第18話 養殖場計画

 イロン村ではエビは売っていなかった。

 魚は少しだけだけれども売っていたのに。

 だからエビの養殖が出来ればいい商売になるだろう。

 そういう計画だ。


 イメージは東南アジアにあるようなエビ養殖場。

 育てる対象は大きさ20cm以上になるプラワナと呼ばれる種類。

 オースの温帯地域、汽水域や沿岸域の底が泥質の場所にいる。

 西側の境界線の川にもいる筈だ。


 養殖池が出来れば安定した収入が得られるだろう。

 しかも危険な場所へ行く必要もない。

 作業場と同じように周囲を囲んでおけばいいから。


 もちろん大きな養殖場なんて魔法を使っても1人が1日の作業で出来るものではない。

 まずはそこそこサイズのものを1週間くらいかけて作り、1年くらい操業しながら少しずつ増やしていこうという計画だ。


 実はこれについても日本むこうで関係論文を印刷してきている。

 つまりはまあ、予定通りという事だ。

 

 養殖池は拠点から西側、川に近いあたりに作る予定。

 養殖エビは完全な海水より汽水で育てた方が成長が早いとあった。

 それに僕の土地で底が泥質の場所は川の汽水域近辺しかない。


 養殖場の位置は川から50m、拠点から200m位の森。

 更に川から海へ繋がる全長160mの用水路を造り、そこから養殖場へ水を入れる。

 今日は水路を造る作業からだ。


「用水路を造る工事をするけれど、一緒に行くか」


「行く!」


 結愛が即答した。

 美愛が苦笑する。


「いつもと違う場所に行ってみたいんでしょう」


 確かにそうだな。

 危険な生物が出る可能性があるからあまり遠くへ行かせないし。


「それじゃ行くけれど、森の近くを通るから長袖長ズボンで靴下はいて、靴もしっかりした奴、帽子もかぶってな」


「わかった」


「わかりました」


 3人とも完全武装した上で身体強化魔法をかけて出発だ。

 まずは草地と砂浜の間を西、川の方へ向かって歩く。


「このまま川へ行くんですか」


「いや、途中から森を開拓していく。そこから川までまず道のような場所を作るつもりだ」


「森で遊べる?」


「何がいるかわからない。だから必要な場所以外は入らない方がいい」


 あの湿気た森の事を思い出す。

 この辺の森はあそこよりは生物の気配が少ない。

 けれど用心はした方がいいだろう。


「あと、この辺までは来ないだろうけれど川の上流で人を襲う恐竜も出てきている。だから注意して行こう」


「わかった」


「わかりました」


 話しながら歩くとすぐに予定地だ。

 立ち止まって偵察魔法と地図を見比べる。

 間違いない。


「ここから森の中に道をつくる。森の中はいろんな動物がいるから注意して歩こう。僕も注意するけれどさ」


「わかった」


「わかりました」


 それでは作業開始。

 まずは草地部分からだ。

 道を作るのと同じように植物を熱分解し、更に土を固めつつ進む。


 除草する幅は4m程度。

 水路1m、通路が水路の両側に1mずつ、爬虫類等避けの壁がその外側に50cmずつという計算だ。


「今すぐ掘らないんですか」


「とりあえず道を作ってからかな。掘るのは一度こうやって草や木を無くした後で」


「これは燃焼とは違う魔法ですか?」


「燃焼というか単なる熱魔法だな。火がまわりに広がると危ないから燃やすというより高熱で分解している形だ」


「なら私がやりましょうか」


 既に美愛も普通の魔法はある程度使える。

 しかし魔力はまだ十分ではないだろう。

 あまり無理はさせない方がいい。


「大丈夫。それにこのルートは僕の頭の中に入っているからさ、水路関係は任せてくれ」


 そう言って、そしてふと思いつく。

 

「その代わり美愛は周囲を警戒して、動物が出たら排除してくれ。この先は森の中での作業になる。それなりに出てくるだろう。


 基本的には変温動物ばかりだから冷やせば動けなくなる。冷やす分には周辺にそれほど被害が出ない。だから迷ったら冷やして様子を見てくれればいい。


 基本的に小物は殺して焼くか風で飛ばすか。ただ爬虫類は長さ20cm以上のものは取り敢えず頭を冷凍して殺して、アイテムボックスに入れておいてくれ」


「食用ですか」


 その通りだ。

 ついこの前まで日本の女子高生&幼稚園児だった2人には申し訳ないが、此処は惑星オースだから。


「ああ。恐竜、特に2本足で俊敏に動く連中は進化的には鳥に近い。身体の構造もほぼ同じ。だから充分食料になる」


「まさか恐竜を食べるとは思いませんでした。でも鳥や哺乳類を食べるより躊躇わなくて済む分、気分が楽かもしれないです」


「そう言ってくれると助かる」


 美愛も結愛もいい子だなと思う。

 普通の女子ならこの辺で文句をいいそうなのに。

 どこぞの野生女子は望むところかもしれないけれど。


 さて、木が生えている手前まで到着。

 それではまず剪断魔法でばっさりとやろう。

 音も無く根元が剪断され、木も草も向こう側へと倒れていく。


「これも魔法ですか」


「僕が開発したオリジナル魔法だ」


 そう答えてふと考える。

 美愛にも幾つかオリジナル魔法を教えた方がいいだろうかと。

 しかし僕のオリジナル魔法は微妙に癖があるので教えにくい。


 ちひあたりなら教えるのも簡単だろうなとふと思う。

 知識レベルがそう変わらないから。

 もっともちひなら必要な魔法は自分で勝手に作るだろう。

 僕が教えられる方になる可能性も高い。


 それでもオリジナル魔法の作り方だけは教えておいた方がいいだろう。

 僕のオリジナル魔法そのものは別として。

 美愛なりに使いやすいオリジナル魔法を作れるかもしれないし。


「午後の勉強時間にでもオリジナル魔法の作り方を教えるよ。美愛も基本の魔法がひととおり使えるようになったしさ」


「ありがとうございます」

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