異端教師と最底辺の召喚学校~SSR級美少女召喚獣にヤンデレ気味に懐かれる生徒たち。と思いきやウチの女神も似たようなものだった
南川 佐久
第0話 回想、召喚学校の二年SSR組
朝。リヒトはHRのため教室の扉を開け――ようとして踏みとどまる。教師も二年目ともなれば何を躊躇うこともないのだが、今一度己の佇まいを見下ろしてよもや、と足を止めたのだ。
ローブの下、シャツの襟を少し広げて鎖骨の辺りを確認し、短くため息を吐いた。
(あいつ……またやりやがったな)
見ると、そこには小さな赤い斑点。よくよく見ればキスマークにも見えなくないソレは、紛うことなきキスマークだ。
わけあって共に暮らして(封印して)いた女神を教員寮の同室にこっそり住まわせるようになってからというもの、朝起きると毎日どこかしらに新しく鬱血を作られている。
リヒトの事を溺愛する女神はまるで子供のように無邪気にすり寄って愛情を振りまくが、こういう過剰な表現というか、生徒たちの目に毒となるものは自重していただきたいものだ。
リヒトはシャツを気持ち直してそのキズを見えないようにすると、扉の内側から聞こえる喧噪にもう一度ため息を吐く。
「フィヨルド! ああ、私の愛しいフィヨルド! 今日も朝ご飯を一緒に食べられて嬉しいわ~! 食堂のモーニングはいつも絶品よね。まあるいふわふわ、お月様みたいなオムレツ、私大好きなの! ああでも、あなたの方が大好きよフィヨルド?」
「わかった、わかったから離れてよアリア。さっきから頬ずりされる度に鱗が顔にこべりついて口に入りそう……!」
「あら、仕方ないでしょう? あなたは私と『ずっと傍にいる』って
だが、掃除が終わるのを待っていてはいつまで経ってもHRが始められない。リヒトは背筋を伸ばし、覚悟を決めてドアを開け放った。
二年SSR組。その名の通りSSR級召喚獣とその
「おはよう、諸君」
開け放つと、ふたりの女生徒が涙目で床を拭く気弱そうな少年を気にすることなく挨拶を返す。
「あ。センセ」
「おはようございます! リヒト先生」
大きな声で挨拶してくれたのは真面目で努力家な学級委員長の
その隣には大きな体躯の白いライオン――東の神獣
白澤は尻尾をふりふり、今にも泡に飛び掛かりそうだし、サキュバスの方は昨夜吸精したばかりなのかえらく機嫌と肌艶が良い。うっとりと品定めするように教室にいる生徒とリヒトを見流して、やっぱり
「ねぇメアリア、お腹すいた~」
「えっ、もう? うそ。昨日シたばっかじゃん……」
「足りない足りない足りないわよぉ~! リリスの眷属の性欲、ナメないでくれるかしら~?」
「ちょ、教室でそういうこと言わないで……!
と。黒髪の少女をチラ見しながら赤面する
気にせず教卓につき出欠を取り始める前に、やはり目の前の空席が目に付く。
「カインは今日もサボリか」
午前九時過ぎ。朝のHRはとっくに始まっているのに毎度のごとくこのザマだ。
まったく、天使のマスターが聞いて呆れる。
だが、天使というのは得てして『ダメな子』を養い庇護することを好むというから、あの引き籠りオタク野郎が主なのも納得……していいんだろうか?
カインの奴は、入学式の召喚の儀で美少女天使サリエルを引き当ててから「ボクは勝ち組」と言って部屋に引き籠り、最近では体育と実習以外はタブレットでリモート参加する有様だった。
しかし、今日は一限目から体育、もとい戦闘訓練だ。来てもらわなければ困る。リヒトは掃除を終えて膝に半裸の美少女人魚を抱っこしたフィヨルドに声をかけた。
「フィヨルド、隣の部屋だったな。すまないが様子を――」
「あ。カイン君なら今朝がた後輩の女の子に『きゃ~! あのひとイケメン!』って遠巻きに声かけられて、『人を見かけで判断するとか何あの失礼すぎる女子。メンタルくそやられた不貞寝しますわ』って帰っていきましたよ。ほら、今日は体育でコンタクトの日だから」
「ああ、あいつ顔だけはいいからな。今度その後輩女子とやらに鼠色のスウェット姿で汚部屋に転がる瓶底メガネのあいつを見せてやれ」
ちなみに、最近では部屋に籠って動画配信なんぞに勤しんでいるらしい。
いくら勝ち組(とは思えないが)でも将来はできることなら不労(不動)で収入を得たいらしく、日夜チャンネル登録者数を増やそうと目論んでいるとか。
確か、チャンネル名は『天使様のおみあしチャンネル』とか言ったか? キワドイコスプレ姿の天使のえっちな自撮りをアップした違法ギリギリ配信らしいが、当の天使はノリノリらしいので止めはしない。別に校則違反じゃないし。
「とりあえず、一限に間に合うように体育館に来いと伝えてくれ。最後、スノウホワイト」
そう言って窓の外を眺める雪のように白い少女に視線を向ける。
と。可憐な横顔からは想像もつかないような凍てついた眼差しを返され――
「――ん。」
ただそれだけ。相変わらずそっけない奴だ。
猛烈に舞う吹雪のごとく、心の奥底も召喚獣も隠している。
(一年経っても読めないな……)
そろそろいい加減内面を明かしてもいいとは思うのだが。
いつもながらに観念して名簿を閉じると、瞬間。ドアの向こうに眩い後光が差す。
隙間から入って来たのは純白の羽根――サキュバスが「うげぇ!」と慌てて姿を隠した。現れたのは、六枚の白翼を携えた大天使、ガブリエーレだ。
「ピエールが、体育館の用意ができたから皆を呼んできてって~」
うふふ! とにこやかに笑みを振りまく薄桃の髪の大天使。豊満な身体を惜しむことなく晒した肢体は、六翼で隠されていなければ公然わいせつ罪で捕まるかもしれない肌色面積だ。主であるピエールは「服なら着てるよ。心の目で見て」とか抜かしているが、やはり何度見ても無理がある。
とはいえ担任の先生がお呼びだ。副担任であるリヒトは生徒たちを引き連れて体育館に向かうこととなった。
今日も一日授業が始まる。楽しみなような、面倒なような。
ああでも、今日はお昼に美少女教師のオフィーリアに食事に誘われていたんだっけ。「食堂の日替わりがとってもオススメだから……」とかなんとか。恥ずかしそうに述べていた。それだけが少し楽しみだ。
リヒトがこの召喚学校で教師をするのは旧友エヴァンスとの約束があるからだった。
学院を守り、生徒を守る――そして、いつか必ず。
この学院に潜む『エヴァンスを殺した者』を炙りだす……
その日まで、しばし先生業に勤しむとしようか。
リヒトはローブを翻し、「先生、はやく!」と手を振る生徒たちの後に続いたのだった。
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