第2章 所有地の調査

第5話 探検開始

 今日は自分の土地の境界確認をする予定だ。

 今まで集めた情報ではさほど危険な動植物は存在しないとなっている。


 しかし実際そのとおりなのか。

 ヒラリア人の感覚ではさほど危険ではなくとも日本人の感覚ではどうなのか。

 その辺は実際に行ってみないとわからない。


 ヒラリアで最も危険とされているのは大型犬サイズの肉食爬虫類、アルパクス。

 形は映画のジェラシック・パークに出てきたラプトルに似ている。

 だが映画よりは小柄でドーベルマンよりやや大きい程度。

 全身は鱗や皮ではなく灰色の羽毛で覆われている。


 Webの情報では30km/h以上の速度で走るとのこと。

 こんなのに襲われたらたまったものではない。

 

 このアルパクス、自分より体高がある人間は滅多に襲わないとされている。

 しかし中には例外もいるだろう。

 向こうに気づかれる前に逃げるのが賢明だ。

 気づかれてしまったら魔法で倒すしかない。


 あとはそれより大きいが草食の爬虫類アルケナス。

 本来は大人しい動物だが突進を受けたら命に関わる模様。

 アルケナスは小規模の群れを作っている事が多いらしい。

 だからこれも近づかないほうが賢明だ。


 他に虫や小型爬虫類等もいる。

 しかし直接人間に害をもたらすものはいないとされる。


 たとえば大型ムカデなんてのもいるが、素手で掴んだり素足で踏む等しない限りは問題は無いそうだ。

 蚊等の有害な小型生物も人間を対象にするタイプはいない模様。


 この辺は人間が惑星オース本来の生態系の産物ではない為だろうか。

 魔法だの惑星開発だのをやっている不明な知性がコントロールしている故なのか。

   

 とりあえず魔法で周囲を常に警戒。

 大型の生命反応があったらいつでも魔法で攻撃できる態勢で行こう。


 さらに歩く場所は足下が見えないような場所は避け、場合によっては魔法で視界を妨げる植物を分解等してから歩く。

 その辺を心がけておけば問題無いだろう。


 それでも足下は一番危険なので靴はコンバットブーツ。

 もちろん移住用に購入したものだ。

 本物ではなくサバゲー用だが、それでも虫にかみつかれた位ではびくともしないだろうし。


 上も長袖長ズボン手袋帽子装備。

 気候が温暖なのでそのままでは多少暑い。

 しかしこの世界では魔法で冷やすことも可能。

 だから問題は無い筈だ。


 本日の予定コースは、

  ① 海岸を東へ向かい

  ② 東側の境界である尾根線をたどり

  ③ 南側の主脈稜線に出たら西へ向かい

  ④ 境界線の支尾根を降りて

  ⑤ 境界線の川を下る

というルート。


 地図上での測定によると移動距離は5kmちょい。

 実際は傾斜があるのでもっと長いしきついだろう。


 ただ1日あればなんとかなるだろうと思う。

 主に尾根筋かゆるい川沿いだから、他より歩きやすいだろうし。

 それにいざとなれば奥の手もある。


 そんな計画で僕は拠点を出発。

 砂浜と草地の境を東へ。


 草は基本的にあの蘭と昆布を合体したような幅が広く長いがやる気がなさそうな草。

 食べられそう、もしくは役に立ちそうな植物が生えていないか見ながら歩くがいまのところ無し。


 今後の事を考え歩く部分は熱魔法で除草しておく。

 土を熱で固める程の熱量でないので魔力消費は問題ない。


 5分程度歩いたところで僕は足を止める。


 この先200m程度のところで砂浜と草地からなる低地が終わり、その先は海面から30m程度の高さの崖となる。

 低地と崖の境はπ/630°程度の急傾斜だ。


 ただ足を止めた理由は地形の変化のせいではない。

 大型生物の反応が偵察魔法の範囲に入ったからだ。

 僕はその周辺に焦点をあて、更に詳細を確認する。


 確認できるのは全部で6頭。

 草地から森の中に10m程度入った場所にいる。


 大型犬より更に大きめ2頭とそれより小さい4頭。

 サイと猪の中間のような体形に、黄緑色の鱗で包まれた身体。


 ヒラリアでは最大級の爬虫類、アルケナスだ。

 下草がうっそうと生え茂っている中で食事中。

 

 付近の森や草地部分を観察してみる。

 どうやらこの先から崖の下部分までは今までと植生が違うようだ。


 見てすぐわかる違いは下草の量。

 草地部分も砂浜に近い一部を除いて背が低い植物がもわっと茂っている。

 典型的な小シダ類以外も多い。

 森の中も拠点付近とは明らかに違う下草の種類と量だ、


 樹木も違う。

 家の近くのヘイゴと一見した形は似ているが別種類だ。

 知識魔法によるとやはりシダ植物でより湿気た場所を好む種類とある。


 つまりこの植生が違う部分は拠点周辺より湿気ている訳だ。

 崖が近く風が通りにくいせいだろうか。

 それとも土地の高低差に沿って水が出ていたりなんてするのだろうか。


 この奥にアルケナスの巣があるのだろうか。

 それとも他の場所から餌を求めて出て来たのだろうか。

 いずれにせよこの植生が違う部分がいい餌場になっているようだ。


 どうしようか。

 もう少し接近すればアルケナスも魔法で倒せる。

 立木でのせいで動きは限られるだろう。

 だから進路の延長線上に立たないよう近づき、低温魔法で一気に冷やせばいい。


 僕のアイテムボックス容量は推定2,700kg。

 家代わりのコンテナや家具一式を出したから余裕がある。

 全部倒しても収納できる筈だ。


 ただこの大きさの代物を自分で捌くとなると面倒だ。

 しかも確実に倒すにはそれなりに魔力も必要となる。

 そして僕はまだ所有地一周の旅に出たばかり。


 この場合の最適解は『この辺にアルケナスが出る』という事だけを記憶して迂回する事。

 僕はそう判断した。


 進路を確認する為、アイテムボックスから地図を取り出す。

 更に偵察魔法の視点を上空から見下ろす形にして、地図と合わせて確認。


 アルケナスに近づかずにぐるっと迂回したい。

 あと、出来ればあの湿気た部分を避けたい。

 下草が多くて歩きにくそうだ。

 偵察魔法で見える植生を考慮しつつルートを考える。


 植生が違うのは概ね東へ200m、南側へ300m位。

 地形的には東側の尾根筋から出た小さな支尾根に囲まれ、盆地状になっている場所。


 なら南側へ向かってこの支尾根を辿り、盆地の外側を迂回しながら崖の上を目指せばいいだろう。

 偵察魔法で支尾根に続きそうな場所を探す。


 良さそうな獣道があった。

 ここから西側へ50m程戻った場所だ。


 更に偵察魔法で獣道の先を探る。

 何カ所か分岐をしながら概ね支尾根の通りに続いているようだ。

 僕が歩くのに十分な広さがある。

 あのアルケナス以外に大型の動物もいないようだ。


 この偵察魔法もなかなか便利でいい。

 僕が独自に構築したものだけれども。


 なお惑星オースでこのような用途に一般的に使われているのは警戒魔法だ。

 偵察魔法と同様に視覚、音、温度、魔力等を感知する事が出来る。


 オースの住民は魔法を使えない乳児や幼児以外はほぼこの魔法を常時発動しているそうだ。

 一般的な五感とほぼ同様の感覚で。

 僕もこの警戒魔法も常時発動させている。

 自分の周囲を確認するのには便利だから


 一方で偵察魔法は常時ではなく任意発動。

 実際にはほとんど常時発動しているけれども

 更に警戒魔法と異なって視点を移動させる事が出来る。


 もっとも山に入るような人は似たような独自魔法を持っている可能性がある。

 あるいはもっと便利な魔法もあるのかもしれない。

 オースでは割と簡単に独自魔法を作れるようだから。


 さて、それでは森に突入しよう。

 僕は獣道に踏み込んだ。

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