第4話 初日の終わり

 本日の収穫で夕食にしよう。

 知識魔法で調理方法を確認する。


 巨大ゼンマイは表面の毛と皮をむき、適当に切って煮るとある。

 他に揚げるのもお勧めらしい。


 揚げるのは面倒だから……

 そう思いかけて、アイテムボックスを使えば面倒でもないなと考え直す。

 むしろ調理時間が短めなだけ煮るより楽かもしれない。


 なら今日は揚げるとしよう。

 揚げ物は山菜の調理方法としても王道だ。


 包丁で表面の皮ごと毛をとると太い緑色の茎という感じになった。

 先に行くほど細くなるが、太い部分は僕の腕くらいある。

 これを5ミリくらいの厚さに切って準備完了。

 後は衣をまぶして揚げればいいが、その前に魚のほうも手をつけておこう。


 まずは数があるシプリンから。

 形は普通の魚だ。

 顔はアジ、胴体は鯉、尾びれは何だろう、スマートでやや大きめ。

 色は銀色でいかにも海の魚ですと言う雰囲気だ。


 つみれにして食べると知識魔法にはあった。

 しかし日本人なら魚はまず刺身だろう。

 

 大きい鱗は包丁より手で落とした方が早い。

 バケツを出しさっと鱗やごみを水洗いし、ついでに手も洗って魚をまな板に載せる。


 頭を落とし3枚におろした時点で少し嫌な予感がした。

 見た目は綺麗な白身なのだが水分が多く崩れやすい。

 おまけに妙なところにごつい骨がある。

 

 骨部分の身を手ですきとって味見。

 あまり美味しくない。

 水っぽくて味が薄く、やや鉄っぽい風味もある。

 

 これは刺身には向かない。

 むしろ水分が多く崩れやすいのを活かして、身を外して団子にしてしまった方がいい。

 知識魔法で『つみれにして食べる』とあったのは正しいようだ。


 ならこれも揚げてしまおう。

 妙な風味を消す為少し混ぜ物をした上で。


 指の力だけで崩れるくらいの身なので、そのままの形でと考えなければ骨を取るのは容易い。

 骨を取って崩れた身をボウルに集める。

 あとは味噌と片栗粉を加えて混ぜ混ぜ。


 残り2匹は明日以降、釣りをする際の撒き餌にしよう。

 これを揚げたものが美味しかったら別だけれども。


 あとは美味しそうな方の魚もさばいておこう。

 こっちは生でも食べられると書いてあったから期待している。


 ◇◇◇


 揚げつみれと揚げ巨大ゼンマイはそこそこ美味しかった。

 しかしスコンバの刺身は比べものにならない位美味しい。

 たとえるならカジキマグロだろうか。

 白いご飯に合いそうだ。


 いずれ白米、醤油、わさびの代用品も手に入れたい。

 しかしWebで調べた限り此処には味噌や醤油は無い。

 日本人の移住者がいなかったのか少なかったのか。


 白米には代用品があるらしい。

 植物の種類としては稲と全く違うけれども。

 種子植物、しかもイネ科はかなり進化した種類だ。

 この世界の様子では広がっていなくても不思議ではない。


 さて、食事が終わったので片付けて明日以降の計画立案。

 流しがないので洗うのが手間。

 だからそのままアイテムボックスへ収納。


 これで皿に残った醤油やワサビは明日以降も使える。

 アイテムボックス内はこぼれたり他を汚染コンタミする事はない。

 やはり魔法、便利でいい。

 

 それでは明日の行動を確認しよう。

 僕はアイテムボックスからファイルを1冊取り出す。


 開いたページはこの周辺の地図だ。

 地形だけでなく目標物だの目印になる物だのまで記載してある。


 明日からは僕が手に入れた土地の調査だ。


 僕の所有地は広さは東西南北どの方向にも概ね1kmくらい。

 北側は海岸で西側は川、南と東は山というか台地。

 東側の境は尾根線に沿っている。

 南側の境は尾根に沿った形で、将来の道路用地として国によって広めに確保されている。


 明日はこの地図を見ながら所有地の外周を回ってみる予定。

 そしてやろうと思っている作業もある。


 ポリプロピレンの赤い紐500m巻きを20本買ってある。

 この紐で僕の区域の東側と南側をぐるっと囲って目印にするつもりだ。

 ついでにある程度は歩ける道もつける予定。


 土地の所有関係は結構問題が起こりやすいと聞く。

 ヒラリアでもそうなのかはわからない。

 しかし対策をしておくにこした事は無いだろう。


 僕がここへ転移する前日まで、両脇の土地には移住予約者がいなかった。

 だから今のうちに対策をした方がいい。


 もちろん外周をまわるのは所有地の境界を主張する為だけではない。

 地図だけではわからない現況を見る。

 これが本来の目的だ。

 どんな植生かとか、どんな生物がいるかとか。


 1日では終わらない可能性もある。

 しかしそれはそれで構わない。

 どうせあと5日間程度は僕の土地から動かないつもりだ。


 ちひは僕より1ヶ月早くヒラリアに移住している。

 だから今更焦る事は無い。

 そして移住事務局が僕の貯金等を整理してヒラリアの通貨に両替してくれるまで、先立つ物もない。


 お金は移住からこの世界の1週間、つまり6日以内に届けられる予定だ。


 通常の場合は、

 ① 1週間6日後にこの世界に留まるかどうかを決め

 ② その後事務局が退職や貯金解約等の手続きを代行し

 ③ 概ね移住から10日後にアイテムボックスに自動的に入っている形で両替した通貨が届けられる

という手順になる。


 しかし僕はもう日本に戻る気はない。

 この世界に転送前にその旨を事務局に連絡した。

 だから①の作業がない分、入金が早くなっている。


 だから

 ➀ まず自分の所有となった土地を確認し

 ② その時点で食っていく方法の目処を立て

 ③ 入金を確認したら集落に行く

 これが当初の方針だ。


 ちひが行きそうな集落の目処はついている。

 奴が移住したのは特定開発推進区域で、『ヘラスの西』。


 なら行きそうな集落は、

  〇 海側で最も近い集落であるイロン村

  〇 近い中で最も大きく、ヒラリア共和国の指定都市でもあるヘラス市

  〇 山間部の農産物集積地であるヘッセン村

の3カ所。


 このうち最も近いイロン村に最初に行ってみるつもりだ。  

 小さい分、移住者の情報も入りやすいだろう事を期待して。


 そんな訳で入金があるまでは所有地の確認。

 そしてここで生きていく方法の調査確認。


 何せ僕はこの先、この国で生きていくのだ。

 その辺の基盤は最初に固めておかないとなるまい。


 さて、疲れたから寝るとするか。

 今日は風呂はパス。

 大量にお湯を沸かすには魔力が心許ない。


 ベッドに入り灯火魔法を解除。

 真っ暗だが魔法で外の様子もわかるので怖くはない。

 僕は目を閉じる。

 睡魔はすぐにやってきた。

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