第8話1 安全第一

 周囲の植生が変わった。

 森を構成する主な樹種がヘイゴになり、下草が小シダに変わりやや密になった。

 傾斜も川の流れも緩やかになる。


 更に進むと川の流れ周辺が泥地になり歩きにくくなった。

 潮の香りもする。

 この辺はもう汽水域らしい。


 そして川沿いの泥地には今までとまた種類が違う、高さ5m位の樹木が生えている。


『オーラム 汽水域の泥地に生えるシダ類の一種。汽水域に適応し塩分を排出する機構を持つ。食用にはならない。地球上にあるミミモチシダ類と同様だがより原始的な種』

 

 なるほど、マングローブのシダ植物版みたいなものか。

 役に立たないなら無視しよう。

 ただ川岸近くが水中までオーラムの森と化してしまったので歩きにくい。

 いっそ川の中の方が歩きやすいだろうか。


 そう思った時川面に魚と違う大きめの気配を感じた。

 とっさに身構える。

 

 イルカに似ているが背びれがなくもっと小型の何かだ。

 大きさは全長50cm位とそこまで大きくはない。


『ダルサラス 半水生の爬虫類。主に魚食。全長最大80cm程度』


 これも爬虫類なのか。

 偵察魔法で確認すると大きな口と並んだ歯が見えた。

 どうやら不用心に川に入るのも危険なようだ。

 

 少し考え、今までより川から遠い場所、オーラムとヒカゲヘゴの境くらいを進む事に決める。

 オーラムの方が背が低く、道を作りやすそうだったからだ。


 幸い午前中のあの湿気た森ほどの生物の濃さはない。

 それでも同じように幅3mの歩ける場所を作りつつ歩く。


 前方が明るくなる

 周囲が開けた。

 砂浜手前の草地だ。

 ほっと一息つく。


 周囲が森という状況と比べると格段に見晴らしがいい。

 それにここまで来れば拠点はすぐだ。

 ガラス窓すらないアルミコンテナなら大型爬虫類でも防げる。


 アルパクスの解体は外に作った作業場でやるべきだろう。

 コンテナ内では血で壁まで汚れそうだ。

 しかし血の匂いで周囲の森から何かが出てきたら。

 そう思うと外で作業するのは怖い。


 アルパクスが森の中から出てくる可能性は低い。

 ある程度開けた場所の方が有利な体型と狩りのスタイルだろうから。


 しかし海側、草地に出てこない保証はない。

 そうなると奴の足の速さは脅威だ。

 先程のやや開けた森のような場所よりは餌が少ない。

 だから可能性としては低いだろうけれども。

 

 よし、帰ったら拠点と作業場の周囲に塀を作ろう。

 周囲の木を伐採し土を掘り、その土を固めて塀にすればいい。

 焼き固めればそれなりの強さにはなる筈だ。

 解体作業はそれからにしよう。


 拠点から海に出る為に造った道が見えて来た。

 ほっとするとともにどっと疲れを感じる。


 取り敢えず休もう、安全な拠点内で。

 塀つくりや今回収納した物の処理は休憩した後でだ。


 扉を開け中に入る。

 熱された空気がむっとするが、まずは扉を閉めて安全になってから。

 灯火魔法、冷却魔法と起動してやっと一息。

 今朝起きて出したままのベッドに倒れ込んだ。


 ◇◇◇


 翌朝まで十数時間寝た後、蒸し暑さで目が覚める。

 単なるアルミバンのコンテナではなく元保冷車のコンテナにすれば良かったかな。

 保冷車用のコンテナなら断熱材が入っているからもう少し快適だろう。


 実際3万円違いで保冷車用のもあって迷ったのだ。

 しかし断熱材その他の関係で少しばかり重かった。

 移動して運用する可能性も否定できなかった為、少しでも軽い方を選んだのだ。

 当時はアイテムボックス魔法の容量に自信が無かったから。


 でもまあ、過ぎてしまったことは仕方ない。

 そう思って起きて立ち上がろうとして気付く。

 筋肉痛が酷い。

 身体強化魔法で筋肉痛までは防げないようだ。


 筋肉痛は治癒魔法で良かった筈。

 1回、そしてついでに回復魔法も起動する。

 ベッドから起きて立ってみたところ疲れも筋肉痛も消えていた。

 やはり魔法は便利でいい。


 まだアイテムボックスに入金は確認できない。

 今日は作業場に壁を作り、昨日捕った草や獲物の処理をする事としよう。


 外に出る前に偵察魔法で周囲の安全を確認する。

 問題はないようだ。


 外は眩しい位に明るい。

 母恒星は太陽より小さめで色もやや赤に近い筈。

 しかし僕が見る限り太陽との違いをあまり感じない。


 そして此処は僕が住んでいた北関東の田舎よりかなり暖かい。

 この惑星オースそのものが地球よりやや暖かいのだ。

 二酸化炭素濃度が高めでその分温室効果がかかっている。


 これでも五千年前位と比べると平均で10℃位冷えているそうだ。

 二酸化炭素濃度も当時よりかなり低くなった。

 結果南北極地にある大陸の氷山が発達し海面が下がった。

 そうWebには書いてあった。


 さて、それでは安全で安心な作業場にする為作業をはじめよう。

 しかしその前に腹が減ったと感じる。


 僕は基本的に朝食は食べない。

 理由は簡単、実家で朝から老人達と顔をあわせたくなかったからだ。

 だから結果敵に朝食抜きの習慣がついてしまった。


 だから普段なら朝食を食べなくても腹が減ったと感じる事はない。

 しかし考えてみたら昨日、夕食を食べていなかった。

 これでは腹が減るのも当然だ。 

 

 アイテムボックスから作業台にも使っているテーブルと椅子を出す。

 アルミパネル内の拠点よりこの作業場の方が快適だから。

 壁はないけれど、魔法で周囲の安全を確認済みなので問題無い。


 主食は半額シール付おにぎり、おかずは1日目の夕食の残りのスコンバの刺身。

 1日目に使った、醤油やワサビが残った皿を出し、そのまま使用。


 朝から刺身とはなかなか贅沢でいい感じだ。

 そう思いつつおにぎり1個と刺身7きれを食べる。


 あまりたくさん食べると眠くなるだろう。

 だからこの程度でいい。

 テーブルや椅子、食器類をアイテムボックス内に片付ける。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る