A and X

染井雪乃

染色体は、すべてを決定しない。

 ヒトの性別は、性染色体によって決まる。多くの場合、XXかXYで、そうでない人には病名がつく。

 これが、僕の得た高校生物での知識だった。生物学において、それは間違いではない。そして、僕の得た性染色体は、XXだ。戸籍上は女性で、身体的にも女性の機能を有している。


 しかし、僕には性別がない。根拠はないが、そう思う。男性になりたいとは思わない。女性として扱われて得をする分には、拒絶はしないものの、内心では鳥肌が立っている。

 女性に押しつけられているジェンダー的役割、いわゆる「女性らしさ」が苦手なだけではないのかと思いもした。たしかに、僕は、「女性らしさ」を押しつけられるのは嫌いだ。

 料理も裁縫も、穏やかな微笑みも、細やかな気配りも、おおよそ女性が「そうあるべき」とされていることの何もかもができないし、する気がない。

 それは、「女性らしさ」の拒絶であって、無性を自認することではないと、僕を男女どちらかに押しこめようとする言葉がある。


 僕の人生だ。僕の命で、僕の性別だ。

 僕が自分に性別はないと言ったらないのだ。


 女性として、生殖機能を有していると自覚する度、僕は自分をおぞましく思う。正直に言えば、吐き気がする。意識とその容れものである、身体がフィットしていないのを強く感じる。

 そうかと思えば、髪を伸ばすとか、スカートを履くとか、いわゆる女性らしいとされるファッションをするのに、さして抵抗のないときもある。

 だが、学生時代の制服で常にスカートを履くのは苦痛だった日もある。スラックスを選択肢に加えることができれば幾分か違ったかもしれない。


 ノンバイナリーやXジェンダーと呼ばれる性自認であるらしい。とはいえ、このなかには、中性(男性と女性の中間)とか、両性(男性と女性どちらも併せ持つ)とか、無性以外にもさまざま人が含まれる。ノンバイナリーやXジェンダーは、結構広い概念だ。

 ノンバイナリーをカミングアウトした著名人もいるので、ノンバイナリーと名乗るのが、多分、「理解って」もらいやすいのだろう。でも、僕は、「Xジェンダー」と名乗りたい。

 Xは、何にでもなれるから。

 Xは、男と女以外のすべてを含む、いや、それどころか、性別という概念からすら、僕を自由にしてくれる気がする。

 僕を解放する言葉の一つが、「Xジェンダー」なのだ。


 性別を決定するものは染色体ではない。

 他人でもない。

 僕自身だ。


 僕の性別は、X。

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