宿題

福田 吹太朗

宿題



◎登場人物

・サトウ タカシ ・・・小学5年生。算数が苦手。しかしその歳で推理小説を読んだり書いたりしている。

・お母さん(サチコ)・・・ごく普通の主婦。時々パートには行っている。

・ヨシヒコ ・・・タカシくんの父親。仕事で海外に出張中。


(ナカムラさん夫婦)

・おじいさん ・・・犯人達に監禁され、息子に現金が要求される。

・おばあさん ・・・右に同じ。機転が利く。


・犯人1(エニグマ)・・・身代金を受け取りに行く。がっしりとした体型。

・犯人2(マジック) ・・・ナカムラさん宅に残る。間が抜けてはいるが、愉快な人物。

・犯人 主犯格(プリズム)・・・グレーのスーツに、黒い雨傘の男。指示をあれこれ出す。抜け目が無い。


・サトル ・・・タカシくんの同級生。

・アスカ ・・・同上。

・警官 ・・・低姿勢で親切だが、詰めが甘い。

・特殊部隊員 

・ガス工事人




1 買物


 ・・・マサヒコくんは、500円玉を持って、1個100円のリンゴを3個買って、10%の消費税を支払いましたが、家に帰る途中で気が変わって、そのうちのリンゴ1個を、150円のブドウに変えてもらいました。・・・さて、一体いくらのお釣りを持って帰って来たでしょう?

・・・と、いうのが・・・タカシくんが目下頭を抱える・・・宿題の問題なのであった・・・。

・・・と、いうのも・・・タカシくんは、大の算数嫌いであり、毎回テストでは、他の科目はそこそこの点を取ったのだが、こと算数となると・・・決して特に数字が苦手だとか、数というものを見ただけで全身にジンマシンが出来る、という訳でも、もちろん無かったのだが・・・しかしなぜだか、前述の様に、それが文字に置き換えられたり、改めて数字は幾つか?・・・などと問われると・・・やはりジンマシン程とはいかぬまでも、何だかこう、言いようの無い例えようの無い、精神的なもどかしさに加えて、やはり体が自然と、モジモジと、まるで芋虫の様な昆虫の幼虫の様に・・・何だか居ても立ってもいられぬ様な、そんな感じでウネウネとほんの少しだけではあるのだが・・・させてしまうのが、常なのであった・・・。


 ・・・と、いう訳で、タカシくんは今年、小学5年生になったばかりで、誕生日が来れば、11歳となるのだが・・・たった一人の子供ということもあってか、母のサチコもその点は非常に気になっており・・・何せ、その他の科目では、決して贔屓目には見ずに、母親としてのアドヴァンテージを差し引いたとしても・・・かなりの評価であると、かなり優秀な子に違いない、と、サチコ自身もその様に常日頃感じてはいたので・・・。

・・・と、そこへ、台所でその様な事を考えつつ、食器を洗っていたサチコに突然、背後から声が掛けられて、

「・・・ネェ、お母さん、答えを・・・せめてヒントだけでも・・・教えてよ? ねえ?」

しかし物思いにふけっていたサチコは、ハッと我に帰ると、そこは日頃と全く変わらずに、ピシャッとこう言ったのだった・・・。

「・・・ダメ! ・・・絶対、教えませんからね?」

「なんでだよぉ・・・」

と、尚も引き下がろうとしない・・・実はタカシくんは、意外と頑固なところもあるのだった・・・我が子に向かって、さらに追い討ちをかけるかの様に、こう言い放ったのだった・・・。

「・・・いい? もしここで教えたら、アナタはこれからずっと、何か困った事があったりすると、他人をアテにする様になるでしょ? ・・・だからダメ。何事も、自分で解決しないと・・・駄目ですからね?」

さすがのタカシくんも、その様な言葉を聞くと・・・そこでそのまま、うな垂れる様に、静止、してしまったのだが・・・

「・・・ねえ? ・・・ところで、お父さんはいつ帰って来るの?」

「・・・ええと・・・確か週末の筈よ?」

するとタカシくんは、そこでふと、何かを考え込んでいたのだが・・・その仕草を見て、母親は、すぐにその意図を見抜き・・・

「・・・ねえ? お父さんと、電話したいなあ・・・? ・・・国際、電話って言うんだっけ? ・・・してもいい?」

「・・・ダメ! ・・・お父さんに宿題の答えを聞くのは・・・ルール違反ですからね。」

・・・と、あっさりその野望を打ち砕いたのであった・・・。そしてさらに、今度はその、懲罰、とばかりに・・・

「・・・あ、ちょうどいいわ・・・! ・・・買い物に行って来て貰えないかしら?」

「・・・え〜〜〜・・・」

と、ますます不貞腐れるタカシくんに、この正論を述べるが非情でもあり、まるでそう・・・古代のギリシャの女神か何かの様に・・・我が子にピシャリと、愛の鞭、を振るうのであった・・・。

そしてサチコは、一枚の小さなメモ紙、を渡し・・・そこは大人しく観念したのか、タカシくんは、そのメモに書かれたリストの一覧を、上から下まで、一応きちんと確認していたのであった・・・。

「・・・牛乳、納豆、長ネギ、豆腐・・・ヨーグルトとマーガリン、かあ・・・」

そう言って嘆息する、タカシくんなのであった・・・。

しかし逆に、サチコは少し機嫌が戻ったのか、鼻歌混じりに、

「・・・ね? ちょうどいいじゃない・・・! 2千円。・・・渡すから、ちゃんと自分で計算して、予算以内に買ってきてちょうだいね? ・・・あ。もし余ったら、アイスを買ってもいいから。」

その言葉を聞いた途端、タカシくんの目が突然輝き出し、しかしながら、その非情な女神、は・・・

「・・・ただし200円までよ? ・・・消費税込みでね? ・・・分かった? レシートはちゃんと、持って帰って来るんですからね?」

ますます不貞腐れる我が子に、まるで喝でも入れるかの様に、

「・・・分かったの?」

と、念を押したのであった。

するととうとう、その悩める10歳の少年は、

「はあ〜い・・・」

と、そのメモとお札を二枚受け取って・・・台所から、そしてそそくさと靴を履き、玄関からも、出て行ったのであった・・・。

その後ろ姿を、ほんの少しだけ不安そうに見つめる、聖母、なのであったが・・・まさかこの後、我が子があの様な、事態に巻き込まれるとは・・・その時はおそらく、かの高名な経済学者であったとしてもだ、予言するのは不可能であったに違いはないのであった・・・。


・・・タカシくんは自分の家を出ると、緩やかな坂道を、メモに目を落としながら・・・一番近くの、割と大きなスーパーマーケットへと、エコバッグ片手に、向かっていたのであった・・・。

すると・・・向こうから、二人のちょうどタカシくんと同じ年頃の、少年達がやって来て・・・

「・・・よう。タカシじゃないか。・・・こんなとこで、何やってんだ?」

「まさか・・・お母さんの使いで、買い物とかか?」

その二人はまるでせせら笑うかの様に・・・一人はサトルくん、といって、活発な、スポーツ万能なタイプの子で・・・もう一人は、アスカくんといい・・・その煌びやかな名前とは裏腹に、目と目の間が少しだけ、離れており・・・しかし当の本人は、自分の事をどうも、イケメンであると思っているらしく・・・ロン毛にして、いつも格好つけている様な、そんなちょっとだけ生意気な、タカシくんのクラスメイト達なのであった・・・。

「・・・ああ、まあね。」

と、タカシくんが力なく答えると、サトルくんが、

「・・・ところでタカシお前、宿題は終わったのか? 確か・・・お前の苦手な、算数だったよな?」

するとまるで、片方はキツネで片方はタヌキの様に・・・ほんの少しだけ狡猾そうな・・・しかしそれは、せいぜい小学5年生の表情だったのだが・・・畳み掛けるかの様に、アスカくんが、髪を一回、かき上げながら、

「・・・俺達は、なあ? ・・・もうとっくに終わったぜ? 何なら・・・」

「・・・教えてやってもいいんだゼェ・・・?」

「・・・ただしタダ、って訳にはいかないけどな・・・?」

そう言ってケタケタと笑う、二人に対して、それまでは大人しいヒツジの様だった、タカシくんは・・・しかしながら、その提案をキッパリと拒否して、

「・・・もう終わったってば・・・!」

「・・・ウッソだぁ・・・」

「・・・まだだろ? ・・・顔に書いてあんじゃん? ・・・答えがだけど。」

「・・・エッ・・・!?」

・・・と、タカシくんはそこで、巧妙な、敵の罠へとまんまと引っかかり・・・自分の頬を、思わず触ってしまったのであった・・・。

「・・・やっぱりじゃん。」

「・・・嘘つきは・・・大人になったら、悪人になるんだぞ?」

・・・と、そのズル賢い、同い年の、二人はタカシくんがやって来た方向へと、笑いながら去って行ってしまったのであった・・・。

・・・少し悔しそうに、フゥと、ほんの少しだけ小さなため息をついたタカシくんは、それでも不屈の精神で、アイスクリームというほんの僅かな希望の為、その静かな住宅地の緩やかな坂道を、下って行ったのであった・・・。


2 目撃


 ・・・それからおおよそ、10分程歩き、その時にはもうすっかり、いつもの元気な気分を取り戻していたタカシくんが、家々が何軒も建ち並ぶ通りを歩いて行き・・・とある割と大きな家の前を、通り過ぎた時の事・・・そこはタカシくんの記憶では、確か『ナカムラさん』という、最近引っ越して来たばかりの家だった筈なのだが・・・一台の、かなり大きなトラックが止まっており、その後ろに積まれたシルバーのコンテナには、『ウキウキ引っ越しセンター』などと書かれており・・・タカシくんはふと、「・・・あれ? 確かここのおじいちゃんとおばあさんは、ちょっと前に引っ越して来たばかりなのに・・・もしかして、まだ持って来る物があったのかな?」・・・などと、取り留めもなく考えながらその前を通り過ぎようとすると・・・ふと、開け放たれたコンテナの、中が見え・・・そこでさらに、タカシくんには、とある疑問というか、疑惑の様なものが、モクモクと、灰色の煙の様に・・・。

・・・実はタカシくんはその歳で、弱冠10歳ながら、推理小説マニアであり・・・と、いっても、所詮は子供向けの、割と平易な文章で書かれた物ではあったのだが・・・しかしその趣味が高じて、今ではタカシくん自身が、自らが、まだ文章は稚拙とはいえ、書くようになっていて・・・そういった事情もあったので、彼は何かある毎にトリックの参考にはならないかと、あちらこちらにアンテナを立てていたので、その時も、開け放たれたコンテナの中に見えた、おそらく普通の子供から見れば、大人でもなのだが・・・何て事は無い、引っ越しに使う様な、ごく普通の、道具類が積まれていたのだが・・・それを見てタカシくんは、ほんの少しの間、立ち止まってその家とトラックの中の様子を、何気なく伺っていたのだが・・・タカシくんが気になったのは、二つの大きな・・・おそらくは荷物の運搬用に使うのだろうが・・・箱と、ロープであり・・・しかしタカシくんが気になった点はというと・・・彼が立ち止まって家の玄関の方向を見ていると、二人の、繋ぎの服を着た、引っ越し屋、が汗をかきながら出て来て、初めはタカシくんには気が付かずに、まずは背が低く、少し太った、ポッチャリとした体型の男が、何だか少し興奮したふうに、

「・・・いやあ、こりゃあ、きっと上手く行くな?」

・・・などと言い、するとその相方の、まるで正反対に痩せてノッポでやたら目付きだけは鋭い男も、少し興奮した様に、

「・・・ああ、そうだな。早速、連絡を、プリ・・・オイ、」

と、そこでどうやら両名は、タカシくんの存在に気が付いたらしく、すると途端に、二人は打って変わってテンションが低くなり、ごく普通の、引っ越し屋の様に黙々と、作業をしていたのであった・・・。

タカシくんは何だか少しだけ嫌な予感がしたのと、買い物の事もあったので、そこは彼なりに、ごく普通に・・・またスーパーの方向へと、歩き始めたのであった・・・。

 タカシくんは数十メートル先の、角を曲がるまではなぜだか背後からの、視線の様なものを常に感じている気がしたので・・・角を曲がった途端、立ち止まって大きく深呼吸をすると・・・その位置からではなく、もう一本逸れた私道へとわざと入り、そっとブロック塀の端っこから、先程の家の方を、二人の引っ越し屋には勘付かれぬ様に、そぅ〜っと、覗いて見てみたのであった・・・。

すると案の定というか、二人の男達は、今現在の、タカシくんの方ではなく、先程曲がった通りの角の付近をいつまでも食い入る様に眺めていて・・・まるで、タカシくんが戻って来るのを警戒でもするかの様に・・・しかし却ってその行動が余計に、タカシくんの頭の中で突如として湧き起こった疑惑が、さらにモクモクモクと、まるでPM2、5か光化学スモッグか何かの様に、広がって行き・・・彼は小学5年生なりの頭脳をフル動員して考察し・・・そうしてやがていくつかの仮説へと辿り着き・・・しかし気が付くと彼自身も、スーパーマーケットの前へと、辿り着いていたのであった・・・。

・・・タカシくんはそこでようやく、自分に今現在課せられた使命、をハタと思い出して・・・おそらくは並の犯罪者よりは怒らせたら遥かに怖い、母のサチコの機嫌を損ねてはと・・・メモを片手に、スゥ〜ッと開いたガラスのドアから、一歩店内へと足を踏み込んだのであった・・・。


3 通報


 タカシくんはスーパーで購入した商品の入った、エコバッグを片手に持って、しかしなぜだか浮かぬ顔で、ゆっくりと歩きながら・・・帰宅の途へと、着いていたのだった・・・。

・・・実のところ、タカシくんの頭の中からは、あの例の、彼にとってみれば非常に難問の、宿題である算数の問題がまとわり付く様に、こびり付いて離れず・・・肝心の、彼の一番のお目当てであったアイスを買う事も忘れて、まるで気が抜けた様に、トボトボと家へと向かって、行きと全く同じルートで、歩いていたのであった・・・。

そして・・・当然の事ながら、またあの、『ナカムラさん』宅の前を通ったのだが・・・やはり依然として、先程のトラックは止まっていて・・・しかしさっきまでそこにいた、二人の男の姿はなく・・・タカシくんは何気なく、何かを落としたフリをして、開け放たれたトラックのコンテナの扉の中を、さりげなくそっと、素早く覗いてみたのだった・・・。

・・・するとやはり、彼の思っていた通りというか・・・まだ何も荷物は一つも積まれてはおらず・・・あれだけの時間が経ったにも関わらず、だ。しかも、先程あった大きな箱は姿を消していて・・・そしてタカシくんが一番気になった点はというと・・・すると突然、ナカムラさん宅のドアが開く音が聞こえたのでタカシくんは素早く、また通りへと戻ると・・・あくまでも普通の速度で、しかし意識すればする程、徐々に家路への足取りは、否が応でも速くなってしまったのであった・・・。


・・・タカシくんは家へと帰り着くと、真っ直ぐに台所へと入って行き・・・そこに先程と同じ様にいた、サチコは・・・何だかタカシくんが今ひとつ元気が無いのが、ほんの少しだけ気になったのだが・・・そこは変な情けをかけては、逆効果であると思い・・・

「・・・どう? ちゃんと足りたの? ・・・全部買えた?」

タカシくんはただ黙って、レシートを母親に差し出すと、そこにあった、あまり座りご心地の良くはない椅子に、座って少しお疲れのご様子なのであった・・・。

サチコは買ってき商品と、レシートを交互に、見比べていたのだが・・・

「・・・アレ!? ・・・ちょっと、タカシ! ・・・これ・・・!」

「・・・ああごめん。アイスは、買うのを忘れたんだ。」

すると母親は、レシートの一箇所を指差して、

「・・・そうじゃないでしょ? ・・・あなた、エコバッグを、持って行ったんでしょ?」

「・・・ああそうだけど?」

「ホラここに・・・買い物袋代の、5円を取られてるわよ? ・・・ちゃんとマイバッグ持参だという事を、伝えたの?」

タカシくんは、まさかその様な指摘だとは、夢にも思わなかったので、ほんのちょっとだけ、口籠ってしまい、

「・・・ええと・・・5円でしょ? そんぐらい・・・別にいいじゃん。」

しかしその、勝負の審判の女神は決して、そんぐらいの、些細な事ですら認めず、

「・・・ダメ! たった5円でも・・・たった5円が、積もり積もって・・・後々響いてくる事もあるのよ? ・・・分かった? 今からこのレシートと、エコバッグを持って、もう一回行ってらっしゃい? それで、ちゃんと5円は返して貰うのよ? ・・・分かった?」

「ええ〜〜・・・」

さすがにこの様な非情な、裁決、にはタカシくんも不満顔であったのだが・・・そこはあくまでも目の前にいる、絶対的な存在には逆らえずに・・・しかしこういった、逆境に追い込まれると却って、本領を発揮するタイプなのか、タカシくんは転んでも、タダでは起きずに・・・

「・・・分かったよ。でも・・・買い忘れたアイスを買って来てもいいでしょ? ・・・ちょうどお釣りは、220円あるし・・・」

・・・その様な言葉を聞いてさすがのサチコも、自分で決めたルールである以上、約束を違える訳には行かず・・・

「・・・ええ、いいわよ。ちゃんと消費税込みで、200円以内、ですからね?」

「は〜〜い・・・」

と、タカシくんはまた、旅立って、行ったのであった・・・。


・・・そうしてかれこれ、2、30分程経った頃、タカシくんはようやく、アイスとレシートと、お釣りとを持って、嬉しそうに帰って来て・・・

「・・・お母さん! ・・・ホラちゃんと、5円は貰って来たからね。アイスも・・・200円以内で買ったからね。・・・どう? 何か文句はある?」

母のサチコは、ドヤ顔の息子の顔に冷や水を浴びせかけようとでも、するかの様に、

「・・・次回からは、気をつける様にね。」

と、釘を刺すのを忘れないのであった・・・。

しかしその冷や水も、今のタカシくんにとってみれば、まるでカエルの面にかけられたションベン、に等しく、上機嫌でアイスを食べ始めながら、さらに話は止まらないらしく、例の、ナカムラさん、の話へと、発展して・・・

「・・・ねえ?」

「・・・なあに、まだ何かあるの?」

母のサチコは、なぜかほんのちょっとだけ、不機嫌そうだったのだが、

「・・・この少し先に、ナカムラさん、っていうおじいちゃんとおばあちゃんが、引っ越して来たでしょ? ・・・つい最近。」

「・・・ええ。でもそれが何か?」

「・・・つい今さっきも、また引っ越しのトラックが止まっていたんだよ。家の前に。」

「・・・それが一体どうしたっていうの・・・?」

「だって・・・越して来たばかりでしょ? もう引っ越すだなんて・・・」

「・・・また引っ越すとは限らないでしょ? ・・・まだ届いていなかった、荷物がやっと届いたのかもよ?」

「でもそれが・・・不思議なんだよ。・・・荷物を全然、運んでいる様子が・・・」

すると途端に、普段から推理小説を息子が書いている事は知っていたので、

「アナタちょっと・・・勘ぐり過ぎじゃない? 現実は、小説とは違うのよ?」

タカシくんはちょうどアイスを食べ終え、その木のバーまで舐めながら、

「でも・・・いろいろとおかしい事があるんだよ。・・・他にも、たくさん・・・例えば、ホラ!・・・大きな箱はあるのに、小さな、箱は全然無かったし・・・あ、ほら、他にもロープがちょっとしか無かったりとか、あのビニールのプチプチとか・・・」

サチコは少し困り顔で、

「でも、だからって・・・まさか犯罪でも、起きているとか・・・言い出すんじゃないでしょうね・・・?」

「・・・それだよ、それ!」

タカシくんは自分から言う手間が省けて、飛び上がらんばかりに喜んだのだが・・・肝心の母は・・・

「・・・あなた、ちょっと考え過ぎよ。・・・くれぐれも、早まった事は、しないでよね?」

・・・と、またしても、名探偵気取りの、我が子に釘を刺したのであった・・・。

「はぁ〜〜い・・・」

タカシくんは、アイスのバーをゴミ箱に捨てると、そこは大人しく、二階にある自分の部屋へと、上がって行ったのだった・・・。


・・・それから少しして・・・タカシくんは二階から降りて来ると、そっと、居間へと入り・・・母のサチコがいないのを確かめると、電話機の方へと、ゆっくりと近付いて行き・・・。


さらにそれから少し経つと・・・サチコがちょうど、二階から降りて来て・・・するとタカシくんは、玄関で靴を履いて、出掛けようとするところなのであった・・・。

「・・・アラ、タカシ。・・・また出掛けるの?」

タカシくんは、靴を履きつつ、

「ああ、まあ・・・サトル達とちょっと・・・約束をしたんだよ。」

「ふぅ〜ん・・・気を付けて、行ってらっしゃい?」

「・・・ああ。」

タカシくんはなぜだか、少し気分が高揚している様な・・・母のサチコの目にはその様に映ってしまったのだが・・・

「・・・じゃあ! ・・・行って来るね!」

と、その行動力だけはある、息子は素早く出て行ってしまったのであった・・・。

サチコは少しだけ、嫌な予感というか・・・何やら心中を胸騒ぎの様なものが一瞬、よぎったのだが・・・しかしその時は我が子を信頼し、特に慌てたり憂慮したりなどはせずに、浴室へと・・・何しろ、これから沢山の、洗濯物を干さねばならないのだ。

・・・例え夫が出張中とはいいつつも、主婦には休みなど・・・どうやら当分、巡っては来ない様なのであった・・・。


4 計画


 ・・・例の『ナカムラさん』宅の中では・・・実はタカシくんの推理通りというか、それよりもさらに、事態は悪い方向へと、進んでいて・・・。

 ナカムラさんの老夫婦は、めいめいがロープで手首を縛られ、居間にある椅子に、固定されていたのであった・・・。

そして・・・案の定、例の『ウキウキ引っ越しセンター』の二人は無論の事、引っ越し屋などではなく・・・プロの、犯罪者で・・・初めからこの、いかにもお金の有りそうな『ナカムラさん』の家を計画的に狙っていたのであった・・・。

・・・するとそこへ、玄関から堂々と、一人の薄いグレーのスーツを着た、いかにも紳士、といった風な、中年の痩せた男が入って来て・・・どうやら『引っ越し屋』の二人がやたらペコペコするあたり、この二人に指示を出している、いわゆる黒幕、の様なのであった・・・。

「・・・これはどうも、プリズムさん・・・」

と、小柄の太った男の方が言うと、

「・・・わざわざ来られなくても・・・我々二人で、余裕でやれましたのに・・・」

と、もう一人の痩せた男も、明らかにご機嫌を伺うかの様に、ペコリペコリとしていたのであった・・・。

しかしその、ボス、らしき男は・・・さすがの貫禄というか、鋭い眼付きで、部屋の中やら、家の中をしばらく歩いて、あちらこちらを見て回ると・・・二人に、こう言い放ったのであった・・・。

「まあ・・・お前らにしてはここまでは上出来だな。・・・だが、少し仕事が遅いぞ? こんなペースでは・・・何しろ、住民の密集している地域だからな。ご近所さんにでも怪しまれたら、一巻の終わりだぞ?」

「・・・申し訳ありません・・・」

まるで飼い犬が主人に叱られている時の様に、うなだれる二人にその男は、追い討ちでもかけるかの様に、

「・・・ところで、その、息子とやらには、連絡はついたのかね?」

すると小太りの男の方が、かなり申し訳なさそうに、

「それが生憎・・・まだでして・・・相手はその、仕事が忙しいらしくて・・・」

その紳士は、ピシャリと言ったのであった。

「・・・その様な言い訳はいいから・・・早いとこ・・・いつまでもここにこのお二人を、こうしておく訳にもいかないだろう・・・?」

と、その老夫婦をチラリと、見たのであった・・・。

そして、その紳士は、

「・・・よし。お前は・・・ええと・・・」

「・・・エニグマです。」

と、太った男が言うと、

「・・・私と一緒に来たまえ。私が直接、コンタクトを取るから。」

「あ、はい・・・」

そして二人して去り際に、残された痩せた男に向かって、そのボスは、

「・・・ええと・・・キミはここで、この二人を見張っているんだ。決して、手荒な事はするんじゃないぞ? この私の、やり方ではないからな。」

「あ、ハイ・・・」

「・・・それから。分かっているとは思うが、くれぐれも、誰もこの家には上がらせるんじゃないぞ? ・・・それこそ命取りだからな。」

「はい・・・それはもちろん・・・」

すると繋ぎの服から、一応パツンパツンの、スーツに着替えた『エニグマ』とともに、その『プリズム』という、司令塔とは二人して、その家からは出て行ったのであった・・・。

「手荒な事は流儀ではない」という、ボスの言葉を聞くと、その残された方の男は、老夫婦の口に貼られていた、ガムテープを剥がしながら、

「・・・あの人に感謝するんだな? あくまでも紳士的に、これからはお二人を、おもてなし致しますので。」

そう言って、ニヤニヤと笑うのだった。

すると、おばあさんの方が果敢にも、その悪人に向かって、毅然とした態度で、尋ねたのだった・・・。

「・・・あなた達は・・・一体何が望みなの?」

「・・・エヘヘへ・・・まあ、親切ついでに教えてやろうか? 今からさっきの二人は、あんたんトコの息子さん・・・いるのは分かってるんだぜ? ヴェンチャー企業の、社長さんだとか何とか・・・に、この状況を伝えて、お金を頂きに、参るところなのさ。」

すると、おじいさんの方が、ポツリと、

「・・・息子は、お金を払うだろうか・・・?」

と、まるで蚊の鳴く様な声で、呟いたのだが、

「・・・なあに。さっき写真を撮ったのはその為だよ。・・・この姿を見て、払わない肉親がいると思うかい? それに・・・エラく羽振りが良いそうじゃぁないか。」

「・・・どうしてそれを?」

と、おじいさんが思わず言ってしまうと、その男はますますニヤケて、

「・・・こっちは全て、事前に調査済みだよ。何せ・・・オレ達はプロ中のプロ、なモンでね。」

「でもその割には、顔は隠さないのね?」

と、おばあさんが鋭い指摘をすると、男はほんの少しだけ、気分を害したのか・・・しかしまた、ニヤけ顔にすぐ戻って、

「なあに。・・・所詮俺達は、前科何犯、顔はもうとっくのとうに、知れ渡ってしまっているものでしてね。今さら見られたからって・・・まあ、この家から、逃げようとするとか・・・そういう時は、話は別だがね。」

と、脅しの文句を付け加えるのを、決して忘れはしないのであった・・・。


 ・・・一方、そのナカムラさん宅の前には、少し離れた道の反対側に・・・実は、タカシくんが少し前に辿り着いて、しっかりと見張っていたのだが・・・すると、中からスーツに着替えたポッチャリの男と、タカシくん自身は初めて見る、例の、プリズムとが、出て来て・・・。

グレーのスーツの男は、この良い天気だというのに、片手には真っ黒い雨傘を持っていて・・・タカシくんはその男を一目見るなり「はは〜ん、コイツがきっと、ボスなのには間違いはないな。」と、鋭い観察をしていたのであった・・・。

その二人は、あっという間に、おそらくは駅の方向へと、去って行ってしまったのであったが・・・タカシくんの推理では、もし彼のいなかった間に、仲間が他に増えていなければ、中にはナカムラさん夫婦と、もう一人の、男だけの筈であり・・・実のところタカシくんは、自分の家を出る前に、ある事をしていて・・・それ、が到着するのを、今か今かと、待ち焦がれる様に、じっと様子を伺っていたのであった・・。

しかし、それ、はいつまで経ってもやっては来ず・・・。


一方タカシくんの家には・・・そのタカシくんが待ち焦がれていた、巡査が一人、姿を見せていて・・・母のサチコが、対応に追われていたのであった・・・。

「・・・こちらに、タカシくんという、お子さんはいらっしゃいますか・・・?」

母は警察官が家に来る事など、初めてであったし、しかも我が子の名前を指名するので、とても不安な気になったのだが、そこは無理をしてでも、笑顔を作って、

「・・・ええ。おりますけども・・・タカシが何か?」

「ええ、それがですね・・・通報が、ありましてね・・・。」

「・・・通報?」

巡査はとても礼儀正しく、言葉遣いも丁寧であったので、サチコからはほんの少しだけ、不安感が消え去りかけたのだが・・・

「ええ、実は・・・この少し先に、ナカムラさん、というご夫婦が住んでいらっしゃるのを、ご存知ですか?」

「・・・ええ、まあ・・・」

母はその名前を聞いて、ほとんど全てを悟ったというか、嫌な予感、は見事的中してしまった様なのだが・・・

「それがですね・・・その、こちらのタカシくんから、つい先程、通報が御座いましてね・・・何せ、あまり信憑性のない話ではありましたので・・・まずはこちらに伺って、タカシくんから直接、お話を聞かせて頂いた方が無難であると・・・そういう判断でありましたものでして・・・」

母のサチコは、あれ程口を酸っぱくして言ったにも関わらず、まさか自分の、賢明であると考えていた息子が、その様な事をしでかすとは・・・それも、警察に通報してしまうなどという・・・サチコはひたすら、その巡査に、平謝りするしか、出来る事はないのであった・・・。

「・・・誠に申し訳ございません・・・」

しかしその、極めて紳士的な巡査は、あくまでも冷静に、

「・・・いえいえ。・・・もしかしたら、って事も、ないとも限りませんので。これから・・・ちょっとそのナカムラさん宅へと伺って、確認して参りますが・・・」

「・・・誠に大変、ご迷惑をおかけして・・・」

「・・・では。失礼致します。」

と、その巡査はあっという間に、バイクにまたがると去って行ってしまったのであった・・・。

「・・・はぁ。」

玄関の戸を閉め、壁にもたれかかったサチコは・・・一つ大きくため息をつくと・・・途端にタカシくんに対する、怒りと心配の気持ちとが、ない混ぜになって、込み上げて来たのであるが・・・しかしながらタカシくんはまだ小学5年生という事もあって・・・すでに持っている同級生もそこそこいたのではあるが・・・父のヨシヒコとも相談して、まだ携帯電話は持たせてはいなかったので、連絡の取りようがないのであった・・・。

・・・なので。母の心配は募るばかりで、しかし彼女はその件に関しては、警察に任せる事とし、とりあえず自宅で待つ他に、今現在出来る事は無いのであった・・・。


5 計算


・・・タカシくんがナカムラさん宅の正面玄関が良く見渡せる、反対側の通りの陰で、見張り始めてから、おおよそ2、30分ぐらい経った頃・・・ようやく先程のタカシくんの家にも現れた、警官がバイクにまたがって現れて・・・。

その巡査が戸口のベルを鳴らすと、意外にも中からは、おばあさんが普通に笑顔で出て来て、とてもにこやかに対応していたのであった・・・。

そしてその巡査も、丁寧に帽子を取って挨拶をすると、ごくごく普通に、またバイクに乗って、呆気なく去って行ってしまったのであった・・・。

タカシくんはその光景を目撃するとえらく落胆してしまったのであるが・・・しかしおばあさんは、家の中へと入る前に、郵便受けの中を確認し、そして、子供の目から見ても明らかに挙動不審な態度で、辺りを何度もキョロキョロと見回していたので・・・タカシくんもさすがに、ははあ〜ん、これはやっぱり、家の中に何かあるんだな?・・・と、思わず疑ってしまい・・・おばあさんが玄関のドアを閉めて中へと入ると・・・そっと、その割と大きいが、交通量は少ない通りを横切って、こっそりと『ナカムラさん』宅へと、近付いたのだった・・・。

タカシくんはさりげなく、ナカムラさん宅のブロック塀の上から、中の様子を伺おうとしたのであるが・・・生憎と小学5年生の身長ではジャンプをしないと窓までは見えず、さらには、通りに面した窓の前には、背の高い植木が繁っていて・・・どう頑張っても、家の中の様子を伺う事は不可能なのであった。

仕方なくタカシくんはとりあえず、数軒離れた家の陰に・・・そこは上手い具合に、背後は空き地というか、おそらく以前は何らかの建物が建っていたのだろうが、今は更地になっており・・・なのでタカシくんはそこで、まるで誰かと待ち合わせでもしているかの様に・・・そうして時々、ナカムラさん宅の方へとしっかりと気を配って・・・。

・・・しかしながら、タカシくんの期待とは裏腹に、特にこれといって、何かが、起こる訳でもなく・・・そうして無情にも、徐々に陽は暮れて来て・・・西の空が、美しい程に真っ赤に近い、オレンジ色に染まっていき・・・それから辺りが街灯の僅かな光を残して、真っ暗になるまでにはあっという間なのであった・・・。

タカシくんは正直、そこで一旦自宅に帰ろうかどうしようかと、迷っていたのだが・・・タイミング良く、というか、そこへ例の、真っ黒い雨傘を持ったグレーのスーツの男と、パッツンパッツンのスーツを着た、額から大量の汗をかいた、小太りの男とが、戻って来て・・・タカシくんはこれはやはり、今はどうしても我が家には帰る事は出来ないな、と、覚悟を決め・・・そしてその二人は、特にグレーのスーツの男は、もう一人とは対照的に、極めて冷静な表情で、辺りをさり気なくその鋭い目付きで見渡しながら・・・そうして二人はナカムラさんの家の中へと、入って行ったのであった・・・。

・・・実のところ、これはたまたまというか、結果的にタカシくんにはその日はツキがあったのか、もし先程までと同じ、道路の反対側にいたのならば、二人に見付かっていたかもしれず・・・と、いうのも、その二人は、タカシくんがさっきまで隠れていた、通りの反対側の辺りから、不意に出て来たからなのであった・・・。


・・・そして、そのナカムラさんの家の中の居間には、ナカムラさん夫婦の他に、ボスであるプリズム、という男と、一緒に戻って来たエニグマ、と・・・そして留守番をしていたもう一人の男は、マジックという呼び名らしく・・・やはりタカシくんの睨んだ通り、その他にはどうやら仲間はいないらしく、まずはプリズムが、

「・・・留守中、何か変わった事は無かったか?」

と、マジック、に尋ねると、

「ええ・・・まあ。・・・あ、警官が、一人尋ねて来ましたがね。それが・・・」

すると途端にプリズムは、

「・・・それはむしろ、非常事態、とまでは行かぬまでも、少なくともこの私の携帯にすぐに、報告を入れるべき出来事ではないのかね・・・?」

と、言葉は丁寧だったのだが、その目は明らかに怒りを含んでいて、マジックもややうなだれつつ、

「・・・すみません。うっかりしてました。ですが・・・こちらのご婦人が、上手い具合に対応しましたので・・・問題は無いかと思いまして・・・」

「・・・キミはそれを聞いていたのかね・・・?」

「・・・もちろんですとも・・・! きちんと一言一句、玄関の内側の、扉の陰で・・・このばあさんは、ごく普通に、対応していましたので、警官は何も怪しむ事はなく、帰って行きましたよ・・・!」

と、胸を張りドヤ顔で言ったのだが、プリズムという、ボスはどうやらそんなには甘くはないらしく、逆に余計に鋭い表情となって、

「まあ、キミにしては良く出来たほうだな。しかしこれが・・・一体どういう意味だか分かっているのかね?」

しかしその、犯罪者としてはあまり才能の無い、おそらく凡人程度のIQの男は、少しキョトンとした様な表情で何も言えずにいると、ボスはすかさず、

「・・・誰かが、この家が怪しいと、その様に警察に通報したんじゃないのかね?」

「・・・あ!」

そこで初めて、事態の深刻さに気が付いたマジックだったのだが、プリズムの方はというと・・・何かを少し考えながら、居間の中を歩き回り・・・

「・・・まあ、いいだろう。私の・・・思い過ごしという事もある。・・・ともかく、次回からは、何でもいいからちょっとでもおかしな事があったら、すぐに連絡を入れる様に。・・・まさか、電話が掛けられらない訳でもないだろ? ・・・小学生じゃあるまいし。」

と、少し忌々しげに、吐き捨てる様に言ったのであった。

「どうも・・・すみません・・・」

そこはひたすら、マジックは縮こまっているしかないのであった・・・。

プリズムはさらに続け、

「・・・我々の方は、だ。随分と進展があったぞ・・・? オイ、キミの方から、このご夫婦にも良く分かる様に、説明して差し上げなさい。」

すると、いかにも着ているのが不快であったろう、先程までのスーツからは着替えて、また元の作業着に戻っていたエニグマが、まるで惨めな相棒には、かなりの差を付けたかの様に、ニヤけ顔で、一つ咳払いをしてから、

「・・・ええと、要するに、アンタんトコの息子さんとは、無事コンタクトが取れたよ。・・・現金を、明日までには用意して支払うとさ。無論、サツに連絡でも入れたら、即、どうなるのかは・・・」

レースカーテンをどけて、ほんの少しの間、抜かり無く窓の外を伺っていたプリズムが、再びカーテンを閉めると、その後を続けて、

「私と致しましては・・・先程も申し上げました通り、決して手荒な事は、したくはないのですがね・・・何せ、我々に取りましても、ウン千万、という大金がかかっているものでしてね・・・」

すると、ナカムラさんのおばあさんが、ほんの僅かばかりの、抵抗、とでも言わんばかりに、

「・・・息子は、あっさり承知しましたの? どうして・・・警察に通報しないとお思いで?」

するとプリズムは、その時になって初めて、余裕の笑みを、ほんの一瞬だけ口の端っこに浮かべて、

「・・・鋭い質問ですな。あなたの息子さんも、そのDNAを受け継いでいるらしく、賢明なお方でしたよ。・・・まずはあなた方の写真を見せ、そしてこちら側の金額を提示し・・・それから快く、その条件を飲み、さらには、小型マイクを身体に取り付ける事を・・・ちなみにその映像はいつでも、この私の携帯のアプリで、確認出来ますのでね・・・了承して下さいましたよ。・・・ですので、無駄な抵抗は、出来ない筈ですが。」

と、まるで勝ち誇るかの様に言うので、さすがのおばあさんも、それ以上の言葉は出て来なかったらしく・・・そのまま先程までと同じ様に、おじいさんと一緒に、ソファの上で、ただ座っている事しか、出来ないのであった・・・。


・・・一方、外でただジリジリと、待って見張る事しか出来なかった、電話が掛けられない小学生、のタカシくんは・・・その場から、離れようにも離れられずに・・・かと言って、また警察を呼ぶのは、小学5年生なりにも、マズい事の様な気がしていたので、やはりただ、時間だけが虚しく過ぎて行くのを、建物と電信柱と、街灯の陰で・・・幸いにも、その通りは普段はあまり人通りはないらしく、たまに通ったとしても、二度通る人間はおらず・・・さらにはタカシくんは、たまに少し奥に引っ込んで、そこに置かれていた逆さまになった、ビールケースの上に、腰掛けていたりしたので・・・誰もタカシくんの事を怪しむ人間などはおらず、そうこうしている内に・・・。


・・・チュンチュンという、スズメの鳴き声とともに・・・気が付くと、辺りはすっかり明るくなっており・・・タカシくんは、そのビールケースの上でどうやら、側にあった新聞紙に身体をくるんで、眠りについていた様なのであった・・・。


6 難問


 タカシくんが目を覚まし、ナカムラさん宅の方を伺ったちょうどその時・・・玄関の戸が開いて、昨日と同じ二人が、出て来てどこかへと出掛けるところなのであった。

しかし昨日と違っていたのは・・・やはり今にもはち切れんばかりのスーツを着た、エニグマが、朝日を反射して銀色に眩しく光る、ジュラルミンケースを手にしていた事なのであった。プリズムの方は相変わらず、真っ黒い傘を手にしていて・・・辺りを伺い、不意にタカシくんのいる方向をも見たので、咄嗟にタカシくんは、物陰に隠れたのだが・・・二人はそのまま、大通りを渡り、歩き去って行ってしまったので・・・どうやら、タカシくんの存在には気が付いてはいない様子なのであった。

タカシくんはというと・・・寝ぼけ眼をこすりつつも、そこでまた、自宅に一度戻ろうかとしばらく考えてはいたのであるが・・・突然ある考えが閃き、しばらくの間は、その場に留まる事にしたのであった・・・。


 一方、母のサチコはその頃、一晩経っても自分の愛する息子が帰って来ないので、さすがにかなり心配をし、まずは国際電話で夫のヨシヒコへと連絡を入れて相談をし、そして続けてすぐに警察へと掛けて、捜索願いを依頼したのだった。

無論の事、母はタカシくんの現在の状況など、知る由もなく・・・居ても立ってもいられなかったのであるが・・・そこは警察を信頼して、ただ待つしか、今の彼女に出来る事はないのであった・・・。


・・・その様な母の気持ちや、存在などは頭の中からはすっかり忘れ去られ、タカシくんの頭の中では、8割方が今閃いたばかりの考え、そして残りの2割は・・・例の算数の問題がまだ解けずにいたので、その事がまだ頭の中のどこかに引っ掛かっていて・・・しかし今は、何かを決意したかの様に、タカシくんの足は、真っ直ぐナカムラさん宅へと、向かっていたのであった・・・。

 そして何と、ナカムラさんの家の、玄関のベルを思い切って鳴らすと・・・やはり昨日と同じ様におばあさんが出て来たので・・・おばあさんはタカシくんの顔などもちろん、知りはしなかったので、驚いたのであるが・・・タカシくんはいつも肌身離さず持ち歩いている、いわゆるネタ帳の様な、何か小説の材料になりそうなものを記録している、メモ帳の中の紙を一枚渡し、そこには・・・「僕はタカシと言います。家の中に悪い人がいるの? 僕を親戚という事にして、家の中に上げてはもらえませんか?」・・・という、かなり大胆な内容の事が書かれており・・・おばあさんもそれをサッと読んでとても驚いたのであるが、背後で例の、マジックが様子を伺っているのは分かっていたので、すぐにそのメモは丸めてエプロンのポケットの中にしまうと・・・タカシくんを家の中へと、招き入れたのであった・・・。


案の定マジックは、玄関をすぐ入った所の、バスルームか何かの扉の陰から出て来ると、

「・・・オイ、そいつは、ソイツは一体誰だ?」

と、おばあさんに聞いて来たので、おばあさんは先程のメモに書かれていた通り、

「親戚の子の・・・えぇと・・・」

「・・・タカシですよ。お久し振りです! たまたま、この近くを通ったから、ちょっと寄ってみました。・・・アレ、この人は誰ですか?」

と、咄嗟にそこは上手い事取り繕うと共に、その引っ越し業者・・・実はさすがにいつまでもトラックを家の外に止めておくのはまずいと思ったのか、あるいはプリズムの指示なのか、トラックはどうやらタカシくんの気が付かぬ間に、昨晩の内にどこかへと移動させたらしく・・・そうしてマジックも、繋ぎの服から、ジャージの様なトレーナーの様な、普段着へと着替えていて、タカシくんの事を、少し胡散臭げに見ていたのではあるが・・・逆に自分が質問をされてしまったので、その答えで頭の中が一瞬真っ白になり、ようやくやっとの事で、

「・・・ええと、俺は・・・こちらのご夫婦の息子さんの、まあいわゆる、ビジネスパートナー、ってやつだな? ・・・まあ、そう言われても、まだキミぐらいの年齢じゃあ、何の事だか、分からないかな? アハハ・・・」

などと、ほんのちょっとだけしどろもどろになりつつ・・・しかしタカシくんは、

「・・・いえ。分かります。」

とだけ言い・・・その、分かる、にはこの目の前の男の正体が、全て分かっている、という意味も含まれていたのであるが、そこでおばあさんが、

「・・・ちょっとだけ、上がっていく? せっかく、来て貰った訳ですし・・・」

すると、ビジネスパートナーの、マジックも少し慌てて、

「ああ、そうだな・・・上がって、ゆっくりしていくといいさ。アハハハ・・・」

と、プリズムの昨日の指示はすっかり忘れて、見知らぬ人物を、家の中へと、上げてしまったのだった・・・。


 同じ頃・・・サチコだけが一人でいる、タカシくんの家には、あの例の警官が再びやって来ていて・・・かなりの心配そうな表情で、母親は息子が昨晩帰って来なかった事を、説明していたのだが・・・

「ええ・・・まあ。確かにそれはご心配の事かと、お察し致します。・・・一応捜索願いは直接署に来て頂いて、書類に記入をされるのが、手順ではあるのですが・・・」

母のサチコはすかさず、

「でももし不意に戻って来たりしたら・・・」

すると警官は、

「ええ、ですので・・・今回は急を要する事態であるかもしれませんので、まずは捜索が先かと。・・・我々一同と致しましても、もし、何か見掛けましたら・・・」

その警官は、例の如くとても低姿勢の丁寧な応対であったのだが・・・居ても立ってもいられない母としては、少し気が立っていたのか、その丁寧な言葉遣いが逆に・・・特に、もし、という一言が引っ掛かり・・・のんびりとしている印象を与えてしまったのか・・・ともかく、少しだけ感情的になり、

「・・・もし!? 何か? ・・・何かが起こってからでは・・・遅いんじゃないのかしら?」

するとその警官は、さすがにほんの少し慌てたらしく、しかしそこは職業的経験から、これ以上は、目の前にいる人物の神経を逆撫でする様な言動は、後々厄介な事になると分かっていたので、必死に弁明をし、

「・・・いえいえ! ・・・奥さん、決してそういった意味では・・・! ・・・今現在も、我が署の殆んどの警官総出で、捜索しておりますので・・・どうかもう少しだけ、お待ち下さい。・・・どうか我々を信頼して・・・」

すると母のサチコは、少しだけ落ち着きを取り戻したのか、しかし今度はやや陰鬱とした様な、疲れた表情で、

「あの例の・・・ナカムラさん? ・・・の所、って事は?」

すると警官は、即座にそれは否定をし、

「いえそれは・・・わたくしも昨日こちらからの帰り道に、御自宅に立ち寄りまして事情を伺ったのですが・・・ちゃんと私も良く顔を知っている、おばあさんが出て来まして、別にごく普通で、特に変わりは無いと、おっしゃられましたので・・・」

「そう・・・なの・・・」

さらに警官は続けて、

「・・・本日こちらに参りましたその途中でも、その家の前を通りかかりましたが・・・昨日までは確かに家の前に停車しておりました、引っ越し業者のトラックも、いなくなっておりましたので・・・おそらく例の話は、息子さんの、勘違いではないかと。ですので・・・」

「・・・そうなんですか・・・」

しかし母は、その言葉を聞いても、余計に心配になったのだが・・・

「・・・ともかく! 全力を尽くしてタカシくんは、我々が探し出しますので、どうかご心配致しません様に・・・!」

サチコは殆んど聴こえるかどうかの、ギリギリぐらいの大きさの声で、

「よろしく・・・お願いします・・・。ご心配をおかけして・・・誠に申し訳ありません・・・」

するとその警官は、なぜだかエラく気合の入った様な敬礼をし、

「・・・いえ! では、失礼致します・・・!」

と、またすぐにバイクにまたがると、来た方向とは逆の道・・・つまりはナカムラさん宅からは全く別の方向へと、走り去ったのであった・・・。

しかし、母親の心配はそれでも収まらず•・・おそらく今の時間は、就寝中だとは知りつつも、海の向こうの、ヨシヒコにまた国際電話を入れたのであった・・・。


・・・その様な事がまさか、我が家で起こっているとは露知らず・・・居間には、おばあさんとおじいさん、そして、ソファに腰を下ろしているタカシくんの目の前には・・・一丁の拳銃が、タカシくんに、銃口を向けられており・・・。

しかしタカシくんは、一体その様な自信がどこから湧いて来るのかは皆目不明であったのだが・・・マジック、に向かって堂々とした態度で、

「・・・おじさん。そんな物騒な物は、しまってよ? 僕は別に、騒いだりしないからさぁ・・・」

するとマジックは、ニヤリと笑ったかと思うと・・・その、本物なんだかどうかは分からない、拳銃をポケットにしまうと、

「・・・面白いボウズだな? まあ、その度胸だけは、褒めてやるよ。だが残念な事に、今のキミは・・・」

「分かっているってば・・・!」

と、タカシくんが遮ったのもお構い無しに、最後まで、脅し文句をどうしても言い切ってしまいたかったのだろうか・・・? ともかく、

「・・・まあ、言ってみれば、虫カゴの中の鳥、だからな?」

普段から推理小説などを書いているタカシくんは、そこはさすがに使い慣れた文句なのだろうか・・・? すかさず、

「それを言うなら・・・カゴの中の鳥、でしょ? ・・・虫、は要らないんじゃない? 虫カゴに、鳥は入らないでしょ?」

と、親切に、訂正をしてあげたのだが・・・ほんの一瞬、マジックは、恐い表情をして・・・しかしそこは、相手は小学生だからなのか、それとも、自分が優位に立っている事は明らかだったからなのか・・・又しても、ニタリ、と笑い、

「まあ・・・何だっていいさ。とにかくこの俺様に逆らうか、逃げようとでもしたら・・・ズキュゥン!・・・だからなぁ?」

と、少しおどける様に、拳銃を打つ仕草を・・・するとタカシくんも少しおかしそうに、

「・・・おじさん。本当に、撃った事あるの?」

「オイオイ、おじさんはよしてくれよ・・・こう見えても、まだ二十代なんだぜ? このオレは・・・マジックって言うんだ。・・・良く覚えておくんだな。」


・・・どうやら、カゴの中の鳥、となった三人が目の前にしている、マジックという男は・・・犯罪者という割には、どこかトボけていると言うか、ひょうきんな人物の様なのであった・・・。

・・・事実、彼は又しても、タカシくんがこの家に上がり込んだ事を、ボスであるプリズムに報告をするのを、すっかり忘れてしまっている様なのであった・・・。


7 妙案


 ・・・ナカムラさんの居間では、相変わらず四人がいて・・・そろそろお昼の時間という事で、おばあさんは居間と直接繋がったキッチン、いわゆるリビング・ダイニング・キッチンの厨房で、何か料理をしていて、おじいさんとタカシくんとは、その手前にある、木製のテーブルの席に着いていて・・・そしてやはりマジックという人物は、一応犯罪のプロなのか、きちんと三人を同時に見渡せる場所に陣取っていて・・・時々思わせ振りに、ポケットの中から拳銃を取り出して見せ、中の弾を確認していたりしたのであった・・・。

 そして、おばあさんの作った、鍋で茹でただけではあるのだが、美味しそうなラーメンがきちんと四人分、用意されて・・・三人はテーブルの席に着き、マジックはというと・・・その様子を監視しながら、しかし居間にあるTVを時々見たりしながら、優雅に昼食を取っていたのだった・・・。

どうやらおじいさんとおばあさんは、そもそもこの目の前の男の子が誰かすら全く分からず、しかしこっそりおばあさんから耳打ちされたので、おじいさんも一応、上手い事口裏を合わせて、親戚の子、という事にして・・・しかしそれでもやはり、実際に拳銃を目の前で見せられたりもしたので、食欲が無いらしく、箸がなかなか進まない様子なのであった・・・。

一方のタカシくんはというと・・・なぜだか少しばかり、いや、かなりの自信というか、あるいは何か、彼なりの秘策でもあるのか、あっという間にラーメンを食べ終え・・・そしてさらに、大胆にもマジックに、話し掛けたのであった。

「あの、おじさん・・・じゃなかった。マジックさん。ちょっと訊いてもいい?」

マジックは、まだ麺をすすりながら、

「・・・何だ? オレの本名とかは・・・教えてやらないからな?」

などと、TVを呑気に見ながら、今度はタカシくんの方を振り向いて・・・

「・・・あのさ。僕・・・宿題の答えが分からなくってさ。・・・マジックさん、算数は得意?」

「・・・算数!?」

どうやらその表情からして、決して得意だとは見えなかったのであるが・・・そこは小学生の問題だと侮ったのか、はたまた、ただ単に見栄を張ったというか、強がっただけなのか・・・

「・・・ああもちろん。オレはこう見えてもなあ・・・計算はかなり得意な方なんだぜ? 昔はよく、それでスロットマシンでゴッソリ稼いだりしたモンだ。」

・・・などと、およそ小学5年生に自慢など出来ぬ様な自慢話を、したのであった・・・。

「・・・じゃあ、ヒントでもいいから、教えてよ?」

マジックはラーメンを食べ終え、その気に、なった様なのだが・・・タカシくんが、

「ええと・・・500円玉で、1個100円のリンゴを3個買って、10%の消費税を支払って、途中でそのうちのリンゴ1個を、150円のブドウに・・・」

・・・そして、問題を全て聞き終えると、途端にマジックは、ウ〜ン・・・と唸ってしまい・・・

「・・・マジックさん、もしかして、分からないの? ・・・大人なのに。子供の問題だよ?」

と、挑発されるかの様な言葉を投げ掛けられ・・・どうやらその様子では、本当に分からなかった様なのだが・・・しかしそこはあくまでも、見栄を張り通して、

「・・・何言ってんだよ! そんなワケないだろ? ・・・大体宿題ってのはなあ・・・大人が教えちゃイケないモンなんだよ。・・・だろ?」

と、そこはなぜか、顔色のすぐれないおじいさんとおばあさんに賛同を求めたのだが、おじいさんがやっとの事で、

「ええ・・・まあ・・・そうでしょうねぇ・・・」

とだけ、答えるので精一杯なのであった・・・。

するとマジックは、いきなり立ち上がると・・・ポケットに手を入れ・・・相変わらず食の進まない二人は、怒って拳銃を取り出すのでは?・・・と思わず一瞬ギョッとしてしまったのだが・・・マジックが取り出したのは、その名前だからなのか、トランプのカードの束なのだった・・・。

「・・・いいか? オレの本当の特技を見せてやろう。・・・特別にだぞ? 大サービスだからな? いいか? 普段は絶対に人に見せたりは、しないんだからな?」

と、言ったが途端、慣れた手さばきで、ダイニングテーブルの上でパラパラパラと、素早くめくり・・・そしてタカシくんが思わず声を上げてしまう程に、さらにスピードを上げて、それを何度も切ってシャッフルすると・・・また一つの山にして、テーブルの中央に置いたのだった・・・。

そして、タカシくんに、

「・・・おい、少年よ。一番上のカードを、めくってみな? ・・・あ、オレには見せちゃダメだぞ?」

タカシくんは、言われた通りにめくると、その数字と絵柄を確認し・・・

「・・・よし。覚えたか? オッと、それはそのまま持っててもいいからな。」

と言い、またその残りのカードの山を、鮮やかな手付きで、再び素早くシャッフルすると・・・テーブルの上に置いて、

「・・・さて。キミが今持ってるカードは、何だったっけかな? ・・・オッ! 今度は見ちゃダメだからな? 口頭で答えたまえ。」

そこでタカシくんは、先程見たカードの種類を、

「ええと・・・ハートの、クイーンでした。」

すると次の瞬間、マジックは、ニヤリと笑い・・・

「・・・その手に持っているカードを、めくって見てみな?」

タカシくんが言われた通りにすると・・・何と驚いた事に、それは先程のものとは、いつの間にやら別のカードに入れ替わっていて・・・

「おい、ボウズ。じゃあお次は・・・その山の一番上のカードをめくって、みんなに見せてみな?」

タカシくんが、おそるおそるそれをめくると・・・何と、それは先程確かにタカシくんが引いた筈の、ハートのクイーンなのであった・・・。

「うわぁ・・・!」

マジックはえらく機嫌を良くしたのか、笑いながら、

「・・・まあキミには、クラスのクイーンのハートは、永遠に射止められないって事だね。・・・残念!」

これにはタカシくんばかりではなく、おじいさんとおばあさんも、驚いて・・・するとタカシくんはすかさず、

「・・・ねぇ? もう一回やってよ? マジックさん。」

するとその‘手品名人’は、

「・・・オレは同じ事は二度とやんねぇ。それに、特別だって言っただろ?」

「えぇ〜〜・・・」

文句を言うタカシくんに対して、マジックの達人、であるマジックは、急に尿意をもよおしたのか、

「・・・オイ、ちょっとトイレに行ってくるが・・・決して逃げたりするんじゃないぞ? ・・・逃げようとしても、すぐに分かるんだからな?」

と言いつつ、トイレの方へと向かい・・・するとその瞬間をまるで待っていたかの様に、おばあさんに、例のメモ紙を一枚渡し、そこには・・・

「ケータイはある?」・・・とだけ、書かれていたのだが・・・携帯は実はとっくのとうに、抜け目の無いプリズムに、取り上げられて・・・マジック自身が肌身離さず手に持っていたのだが・・・やはり油断して気が緩んでいたのか、今現在は、手品を見せる為に、居間の隅の棚の上に置きっ放しにしたまま・・・おばあさんはただ、黙ってそれを目で合図し・・・

・・・それからマジックがあっという間にトイレを済ませて、戻って来たのだが、念を押す様に、

「・・・何もしてないだろうなあ?」

と言い、部屋の中をグルリと、見回し・・・そして特には何も異常がない事を確認すると、

「・・・よし。」

とだけ言い、スープの残りをすすっていると・・・すると今度はタカシくんが、いかにもわざとらしくマジックに、

「・・・すごいなぁ・・・僕にも今度、教えてよ?」

と言うと、

「・・・何言ってんだよ。ダメに決まってんだろ。・・・それにしても、プリズムさん達は、なかなか帰って来ねぇなあ・・・」

と、ボヤくと、タカシくんが、

「・・・まだ息子さんから、身代金を貰えないの?」

するとマジックは、先程とは打って変わって、険しい顔つきとなり、

「子供は余計な事に、顔を突っ込むんじゃねぇ・・・!」

するとタカシくんは、

「それを言うなら・・・顔じゃなくて、首でしょ?」

しかしその言葉が、却ってマジックの機嫌を損ねたらしく、

「・・・オイ! あんまり調子に乗んなよ? 変な気を起こしたら・・・この拳銃で、ズドン!・・・だからな?」

するとなぜだか全くその脅しには怯まないタカシくんは、

「いくらマジックさんが、カードが得意だからって・・・そのポケットの中の拳銃一丁で、一度に三人も撃てるの?」

などと、さらに挑発する様な事を言うので、マジックは、

「ああオレはこう見えてもな・・・臭いメシを、何度も食ってきたんだぜ? ・・・さっきのラーメンは、美味かったケドな。」

「・・・ありがとうございます・・・」

おばあさん自身は、どんぶりの中の半分程を残しながら、もう手を付ける様子はないのであった・・・。

しかしタカシくんは、マジックの警告は無視し・・・依然として突っ込んだ質問を浴びせ・・・

「・・・何でマジックさん達は、この家に押し入ろうと・・・この家を狙ったの?」

しかしマジックはどうやら、根っからのお喋り、であるらしく、意外にあっさりと‘機密情報’を・・・

「それは決まってるじゃぁねぇか・・・俺達三人は、プロ中のプロだって言っただろ? ・・・まずはこの、閑静な住宅街に目を付けて・・・さらにその中でも、一番金持ちそうな家に・・・しかし生憎と、その家は警備が厳重だったモンでね。・・・引っ越して来たばかりで、その上息子がヴェンチャー企業家とやらで、エラく羽振りが良いと、何かの雑誌に載っていたと、プリズムさんが言うモンでね・・・」

「へぇ・・・プリズムさんって、そんなに頭がいいんだ?」

「何でも・・・普段は、表向きはイベント会社か何かを経営しているらしいんだが・・・まあ、オレに言わせれば、このオレとエニグマ二人と全く同じ、コソ泥には変わりゃしないな。・・・あ、この事は絶対に、ボスには言うんじゃないぞ? ・・・オレがどんな目に遭っても、キミは平気なのかい?」

するとタカシくんは、その時は実際に、その様に思い、決してお世辞などではなく、

「困るよぅ〜・・・もう一度、マジックが見たいしね。」

「・・・だろ? ・・・ア。またオシッコしたくなってきちまった・・・水を飲み過ぎたぜ、マッタク・・・!」

と、マジックがトイレの方向に消えると、タカシくんは慌てて、例の棚の上に置かれた、携帯に向かって、

「・・・もう切ります・・・これ以上は、怪しまれますので。」

・・・そして間も無くマジックがすぐに戻って来たのであるが・・・特に気にする風でもなく、彼の、武器、であるトランプのカードはポケットにしまって・・・そのたった今、タカシくんが切ったばかりの携帯を、また自分のすぐ近くへと置いて、三人の監視を続けたのであった・・・。


実はタカシくんは、おばあさんがラーメンを作り始めた時に・・・一度だけプリズムらしき人物からマジックへとメールらしきものがあり・・・それを熱心に読んでいる隙に、おばあさんに例のメモを・・・そこには「塩を多めに入れて?」と、書かれていて・・・さすが普段から推理小説を書いているだけの事はあって、咄嗟の思い付きではあったのだが・・・しかしその思惑は見事に当たり・・・そうしてタカシくんは、その後マジックがトイレに立った隙に、110番に掛けると、しかしそこからが、タカシくんの発想の見事さであり・・・彼自身は携帯など持った事はないのだが、以前、父のヨシヒコから、ある機能を、教えてもらってえらく驚いた事があったので・・・。


・・・しかしどうやら、先程のボスからのメールで、マジックはプリズムとエニグマとが少しだけ手こずっているというか、時間が掛かりそうだとの、報告は受けていたらしく・・・どうやら徹夜を承知の上で、寝ずの番、の為の、夜食をもうすでに、おばあさんに頼んでいたところなのであった・・・。

タカシくんは、マジックや他の仲間や、あるいは助けを求めた警察の行方も気になりつつも・・・徐々に眠気が襲って来て・・・。


8 解答


 ・・・次にタカシくんが気が付いた時には、またしてもチュンチュンと、スズメの鳴き声と、居間に差し込む朝日とで、目を覚ましたのだが・・・

・・・すると。それとほぼ同時に、玄関のベルが鳴り響き・・・今にも眠りそうになりながら、寝ぼけ眼をこすっていたマジックは、仲間達を出迎えようとしたのだが・・・それでも一応、別人の可能性もあったので、もうとっくに起きていた、というより殆んど眠れなかったらしい、おばあさんにまたいつもの如く指示をして、来訪者の対応をさせたのであった・・・。


おばあさんが玄関のドアを開けると・・・薄いブルーの繋ぎの服を着た、人物が一人、現れて、

「・・・お早うございます! この近くで、ガス漏れがあったもので・・・付近一帯のお宅を一軒一軒、点検しております。・・・お邪魔しても、構わないでしょうか・・・?」

そこでおばあさんは、背後で見張っているであろう、マジックの方をチラリと、振り返ったのだが・・・扉の陰から、彼が顔と手を少しだけ出して、入れろ、という合図をしたので・・・

「・・・どうぞ。ウチは・・・大丈夫だとは思いますが・・・?」

「・・・失礼します!」

と、そのガス会社の従業員だという人物は・・・確かにその薄いブルーの制服の袖には『ローキョーガスサービス』というネームタグが入っており、キッチンのある居間や、バスルームなど、一通り関連のありそうな箇所を、丹念に調べていたのであるが・・・その間中、マジックは一言も発せず、ただ黙ってその人物の一挙手一投足を、さも家人であるかの様に装って、観察、していたのであるが・・・特にこれといって怪しげなところも無かったらしく、そのガス会社の人物は、

「・・・こちらのお宅は、大丈夫の様ですね。・・・朝早くから、失礼致しました。・・・では!」

と、軽く会釈をして、すぐ外に止めてあったガス会社の車に乗って、たちまちの内に去って行ってしまったのであった・・・。

その様子を、マジックとおばあさんと共に、おじいさんとタカシくんも、成り行きを見守っていたのだが・・・すると今度は、外の道路で大きな音がしたので、

「・・・オイオイ、今度は一体何だよ・・・!?」

と、マジックが閉められたレースカーテンを少し開いて、そこから見てみると・・・一台の道路を舗装する為の、いわゆるローラー車、がガタゴトガタゴトと、ナカムラさんの家全体をも揺らす様な、音と共に、ゆっくりと家の前の坂道を、上って行って・・・やがて4、5分程かけて、通りの遥か向こうに、消えて行ったのであった・・・。

「・・・オイオイ、何が、閑静な住宅街だよ・・・?」

と、マジックはボヤきつつ、しかしやはり昨晩から徹夜であったので、さすがに二十代とは言いつつも、相当疲れているらしく、ソファの上に、仰向けになりつつ・・・しかし三人の事はしっかりと監視して、必死で眠気を堪えている様なのであった・・・。


・・・しばらくして、突然また、玄関のベルが居間中に鳴り響き、その音で今にも眠りに就きそうになっていた、マジックは慌てて飛び起きると・・・またいつもの通り、おばあさんに、玄関の扉を開けさせると・・・そこにマジックにしてみればよく見知った顔、エニグマとプリズムとが・・・特にエニグマは、例の銀色のジュラルミンケースを、まるで戦利品の様に、その太い腕で持ち上げてマジックに見せながら、

「いやあ・・・こんなに上手く行くとは、思わなかったぜ?」

と、大喜びだったのだが、ボスのプリズムは相変わらず、油断も隙も無く、家の中を見回しつつ・・・しかし玄関を上がる時点でもうすでに、子供サイズのスニーカーが置かれている事に眉を少ししかめ、

「・・・私達の留守中に、何か変わった事はなかったかね?」

するとエニグマと同じ様に、計画が見事に成功した事に喜色満面のマジックは、ハイテンションのまま、

「・・・あ、はい。・・・特に何も。・・・問題など、ありませんでしたよ!」

と、言ったのだが、プリズムは鋭い口調で、

「・・・では、あの子供は何だね?」

と、タカシくんの方を見て言ったのだが・・・そこで初めて、ボスへの報告を怠っていた事に、気が付いて、

「・・・あ、あれは・・・親戚の子だと・・・別に怪しいヤツじゃあ、ありませんよ?」

「・・・何か少しでもおかしな事があったら、報告を入れる様にと、あれほど言っておいた筈だが。」

「・・・スンマセン・・・」

「・・・それに。・・・絶対に誰もこの家に、上げるなと・・・それも忘れたのか?」

もはやマジックには、何も答える事すら出来ず・・・ただ空しくしぼんでしまった風船の様に、縮こまっていると・・・何とそこで、タカシくんが果敢にも、いや無謀にも、そのいかにも冷酷そうなボスに向かって、ごく普通に、話し掛けたのであった・・・。

「おじさんが・・・ボスの、プリズムさん? ・・・僕はタカシって言います。・・・どうかよろしく。」

「・・・私の名前を? キミは一体・・・」

そう言いつつ、怒りのこもった表情でマジックと、逆にこの様な状況で二人の老夫婦とは対照的に、全く平然としたこの小学生を、恐れに似た表情で、交互に見つつ・・・するとタカシくんは、この場にはそぐわない様な、的外れの質問をしたのであった・・・。

「・・・プリズムさん、算数は得意?」

「さ、算数・・・!? キミは一体、何を言っているのかね・・・?」

確かに人質である人間に、例えそれが子供であったとしても、その様な突拍子も無い質問をされれば・・・いくら犯罪のプロ、であったとしても、その様な当惑した表情を浮かべるのは、当然といえば当然だったのかもしれない。

ともかく、プリズムには何の事だかサッパリだったのだが・・・しかしそこはやはり、もしかしたら彼自身も、計画が成功した事で、少し気が緩んでいたのかも知れない・・・ともかく、一応質問には答えて、

「・・・ああまあ、少なくともこの二人よりは、倍とまでは行かないまでも・・・IQは遥かに上回っているだろうねぇ・・・だが、それがどうした?」

「いやそれがさぁ、算数の宿題の答えが、どうしても分からなくって・・・」

「それを私に、教えて欲しいと言うのかね?」

「ええ、まあ・・・出来れば。」

「・・・アッハッハッハッ・・・!」

最後の言葉を言った時のタカシくんの表情が、真剣だったからなのか・・・はたまた、この目の前の少年が、彼のおそらく相当長い‘犯罪人生’の中での経験に照らしてみても・・・全くの無害、であるどころか、1%たりとも脅威にすらならないと考えたのか・・・ともかく、この人物にしては珍しく、実は仲間の二人にとっても初めて見る表情だったのだが、大声を上げて笑いながら、

「・・・よし。一応その問題を、聞いてやろうじゃないか・・・? さあ、話してみたまえ?」

タカシくんはそこで、例の算数の宿題の問題を、プリズムにも、話して聞かせ・・・

「・・・なるほど。・・・そんな簡単な問題かね? ・・・キミが悩んでいたというのは・・・」

「ええ・・・まあ・・・」

「その答えはだなぁ・・・」

しかしそこで、ふと、タカシくんが姿勢を変えた瞬間に、ズボンのポケットから、一枚のメモ紙が、ヒラヒラと、舞いながら居間の床へと落ち・・・

「・・・これは? いったい何だね?」

と、プリズムがそれを素早く拾い上げ・・・タカシくんとおばあさんは、一瞬そこで、しまった、という表情になったのだが・・・

「・・・牛乳、納豆、長ネギ、豆腐にヨーグルトとマーガリン・・・何だこれは?」

それは母のサチコから、買い物の時に渡されたリストの、メモの様で・・・。

するとタカシくんは、それを聞いて正直、ホッと安堵したのであるが・・・しかしそこは、ポーカーフェイスのまま、白々しく・・・こんなところでまさか、いつも母に適当な言い訳やら嘘を付いている事が、役に立とうとは・・・所詮は、子供の、他愛もない嘘ではあったのだが・・・

「・・・ああそれは。お母さんに頼まれて、お使いの途中だったんだけど、たまたま・・・」

するとプリズムは、そのメモをクシャクシャに丸めて、くずカゴに放り入れると、

「・・・まあ、どうでもいいメモだな。・・・よし、答えを教えてやるとするか。答えはな・・・」

すると次の瞬間、ガラス窓の割れる音、玄関のドアのこじ開けられる音、などと共に・・・十数名の武装した警官達が一斉に、居間へと雪崩れ込んで来たのであった・・・。

そして拳銃を構えながら、一人の特殊部隊らしい、隊員が、

「・・・よし! 三人とも、温順しくするんだ・・・! ゆっくりと手を頭の後ろに回して・・・床に這いつくばるんだ・・・!」

三人はすぐに観念したのか・・・しかしマジックはそっと、ポケットに手を入れつつ・・・中に入っている、拳銃を取り出そうと・・・。すると、

「・・・おい、お前! ゆっくりとその拳銃を、取り出すんだ! ・・・ゆっくりとだぞ?」

マジックはその指示に従いつつ、

「・・・なぜそれを・・・?」

と、訝しげな表情で、居間の床に、這いつくばったのであった・・・。


三人が手錠を掛けられ、連行されていく中・・・一人の特殊部隊員らしい若い人物が、タカシくんの側まで来て、

「・・・キミがタカシくんかい? ・・・いやあ、キミのお陰で・・・キミがたった数分間でも、携帯をスピーカーモードにしておいてくれたお陰で、この家の中の様子が、手に取るように分かったよ。・・・お手柄だね!」

「・・・あのガス工事の人は、警察の人ですか?」

するとその隊員は、

「ああ・・・よく分かったね。あれで、確かにキミの電話の通り、犯人は全部で三人で、他には誰も隠れていない事が分かったので・・・踏み込んだってワケさ。・・・あと、ついでにだけど、あのローラー車もね。あの騒音の隙に、我々は庭に忍び込んで、隠れて犯人全員が、合流するのを待っていたのさ。」

「へぇ・・・!」

これにはさすがの、推理小説作家、も驚いたのであるが・・・次の小説のトリックとして使えるかな?・・・などと、呑気に考えていると・・・連行されて行く三人の内の最後の、プリズムが手錠に繋がれたまま、タカシくんのすぐ脇を通りながら、

「・・・キミには、してやられたな。・・・しかしキミも、宿題の答えが聞けなくて、残念だったな。・・・まあ、そういう事は、あまり他人に頼らない事だよ。」

と、捨てゼリフの様な、あるいは捉えようによっては、助言の様でもある・・・と、言うのも、その口調が、母のものとそっくりだったのである。


・・・タカシくんが、ナカムラさんの家から出て行こうとすると、おじいさんとおばあさんが、近付いて来て・・・おばあさんは、涙がこぼれ落ちそうになるのを、必死に堪えつつ、

「・・・ありがとう。あなたは・・・親戚って言うより、まるで大事な孫の様ね? ・・・またいつでも良かったら、遊びに来て頂戴ね?」

「はい・・・!」


そしてタカシくんは・・・手を振りながら、ほんの十分程の所にある、我が家へと、ようやく帰宅の途へと、就いたのであった・・・。


9 補習


 ・・・タカシくんが何だかとても懐かしい様な気がした、我が家へと戻ると・・・母のサチコが、暖かく迎え・・・る筈もなく、開口一番、

「・・・ちょっとあなた・・・! 一体、どういうつもりで・・・あれだけ探偵ごっこは、やめてって・・・どれだけ心配をした・・・」

しかしそこまで言うと、さすがの怒れる女王である、サチコも、言葉に詰まってしまったらしく・・・奥の部屋に黙って引っ込んでしまったのであった・・・。


・・・タカシくんは手洗いとうがいを済ませると・・・その母のいる、部屋へと入って来て・・・

「・・・ごめんなさい・・・」

と、さすがにそこは、素直に謝ったのだった・・・。

するとサチコは・・・まるでそのままでは自分が泣き崩れてしまうとでも思ったのか、あるいはただ単に、照れ臭かっただけなのか、話題を逸らして、

「・・・ところで、例の算数の問題は解けたの?」

と、聞くと、タカシくんはパッとしない表情で、

「・・・ううん・・・まだだよ。もう少しで、教えて貰えそうだったんだケドね。」

すると母は、

「・・・そういう事は、他人に頼っちゃダメでしょ?」

「その人にもそう言われたよ・・・」

「・・・でしょ? まともな人なら、みんなそう言うわよ?」

タカシくんはふと、あの三人、エニグマはともかく、マジックとプリズムの事を、一瞬考えてしまたのであった・・・。

「・・・でも、あなたどうして、こんな無茶な事を?」

と母が不意に、尋ねたのだが・・・タカシくんは決して、言い訳のつもりで言ったわけではなかったのだが、

「だって・・・お母さんが、何事も自分で解決しなさい、って言うから・・・」

すると次の瞬間、厳格ではあるが愛情溢れる母親は、

「・・・ホラ! 早く自分の部屋に行って、その問題を、解いてしまいなさい・・・?」

と、非情とも思われる言葉を・・・これにはさすがのタカシくんも、これならばあの、マジックやプリズムの方がまだ親切で優しかったと・・・つい思ってしまったのだが・・・。


しかしすぐに観念して、二階の自分の部屋へと上がり、『宿題』に早速取り掛かったのであった・・・。





終わり


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宿題 福田 吹太朗 @fukutarro

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