第5章 開拓の開始

第17話 日課時限

 この開拓地に住民が2人増えて今日で3日目。

 生活はそこそこ順調だ。


 アラサー童貞的には堪える事もない訳ではない。

 風呂が3人一緒なのも固定化してしまったし。


 寝場所は一応わけた。

 突っ張りポールに布団用洗濯ばさみでバスタオル2枚をぶら下げ、仕切っただけだけだけれども。

 なお出入口は1箇所しか無いから僕の側は通路も兼ねる。


 寝ている間に襲いそうとかそういう意味では無い。

 結愛はともかく美愛も平気で着替えたりする。

 そんな時の被害を少しでも小さくする為だ。


 どうやら美愛、僕は家族同様だからその辺気にしない事にしたらしい。

 僕としては気になってしまう。

 しかしそれを表に出す訳もいかない。

 結局そのままだ。


 さてそれはそれとして、日課は日の出後30分程度で起床するところからはじまる。

 太陽光で外板が熱せられ、寝苦しくなった結果目が覚めるのだ。

 この世界の時計が無い現在はこれを目覚まし代わりに使っている。

 

 さっと着替えたら外に危険な生物がいない事を偵察魔法で確認し、隣の作業場へ。

 洗面、朝食、勉強等はここの屋根がある部分でやっている。


 朝食の他、料理は基本的に美愛の担当。


「何も仕事が無いと不安になります。和樹さんに雇ってもらったんですからちゃんと仕事をさせて下さい」


 そう美愛が主張した為だ。


 美愛も既に簡単な魔法は使える。

 魔力は惑星オースに住んでいれば魔法を使わなくとも得られるようだ。

 無論訓練したりした方が魔力が増えるけれども。


 そして一般的な魔法は名称と効果をイメージするだけで使える。

 幸い魔法についてはある程度Webページを印刷していた。

 それを美愛に見せて練習して貰ったのだ。


 その結果、美愛はわずか1日で日常生活に困らない程度には魔法が使えるようになった。

 僕より遥かにおぼえが早い。

 きっとそれは惑星オースに魔素マナが豊富だからだろう。

 僕はそう思う事にしている。


 さて朝食の後、3時間ほどは朝の勉強時間。

 教材は結愛用に貰った義務教育準備教材。


 この教材で学ぶのは文字や数字の読み方、書き方。

 簡単な単語、簡単な文章。

 つまりは国語の初歩といった内容だ。

 

 だから結愛だけでなく美愛にもそれなりに役に立つ。

 結愛がゆっくり勉強して、美愛がその遙か先を数倍の速さで勉強するという形だ。

 美愛がわからない事があれば僕が質問に答える。

 それ以外は基本的に僕は結愛に教える担当という事で。


 惑星オースは1年が9ヶ月、1ヶ月が29日か30日。

 1月1日が日本で言う夏至。

 そして今日は7月12日だ。


 貰った結愛用の事前テキストはおよそ3ヶ月分。

 だから今は本来の2日分を午前に1日分、午後に1日分やっている。

 ちなみに美愛は概ね1週間6日分を1日でやっている他、魔法の練習もしていたりする。


 本当は美愛用に僕が日本でやったようなWeb使用の教材があれば楽なのだろう。

 あれを毎日分印刷しておけば良かったと後悔している。

 もうあれを手に入れる方法は無い。


 今度イロン村に行ったら美愛用に語学学習用にちょうどいい本を見繕って買おう。

 次に行くのは当分先になるだろうけれども。 


 勉強が終わったら午前のおやつ時間。

 今回のおやつはシュークリームだ。 


「本当はもう少しふっくらと膨らんでほしかったんですけれど」


「美味しい」


「結愛の言う通り、充分美味しいと思う」


 このシュークリームを含めおやつ関係は昨日の午前中に大量に作った。

 ちょうど雨が降っていて外で遊べなかったから。


 レシピは美愛がおぼえていたもので作ったのも彼女。

 僕は水を出したりオーブンの代わりに鍋の中を一定温度に保ったり等。

 つまり手伝いと調理設備の代行作業だけ。

 

 結果、シュークリーム、クッキー、チーズケーキといった洋菓子類が大量に完成。

 こうやって1日に2回、3人で食べるには充分な量のおやつが確保された訳だ。

 アイテムボックス内は時間経過がないからいつでも出来立て。

 チーズケーキ等は少し寝かせたりもしたけれども。


 この辺は僕が出来ないし思いつきもしない。


「こういうお菓子とかは美愛のおかげで味わえる贅沢だな。料理も上手だし女子力高いというか。細かい所まで気が付くし助かる」


 何気なく思った事が口に出る。

 次の瞬間、強烈な勢いで美愛が僕の方を見た。

 

「本当にそう思いますか!」


 台詞に何故か妙な迫力を感じる。

 何か僕、変な事を言っただろうか。

 そう思うがわからない。


「ああ。本当ならモテそうだよな、顔も可愛いし。今は出会いが無くて申し訳ないけれど」


「本当にそう思いますかー?」


 文字にするとほぼ同じだが先程とはまた別の迫力がある。

 先程のは急性反応で今のは慢性反応というか。

 やはり考え直してみたが失言部分がわからない。


 どうリカバリーすべきか少し考え、結愛の力を借りる事にした。


「結愛もそう思うよな。お姉ちゃん料理上手だよな」


「思う!」


 予想通り結愛は元気よく答えてくれた。

 さて美愛の反応はどうだ。


「まあ小学校高学年くらいから家事関係は私がやっていますから。単なる慣れです」


 美愛はそう言った後小さくため息をついた。

 どうやら今のリカバリー策は失敗だったようだ。

 しかし美愛はどの辺にどう反応してどう考えたのだろう。

 女子は難しくてよくわからない。


 おやつの時間が終わったら、昼食まではお仕事時間。

 そして昼食から午後のおやつまでもお仕事時間。


 料理の他にも美愛には幾つか作業をお願いしている。

 働かないと申し訳ないと彼女が言うから。

 だから食料関係は美愛の担当。


 具体的には

  〇 毒抜き中の木豆の水替え

  〇 木豆の幹からデンプンをとって水にさらす作業

  〇 ヘイゴの芯を取り出して調理用に切り分け

  〇 ヘイゴの新芽を採取して皮をむき食べられる状態にする

なんてのが主な作業だ。

 結愛も一緒に手伝っている。


 一方僕はそれ以外の作業色々。

 昨日は作業場の一角にトイレを作った。

 拠点の出口前に壁と屋根もつけた。

 そのうち拠点も含む全面に屋根をつけて、全部あわせて1つの小屋のようにするつもりだ。


 ただ仕事時間だからと言って仕事ばかりしている訳では無い。

 それでは結愛が退屈する。


 だから時間と結愛の様子を見て、3人で近くへお出かけなんて事もする訳だ。

 少し離れた河口部とか、西側の崖下にある岩場方面とか。


 あと家の前の砂浜に遊び場を作ったりもした。

 ここの海はすぐ深くなって結愛が泳ぐには危ない。

 だから安全な遊び場が必要だと思ったのだ。


 まずは砂浜を掘り下げる。

 砂をアイテムボックスに収納、別の場所に出してを繰り返して。

 左右と陸側にはヘイゴの丸太で土止めを作り、沖側へは砂の流出防止用に砂止めの丸太1本を固定して完成。


 かかった時間は昨日の昼食後、1時間弱程度。

 構造的には外側が海と繋がっている海水プールで長さ50m程度、幅が20m。

 深さは遠浅の海岸風にゆっくり深くなって行くタイプ。

 昼の満潮時で深さ60cm~1m程度、朝の干潮時には水がない状態だ。

 遊ぶのは主に昼だから満潮時~下げ3分くらいがちょうどいいように作ってある。


 さて、昨日で3人での住み家がある程度出来上がった。

 今日からは本格的な開拓・開発作業にもとりかかる。


 とりあえず僕がやろうと計画している事は2つ。

 麹菌作業と養殖場作業。

 他にも牡蠣養殖等、日本にいる間に考えたり方法を調べたものはいくつかある。

 でもとりあえずはこの2つの作業から。


 ちひの作った干物やさつま揚げが売れている。

 つまり日本食的なものにも需要があるのだろう。

 なら醤油や味噌があれば売れる筈だ。

 しかし少なくともイロン村には売っていなかった。


 麹菌があれば味噌や醤油が作れる。

 日本酒やみりんも作れるかもしれない。

 そして麹種なんてものも扱っていない。

 ならばこの辺に成功すれば独占可能な商売が出来る可能性がある。 


 その麹菌作業は昨日夜から細々と始めた。

 勿論麹種なんてものは無い。

 自然の中から麹菌を手に入れる作業からスタートだ。

 そして此処に麹菌とそっくりの性質の菌が存在するならば、採取して単離する方法がある。


 以前古本屋で手に入れた、『灰と日本人』という本。

 農大の名誉教授が書いたものだがこの中に『木灰を使ってカビだらけのご飯から麹菌を単離する』なんて方法が載っているのだ。


 日本にいて移住計画を練っている時、使用する可能性があると思い読み直した。

 更にこれに類した論文もWeb検索して印字。

 

 麹菌を得る方法は、本にある方法を更に簡単にすると、

 ① 米を蒸したものを入れ物に入れて放置

 ② カビの小さなコロニー(集落)が出来る

 ③ 木灰を表面が薄い灰色となる程度に上からふりかける

 ④ 1日1回、③の作業を続ける

 ⑤ ④の作業をはじめて10日目以降に表面をすくい取り、自然乾燥させる。

 ⑥ 米を蒸したものを別に作り、⑤を振りかけて放置

 ⑦ ⑥に麹が繁殖する

といった流れになる。


 なお此処は惑星オース。

 米がないので代わりにアローカを使う。

 アローカは本来は小型の松の実みたいな代物。

 しかしオースでは米の代用品として流通している。


 蒸した後少しだけ味見したが確かに米に近い。

 粘りがやや少ないかな程度だ。

 僕の違いが分からないハッピーな舌によると、だけれども。


 この麹菌作業は昨日始めたのでまだ2日目。

 まだカビが生えていない状態だ。

 魔法で軽く湿気を与えて本日の作業完了。

 なおこの件については美愛や結愛にも言ってある。

 だから掃除等で片付けられる事は無い。


 しかし自然に生えて、単離させて、麹種をつくるまでにはまだまだ時間がかかる。

 だからそれまではもうひとつの作業をする予定だ。

 養殖場、まずは建設作業から。

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