プロローグ3 移住場所の決定

 それでは移住場所の調査及び選定をしよう。

 大雑把な処までは既に決めている、

 異世界、惑星オースの南半球にあるヒラリア共和国。

 ここの南西部にある『ヒラリア共和国特定開発推進区域』だ。


 これはちひの居場所がある程度掴めたからだ。

 ちひの奴、1つの暗号だけでは伝わるか心配だったらしい。

 それとも漢詩暗号が消される可能性を想定していたからなのだろうか。


 ちひは署名の飾り部分にもう一つ、もっと簡単かつわかりにくい暗号を隠していた。

『Œ蠃䜀ʈᚒ⠔』なんてゴミみたいな文字列がその暗号だ。


 この暗号にはなかなか気づけなかった。

 メールを何度も見た結果、ある日署名欄に他のメールと違うゴミがあるなと気づいてやっとわかったのだ。


 解読は苦労した。

 そう言えば物理専攻のちひは元素周期表をオガネソンまで暗記していたな。

 それを思い出し試行錯誤した結果、3日目にやっと解けたのだ。


『Œ蠃䜀ʈᚒ⠔』をUNICODE表を見ながら16進数のコードに変換すると『0153 8803 4700 0288 1692 2814』となる。

 これを2桁ずつにして『01、53、88、03、47、00、02、88、16、92 、28、14』にする。


 これを原子番号として、それぞれの元素記号になおす。

 この時本来16進表記の筈の2桁をあえて表記のまま十進数として読むのがポイントだ。


 これが間違いなのかわざとなのかは僕にはわからない。

 あえて機械的な方法で解読しにくくしているという可能性があるからだ。

 これが暗号だと気づかれないように。


 10進数値として原子番号になおし、これを元素記号にすると『HIRaLiAg HeRaSUNiSi』となる。

 つまり『ヒラリアg、ヘラスニシ』だ。

 gが余分だが、これはAという元素記号が存在しないからだろう。


 ヒラリアとは異世界移住先である惑星オース上の国、ヒラリア共和国。

 ヘラスとはその南部にある都市名だ。

 その西側には『ヒラリア共和国特定開発推進区域』がある。

 移住者や移民を募集している区域だ。


 つまりちひはそこに移住したという事だろう。

 そしてこの場所、今でも移民受け入れ実施中だ。


 ただこの開発推進区域、かなり広い。

 区域全体は南北最大400km弱、東西最大160km弱くらいある。

 ヘラスの西という条件に当てはまりそうな場所だけでも東西方向、南北方向ともに100km以上。


 パソコンを操作し移住希望場所予約のWebサイトへ。

 ここからヒラリアの開発推進区域の詳細を見たり移住予約したりする事が可能だ。


 まずは予約状況を確認。

 海沿いだけでも70以上が予約済み、もしくは既に移住済み。


 このうち何処がちひのいる場所かはわからない。

 条件にあう場所を全て訪問するのは困難だ。 

 先程の広い範囲に点在しているから。

 それに僕のこの推測が外れている可能性もない訳ではない。


 そんな条件の中、僕が選ぶべきと考えているのは次のような条件の場所だ。


  ① ヘラスの西、海沿いで

  ② 移住可能な開発区域内で

  ③ 既存集落から比較的近い場所

 

 ①はまあ、ちひがいそうな場所の近くという事で。

 近い場所なら集落に出る際、同じ経路を使う可能性がある。

 しかも海沿いなら海産物から蛋白質等を採る事も出来る。

 自然相手にサバイバル的に生きるにも有利だろう。


 ②は移住する関係上、手続きの問題からの必然だ。


 ③はちひを探す関係上、集落等へ出向くことが多くなるだろうから。

 それなら集落からは近い方が絶対的に便利だ。


 自分の土地が集落から遠ければその分時間と体力を使う事になる。

 更に僕は体力に自信がない。

 元々持久走等の種目は苦手だ。

 しかもここ数年、田舎居住で近場を動く際も自動車という生活。


 ヘラス西という条件の開拓区域に最も近い集落はイロン村。

 今回募集中の区域より前に開発された場所で、ヘラスから北西へ概ね60km位の場所だ。

 ここから近い順に海岸沿いの区域を見ていこう。


 一番近い場所付近はとりあえずパス。

 理由は東向きに尾根があって暗そうだから。

 地形による日当たりは山を削らない限り変えられない。


 ヒラリアは惑星オースの南半球に位置している。

 だから日照を考えたら北側が開けている場所で、東西に高い山が無い場所。

 そうなると第一候補はイロン村の北西40km付近の一帯だ。


 イロン村に行きやすそうな場所から順に見ていく。

 この辺は北東方向から続く山地が海に落ち込む地形。

 だから仕方ないといえば仕方ないが傾斜がそこそこあって、かつ海沿いが概ね20m以上の崖。


 どうせ移住するなら海を気軽に楽しめる処がいいだろう。

 もちろん楽しいからだけではない。

 海産物を捕りやすいからだ。

 サバイバルしやすい条件は出来るだけ揃えた方がいい。


 十数カ所目にやっと海に出られる場所があった。

 西側に小さな川が流れている区画だ。

 この川のおかげで700m位の砂浜がある。

 ただ土地そのものが急傾斜であまり開発に適さない。


 この辺はどうやらあまりいい場所が無さそうに感じる。

 予約済み場所もほとんどが海から離れた、標高があって平らな場所ばかりだ。


 1時間ほど見てみたが、この場所にはあまり良さそうな場所は無かった。

 なら次の区画を探すとしよう。


 次に探そうと思った区画は先程よりイロン村に近い。

 およそ30~35km位の場所だ。


 ただし最初に見なかった理由は勿論ある。

 場所が北向きに開いた湾の中。

 だから東西方向の日照が遮られるのではないかと思ったのだ。


 それでも山地から遠い場所を選べば何とかなるかもしれない。

 そう思って日当たりの良さそうな場所を見てみる。


 3件目で悪くないと感じる場所を発見した。

 西側に川があり、中央に全長700mと小さめの浜がある場所だ。

 先程見た場所程傾斜も厳しくない。

 低地でそこそこ平らな場所もありそうだ。


 周囲の地形から、これより良さそうな場所は無いだろうと判断する。

 あとはもっと日照条件が悪いか集落から許せない位に遠いか。

 少し迷うが予約してしまおう。

 予約の訂正はある程度可能なようだから。


 予約してからもう一度場所の詳細を確認する。

 標高150m程度の台地が川で削られ北側に向けて落ち込んでいくような地形だ。

 その川は区画の西側を流れていて隣の区画との境になっている。

 北側は海で、川から東へ700m位が砂浜、その先は標高20m程度の崖。


 東側はやや低い支尾根が隣の区画との境になっている。

 その尾根は概ね南方向へ延び、平面距離1km程度で150m程登ってもっと長い東西に走る尾根に合流。


 この東西に走る尾根が南側の主な境界線となる。

 厳密には南西側の境界線の一部はこの尾根の支尾根で、そこから川へと境界線が繋がる形だけれども。


 南側の境界である東西に走る尾根はあまり起伏がない。

 標高概ね150~200m程度で東側に長く続いている。

 この尾根筋がイロン村へ向かう為の推奨ルートだ。

 徒歩でしか通れないが、それでも海側や他の場所を通るより起伏が少なく歩きやすいらしい。

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