主人の蝋燭を節約するためにすべてを暗闇の中で行うこと
渡邊利道
(001〜005)
(001)土塊から、まっすぐに白い太い手が伸びてきて、お前を掴む。ものすごい力で首を掴み土塊の中に引きずり込む。身体を突っ張って抵抗してもぐいぐい締め付けられる指のために息もできず、目の前が真っ暗になり、許さないぞという声に包まれて気が遠くなる。
(002)手袋が台所のテーブルの上に置いてある。夕日が差して、部屋中が薔薇色に染まっているが、手袋は夜会服に合うようなつややかな白い薄手のもので、つい今しがた脱いだばかりのように膨らんでいる。君はそわそわして、急いで台所を後にして階段を登る。
(003)雛菊のひとむらが咲く庭を、一匹の太く長い蛇が横切っていく。その蛇をさかいめにしてあちら側が際立っていくのが明瞭に感じられるが、蛇が庭を渡りきってその長い肢体を森の中へ隠してしまうとまるであっけなくさかいめは消えさってしまう。
(004)見て、雪よ、雪。言いながら彼女が窓をさっと開けて、夜に向けて身を投げ出すようにして、その肩越しに月が見え、冷気が部屋に流れ込んでくるので皮膚が粒立つ。粉雪が深い穴のような空からひっきりなしに落ちてくる。その一粒が君の頬に当たって溶ける。
(005)植込みの薔薇が雨の中で色彩を失っている。とても寒いので悴んだ指をさすりながら、いやあれは黄色だろうとか、赤に決まってるじゃないかとか、青い薔薇というのはちょっとしたものらしいねとか、囁き交わす声を聞いている。時折くすくす笑いが混ざって。
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