ヤンデレ女に愛されて夜も眠れない日々のこと
馬草 怜
1 ヤンデレと訪問
「おはようございまーす! 朝ですよー」
快活な声が聞こえる。爽やかな朝だ。眠い目をこすりつつ、声のする方へ歩いていく。
「起きてくださーい、遅刻しちゃいますよー」
わかったわかった。すぐ行くから大人しくしてくれ。
「あと十秒以内に開けてくれないと、大変なことになりますよ? いーち、にー、さーん」
ガチャリ。まだ冷たいドアノブをひねる。
「わかったからドアを叩くのはやめてくれ」
「やっと開けてくれた。もう、女の子を待たせるなんてひどい人」
「あのさ、今何時かわかってる?」
「えっ? 朝の5時ですよね? 時計壊れちゃったんですか?」
「いや、あのな、朝の5時ってのはみんな眠い時間なんだ。前にも言ったよな? 朝早くに来るのはやめろって」
「先輩の言葉を忘れるわけないじゃないですか。だから私反省して、昨晩からずっと玄関前で待機してたんですよ? 朝早く来たわけじゃなくて、昨日の夜に来たんです」
「お前その屁理屈マジで通用すると思ってんの?」
「えー、これもダメかあ……」
この頭のおかしい女は「
「つきまとってるんじゃなくて、見守ってるんですよ」
「当然のように心を読むな」
「先輩の考えてることなら何でもわかりますから」
「俺はお前の考えてることは一つもわからん」
「私の考えてることですか? 『先輩のことが好き』以外頭にありませんが……」
「ああもう気色悪い!早く帰れ!」
「そうですね、じゃあ帰らせてもらいます」
ふう、と安心したのも束の間、椿は俺の脇をすり抜け、家の奥へと進んでいく。
「帰るんじゃなかったのかよ!」
「ここが私の第二の我が家なので」
「いつここがお前の家になったんだよ! 賃料を払え!」
「賃料を払えば住んでもいいんですか!?」
「ああもう出ていけバカ!」
ソファに座ろうとした椿を抱え、無理やり外へと運んでいく。「あら、大胆……」とか何とか言ってたが、当然無視だ。部屋に入り込んだ虫は追い出すに限る。
「じゃあな、俺は二度寝する」
「でしたら是非ご一緒に……」
「自分の家で寝ろ。もしくはその辺で寝てろ」
「そうですね、玄関前で寝ればいつでも先輩に会えますしね」
「踏まれても文句言うなよ」
「踏んでくださるんですか!?」
「なんで嬉しそうなんだよ気持ち悪い……さっさと帰れ」
椿を抱えたまま無理やりドアを開け、外へ放り出す。器用にも椿は抱えられた姿勢から無事に着地した。
ヤツの無駄に長い髪がふわりとなびく。
「では、先輩。また大学で」
「大学で会っても無視するからな」
「返事してくれるまで追いかけますからね」
「うるせえ帰れ!」
乱暴にドアを閉める。ようやく静かな空間が戻ってきた。まったく、アイツに出会ってからというもの、心が安らぐ暇もない……
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