第4狐 「歓迎遠足」 その1

 日が暮れた稲荷神社の一室で、美狐みこ様と木興きこ様がお話をされています。


「木興爺、遠足とはなんじゃ」


「遠足でございまするか。遠足とは人族が野山に分け入り、歩き回る事にございまする」


「左様か! 野山に分け入るとは楽しそうじゃのう。これは楽しみじゃ」


「はて? 楽しみとは如何いかがな事でございましょう」


「明後日は歓迎遠足とらやいうものが有るそうなのじゃ」


「な、なんと! なりませぬ。おひいお姫様それはなりませぬ」


「何故じゃ?」


「野山に分け入るなど、遠呂智おろち族の思うつぼでございまする。何卒お止めくだされ」


「嫌じゃ。航太殿と野山に分け入って、楽しく過ごすのじゃ」


おひいお姫様……」


 ────


 入学から四日、実は未だクラスの半数以上の名前と顔が一致しないんだ。

 気のせいかも知れないけど、クラスの人が入れ替わっている様な気もする。

 でも、そんなはずはないか……。


 うちのクラスには、他のクラスからクレームが出るくらい、可愛い娘や綺麗な娘が多いらしい。

 言われて見れば、確かにドキドキするほど綺麗な娘が沢山いる。

 でも、そんな中にひとりだけ異彩いさいを放っていて、気になる女の子がいるんだ。

 名前はまだ知らないけれど、その子は長髪のおかっぱ頭に変な眼鏡をしていて、スカートが床に付きそうなぐらい長い。

 他の男子は気味悪がって悪口を言う奴もいる。

 でも、時々目が合うその子の事は俺は別に嫌いじゃない。

 それに、女の子にとても人気が有るみたいで、いつも女の子達に囲まれているんだ。きっと性格が良い子なのだろうなぁ。


 そして今日は歓迎遠足。学校からそう遠くない山に登るらしい。

 校門を出る時はクラスで並んで歩いていたけれど、周りの連中は直ぐに気の合う仲間と集まって、バラバラに歩き始めてしまった。

 学校にそんなに仲の良い友達がまだ居ないので、取りあえず独りで歩く事にした。

 でも、街中の舗装ほそう道が終わり、そろそろ山に入ろうかという時に、急にクラスの女の子に声を掛けられたんだ。


「君はひとりなの?」


「あ、ああ、まあね。まだ、誰が誰だか分からないから」


 声を掛けてくれたのは、男子から人気のある二人で、確か「さきちゃん」と「はなちゃん」だったと思う。

 その後ろに例のあの娘がいた。そう言えば、この三人はいつも一緒に居る気がする。


「そっかー。私は咲で、この子は華ちゃん。宜しくね」


「あ、俺は航太こうた、宜しく。咲ちゃんと華ちゃんと……えーと、あと、その……」


「あ、ああ。この子はミコちゃん。私達の幼馴染なの」


「ミコちゃんって言うんだね。俺は航太、宜しくね」


 俺が挨拶をしたら、ミコちゃんは急に慌て始めた。


「宜しゅう……しく。こ、航太殿……さん、くん、ちゃん……」


「え?」


「あー! ミコちゃん。くんが良いと思うよー」


 咲ちゃんが慌ててミコちゃんに話しかけていた。どうかしたのかな?


「……おお、そうじゃな……」


「……ええ……」


「航太くん、わらわ……わたしはミコちゃんじゃ……だ、です」


「えっ?」


「あー、気にしないで! ミコちゃん面白い子だから、挨拶でふざけているのよ」


「そ、そうじゃ……です、なのじゃ」


「……ミコちゃん」


「ああー、じれったいのう。もう良いわ! わらわはミコじゃ。航太殿、宜しゅうのう」


 ミコちゃんが急に胸を張って挨拶をしてくれた。

 何だか不思議な話し方をする女の子だ。


「あははは。ミコちゃんって面白いね。これから宜しくね!」


「さ、左様か! 気に入って頂けたか? これは嬉しいのう」


 ミコちゃんはとても面白い子みたいだ。仲良くなれそうな気がする。


 その後も、しばらく四人で話しながら歩いて凄く楽しかった。

 でも、しばらくすると他の男の子達が寄って来て、皆でワイワイ話しているうちに、いつの間にか三人とはぐれてしまって、また独りになってしまったんだ。出来れば、ミコちゃん達ともう少し話したかったなぁ……。



 

 今宵のお話しは、ひとまずここまでに致しとうございます。

 今日も見目麗しき、おひい様でございました。

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