をかける。

 凍らない程度に。

 ダルサラスは少しだけ抵抗したがすぐ動かなくなった。

 更にもう少し強力な魔法で、頭の一部を氷点下に。


 ダルサラスの生命反応が途絶えた。

 倒したようだ。

 

「それじゃ収納します」


 美愛が近づく。

 僕は念の為周囲を念入りに確認。

 大丈夫、小物しかない。

 美愛は無事ダルサラスを収納する。


「ハンバーグ、出来る?」


「この時間からさばくのは大変だから、ハンバーグは別のお肉で作るから。それでいい?」


「わかった。ハンバーグならいい」


 それでいいのか美愛と結愛。

 まあ結愛がそれでいいなら僕は文句ないけれども。


 さて、水路は他に面白い事は無さそうだ。

 水が多いから下りて網でガサガサする訳にもいかない。

 そう思って、そしてふと思いつく。

 この状況でも試せる網があるなと。


「川の取水口の方へ行ってみよう。魚捕りが出来るかもしれない」


「危ない事はないですか」


「注意して行くけれどさ。一応美愛も警戒してくれ」


「結愛もやりたい」


「わかった。結愛もお願いな」


 水路の流れを見る限り増水はそこまで酷くないようだ。

 潮が勢いよく引いていく時間だという事もあるのだろう。

 上流の方を偵察魔法で確認。

 鉄砲水の心配もしなくて良さそうだ。


 歩いて行く内に水路の一番深い部分がなくなる。

 ここから3m程はこの深さだ。


 周囲の樹木も高さが低く葉の幅が広いオーラムになった。

 そして水路のその先は川の本流から導水するために掘った堀割になっている。

 幅は1m程度。

 水はやや濁り気味で予想通り小さな気配を数多く感じる。


 これなら捕れそうだ。

 そう思いつつ僕はアイテムボックスから投網とバケツを出す。

 投網は持っている2つのうち小さな方だ。


「今回はこの網を使う。本当は投網として投げるのが正しいけれど、今回は3人で協力してこの細い通路の中の魚を一気に捕る」


「どうするんですか?」


「まず結愛、ここと此処を持って待ってくれ」


 投網の重りの少し上部分を分担して3人で持つ。

 元々これはあまり大きい網では無い。

 完全に広がっても円の直径が3m程度だ。

 しかしこの小さい掘割なら問題無い。


「これで右手の重りを掘り込みの向こうに近い方へ、左手を彫り込みの手前部分へ投げるんだ。いっせいのせで行くぞ、いいか」


「うん」


「わかりました」


 わかったようなのでそれでは号令。


「それじゃ行くぞ、いっせいのせっ!」


 きれいな形では無いがとりあえず網は広がった。

 そして彫り込みの底へと落ちていく。


 重りが着底したのを狙って手縄を引っ張った。

 重い中、確かに生物が動く手応えがある。

 

「結愛も引っ張る」

「よし、ならこっちを引っ張ってくれ」


 底から網が離れたからもう問題無い。

 

 重りと、そして袋になった部分が出てくる。

 ゴミも結構入っている。

 しかし魚も、そしてエビもいる。


「捕まえる!」


「獲ったらこの中に入れてくれ」


 バケツに川の水を入れる。


 獲れたのは小魚と小エビが中心。

 あとは葉とかのゴミだ。

 それでもそこそこいい感じに獲物がいる。


「結構獲れましたね」


「ああ。さっきのダルサラスもあるし大漁だな」


「夜御飯で食べる!」


「なら揚げましょうか」


 うん、今日もいい一日だな。

 何となくそう感じた。

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