第33狐 「楽しい遊園地」 その4

 ゴーカート競争で一位になった白馬君が爽やかに微笑みながら、お化け屋敷をペアで回りたい相手を発表する時が来ました。皆の視線が白馬君に集まります。


「俺が一緒にお化け屋敷を回りたいのは……この人!」


 桃子ちゃんの真似をしたのか、白馬君が意中の人を指さしました。

 今度は白馬君が指さした先に、皆の視線が集まります。

 そのお相手とは……。


「航太! 俺と一緒にお化け屋敷を回ろうぜ!」


 白馬の王子様のご指名は、何と航太殿でございました!


「えっ? おおっ!」


 指名された航太殿も驚いている様子ですが、周りの女子達も余りの出来事に唖然としております。

 中には『白馬君に指名されたら……』と、密かに思っていた者も居た様でございますが、白馬君が選んだのは航太殿でございました。

 いったいどういう事でございましょう。


「白馬! 何ゆえに航太殿を指名するのじゃ!」


 唖然としていた女性陣の中で、いち早く正気を取り戻された美狐様が声を上げられます。


「……そ、そうですわよ。何で航太君ですの?」


「お前、何かの嫌がらせか! それとも只のアホなのか?」


 他の女性陣も美狐様に続き非難の声を上げます。

 ですが、言われた白馬君は爽やかな笑顔のままです。


「それは、この中で一番仲良くしたい相手が航太だからさ」


「何じゃと……」


「観覧車に取り残されて、怖くて倒れている俺を直ぐに助け出してくれたのは航太だ! 俺は航太ともっと仲良くなりたい!」


「なっ……」


「うっ……」


「そう言えば……」


 白馬君のもっともな主張に、誰も反論できません。

 航太殿が美狐様達のひざ枕の途中で居なくなったと聞きましたが、実は白馬君を助け出しに行っていたのです。


「航太!」


 白馬君が航太殿に駆け寄り手を握りました。航太殿も強く握り返しています。


「白馬! 俺は入学以来、男の友達が全然出来なくてさ。仲良くしてくれたら凄く嬉しいよ」


「航太。一緒に海に行った時から仲良しじゃないか! これからは、もっと一緒に遊ぼう!」


「おお! 白馬ありがとう」


「おう! 航太は今日から親友だ」


 イケメンで高身長の白馬君が航太殿を抱き締めました。

 友情で結ばれた二人。何ともまぶしい光景でございます。


「まあ、何だかキュンキュンしちゃうわぁ」


 競争に参加していなかった陽子ちゃんが、抱きしめあう男子を見て、堪らないといった感じで体をくねらせています。

 そう言えば、陽子ちゃんはそのジャンルの本を、いつも楽しそうに読んでいた記憶が……。


「よし! 一緒にお化け屋敷に行くぞ!」


「ああ! 行こう!」


 白馬君は航太殿と手を取り合い、お化け屋敷の方へと走り去って行きました。

 取り残された女子達は呆然としています。


「白馬の王子様が、女達が愛する男を奪い去って行くだなんて! なんて美しい……。これから二人は……うふふ」


 妄想の住人になってしまった陽子ちゃんを置いて、殆どの女性陣は二人の後を追いかけて、お化け屋敷の方へと行ってしまいました。

 私はというと、華ちゃんに手招きされて、そのまま巨大ソフトクリーム売り場へ。




「ねえ、華ちゃん」


「なあに、咲ちゃん」


「これ、いくらなんでも大き過ぎない?」


 華ちゃんの手には、先端が頭よりも高いソフトクリームが握られています。

 一生懸命に食べている様ですが、一向に減っている様には見えず、段々と溶け出して来ていました。


「うーん。大きすぎるニャ! ねえ、咲ちゃん」


「なあに、華ちゃん」


「反対側から食べてニャ!」


「うん。分かったわ」


 華ちゃんに助けを求められ、私も巨大ソフトクリームを食べ始めます。

 倒れないようにと、私もソフトクリームのコーン部分を一緒に持って、一心不乱に食べ続けました。


「美味しいけれど、なかなか減らないわね」


「もう限界ニャー」


 その時でした、未だ半分も減っていないソフトクリームが、重みに耐えきれなくなったのか、半ばで折れ曲がり地面に落ちて行ったのです。


「あニャー……」


 落ちたソフトクリームの残骸を眺めて視線を戻すと、折れて残った部分の先に、顔中ソフトクリームだらけの華ちゃんの顔がありました。


「ぷー。華ちゃん、顔クリームだらけだよ」


「うふ。咲ちゃんも同じだニャ!」


 華ちゃんはそう言うと、顔を寄せて来て私の顔を舐め始めました。私も華ちゃんの顔を舐め返します。

 いつもの様に、二人で仲良くグルーミング毛繕いです。

 目を細めながらペロペロ舐め合い、至福の時を過ごしていました。


「ねえ、あの二人……」


「おお! 可愛い娘同士で顔を舐め合ってる……。ちょっと良いかも」


 周囲の人の言葉で、ハッと我に返りました。

 今は二人とも人の姿に変化している状態。

 いつものグルーミングの時の様に、狐と三毛猫の姿ではありません。


「華ちゃん、この状況は不味いわ!」


「咲ちゃん、逃げるニャ!」


 二人でドロドロに溶け始めたソフトクリームを持ったまま、皆が居るお化け屋敷の方へと笑いながら駆け抜けます。

 危うくボーイズラブ後の百合展開になるところでございました。


 ――――


 ソフトクリームを限界まで食べた後、ベトベトの手を洗い、お化け屋敷へと辿り着くと、航太殿を追いかけた女性陣が入口前に集まっていました。どうしたのでしょう。


「まだ入れぬのか? これでは航太殿に追い付けぬではないか!」


「まあ、追い付かない様に時間を置いて入場させているのだから、仕方がないよな」


「私は出口で待っていようかしら……。もう一回お誘いすれば良い訳だし」


「ならば、わらわは追いついて白馬に取って代わるまでじゃ! 白馬め、こしゃくな真似をしおって」


 女性陣は航太殿とのお化け屋敷巡りを、まだ諦めてはいないご様子。

 長時間入場を待たされて、かなり不満が溜まっている様です。

 少しおいさめした方が良いかも知れません。


「美狐様、少し落ち着い……」


「はい! 次のグループの方どうぞー」


 私の声は係の方が入場を許可する声にかき消されてしまい、美狐様と静様と紅様は直ぐに中へと駆け込んで行ってしまいました。

 慌てて後を追おうとしましたが、係の方に静止され、列の一番後ろに並ぶように促されます。

 渋々最後尾に並びましたが、三人の事を考えると胸に不安が沸き上がって来ます。大丈夫なのでしょうか……。


 お化け屋敷の入口付近には、気分を盛り上げる為でしょうか、屋敷内の悲鳴や驚く声が聞こえる様にスピーカーが付けてあります。

 しばらくは、驚かす音や声が聞こえ、直ぐに可愛らしい女性の悲鳴などが聞こえておりましたが、何だか騒々しくなって来ました。

 そして、施設の方が脅かす様な声が聞こえた時でした。

 聞きなれた声がスピーカーから聞こえて来たのです。


「何じゃお主は! 邪魔するでない!」


「邪魔だ! 吹き飛んでしまえ!」


「わたくしがその様な変化で驚くとでも? えいっ!」


 間違いなく美狐様たちの声でございます。

 これは、ゆゆしき事態かもしれません……。




 今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。

 今日も見目麗しき、おひい様でございました。

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