良い夫婦の日2025(海崎光視点)
当たり前といえば、当たり前なんだけれど。僕らにも、保育園の時代が――幼少期というものがあったわけで。
「それじゃぁ、今日はおままごとします!」
「またかよ。それより戦隊ごっこしようぜ」
「さんせー。悪は今日で全滅させるね」
「
拳を固める下河に、青ざめる圭吾。
「彩音、ままごとしよう! 俺、ままごとしたい気分!」
変わり身の早さ、ヒーローの変身スピード-並。
「良いけど、私がお母さんで、ひかちゃんがパパだよ?」
「じゃあ、私が彩ちゃんの子どもね」
当時の下河はそんなことを言う。まるで父親不詳みたいで、色々と家庭内不和を呼びそうだ。
「じゃぁ、俺は――」
「ペットのゴリラね」
「ゴリラってペットにできるの?!」
圭吾、そこはゴリラ扱いされたことを怒ろう?
「圭吾君、ゴリラが喋ったらおかしいでしょ?」
下河、そこ?
「ゴリラって、どう喋るんだよ?」
「ウホウホでしょ、やっぱり」
「ウホウホ、ウホウホ!」
「ウホウホうるさい」
「ひどくない?!」
「ゴリラは喋らない」
「ウホっ……(はい)」
哀れだ。
圭吾があまりに哀れすぎる。
「ひかちゃんっ、はい! ひかちゃんお為に作った愛情おにぎり! しっかり食べてね? あ~ん」
「へ……んぐっ?
ママゴトは、ごっこ遊びなわけで。
泥団子を反射的にでも、口にしたらダメだって思うんだ――とは今だからこそ言えるわけで。当時の僕は、溶連菌で発熱。一週間、寝込んでしまったのだった。
■■■
「お兄ちゃんがパパで、私が――」
「ダメ!冬君のお嫁さんは、私だからっ」
「雪姫、落ち着いて。これ、あくまでママゴトだよね?」
11月というには、少しだけ暖かい。公園にピクニックとしゃれこんだ僕たちが出会ったのは、近所の子ども達。子どもに人気がある冬希と下河だ。なんとなく、この展開は予想していたけれど――ママゴト。されどママゴト。今まさに、(大人げない)仁義なき戦いの幕が上がろうとしていた。
「
「私、ゴリラを旦那様にする趣味はないよ?」
「ウホっ?!」
大國、撃沈。ああいうところ、本当に容赦がない。Kゴリとあだ名をつけたのは彩音だが、圭吾も順応しないでほしい。
「仕方ないなぁ、もう」
見れば、彩音が苦笑交じりに嘆息を漏らす。
「ゆっき、頑固だもんね」
「そうだね」
頷いてみせる。過去、ママゴトに興味がなかった【雪ん子】と同一人物とは思えない。それだけ、冬希の存在が下河には大きかった。そういうことなんだと思う。
「はい、ひかちゃん。ちょっと、小腹が空いてない?」
と彩音に差し出されたのは、ラップに包まれたおにぎりだった。
あの時の、泥団子を差し出した彩音の顔と重なって――。
「ゆっきのように、上手じゃないけど……」
「関係ないよ」
僕は笑って見せる。
「彩音が作ってくれたのが、嬉しいから」
ラップを剥いて、頬張る。
――ひかちゃんのために一生懸命つくったの!
キラキラした目で、そんなこと言われたら。
泥団子だって分かっていても食べてしまった。
あの時の僕がバカなんだって思う。
「美味しい」
彩音の作ってくれたオニギリを口いっぱいに頬張って。
自然と、そんな言葉が漏れた。
________________
「ウホーーーーーーーー?!(ラブコメなら余所でやれっ!)」
どこかのゴリラが思わず叫んだが、二人の耳にはまるで入らない。そして【雪ん子】ちゃんから、拳でお説教を喰らうのはまた別の物語。
11/22、良い夫婦の日によせて。
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