湯煙の向こう側、のぞきたい? 見たい? そんな悪い先輩はあの子に教えちゃおう♪ 



「上川、こういうの好きだろ?」


 ポイッと新聞を投げられた。今や高校では9割、新聞の閲覧が可能とはいえ、スポーツ新聞まであるのはどうかと思う。大國が競馬のオッズを気にする、サラリーマンに見えて仕方がない。


「……は?」


 見れば、宿泊施設ホテルの客室から、露天風呂が覗ける作り。設計ミスか? の見出し。俺は目を丸くした。顔を上げれば、大國はニヤニヤし、雪姫はむすっと頬をふくらませている。


(時々、こういうイヤガラセをさり気なく仕込んでくるんだよなぁ)


 この大國クソガキは。


 俺も男だ。まったく興味がないと言えば、それはウソになる。でも、正直、相手に不快な想いをさせてまで、欲望を満たしたいかといえば、それも違う気がする。


「冬君のエッチ」


 雪姫が容赦ない。


「最低だなぁ、上川」


 水を得た魚ってこういうことを言うのか。大國のイヤガラセを回避しつつ、雪姫をなだめるのは至難の業で――。


「そんなに見たいのなら、今夜は一緒に入る?」


 雪姫が頬を朱色に染めながら、そんなことを言う。


「「はい?」」


 俺と大國が同時に、喉をつまらせた。


「最近、ご無沙汰だったもんね。ソフトなことばかりで。我慢させてごめんね。今夜なら……冬君、私は良いよ?」


「「「「「「雪姫?!(ゆーちゃん?)(下河?)(下河先輩?)(下河さん)(ゆっき?)」」」」」」」 


 文芸部員、それぞれの混声合唱。


「おい、上川! 破廉恥だぞ! 年齢を考えろ! 高校生らしく清く距離感のある、会話は一日一言までの交流にとどめろ!」


 どんな高校生だ。


「なんで大國君にそんなことを言われないといけないのかな?」


 でた、人を殺す視線。普段は優しいのに、大國に対してはなぜか塩対応の雪姫だった。


「下河先輩、でも男子である以上、それは正常な欲求だと思います」


 この会話に、真面目な声で割り込んできたのは――。


「猫田?!」


 大國が露骨に、イヤそうな顔をする。文芸部員、猫田クララ。カケヨメ・ユ-ザーネーム、マクスウェルの仔猫。帰国子女で不思議な感性を炸裂させる、文芸部のダークフォースだった。

 うん、大國じゃなくてもイヤな予感がする。


「覗きって、理性と背徳の境界線で苦悩する、ブレに魅了されると思うんです。例えば、ついパンチラした長谷川先輩を海崎先輩がガン見しちゃうように」


「ひかちゃん!」

「み、見てな……いた、痛い! 痛いよ、彩音!」


 あっちの幼馴染組は放っておこう。そして悶絶している瑛真先輩も放っておこう。


「上川先輩のように、下河先輩しか見ないのも。ある意味では異常です。変態です。どうして、一人の女性で満足できるんですか!」

「……ダメなの?」

「えへへ。冬君、私しか見てない変態さんなの?」


 どうして俺、けなされてるの?


「だから、大國先輩が覗きをしたいと広言するのも、本能なのです!」

「広言してねぇぇっ!」


 まぁ、この話題を振った大國が悪い。


「大國先輩!」

「……な、なんだよ?」

「覗きの場合、軽犯罪法違反に該当します。30日未満の拘留、1万円以下の科料かりょうが該当される可能性があります。そんなことになったら、星伶奈せれなちゃんが悲しみますよ?」


「……星伶奈は関係ねぇだろ!」


 星伶奈って誰?


「だからこそ、です!」


 ずいっと、猫田さんは大國に迫る。


「欲望を発散することも、精の放出も! 時に紳士の嗜みだと思います!」

「生々しいわっ」


 大國が怒鳴るけれど――。


 しーっ。

 図書室ではお静かに。

 そう、音無先輩が唇に指をあてて、微笑む。


「えっち」


 そう、付け加えて。大國、さらに悶絶だった。


「適度な精の放出……」


 雪姫、復唱しなくて良いから!


「だから、大國先輩にはこの写真集を贈呈します!」


 そうポンと、手渡したのは写真集。表紙を見る限り、温泉で。湯煙で覆われた光景に、雪姫と一緒に行ってみたいと思う。


「混浴できる温泉写真集……って、モデルがサルじゃんっ! むしろ萎えるわ!」

「ウッキッキッ♪」

「やかましい!」

「その言葉、ちゃんと星伶奈ちゃんに伝えておきますからね」

「おい、猫! ちょっと、待て――」


 星伶奈って、誰?

 俺は雪姫と一緒に首を傾げたのだった。





✩✧✩✧✩✧✩✧✩✧✩✧✩✧✩✧✩✧✩


この短編は限定近況ノートで掲載した作品でした。


星伶奈せれなちゃん

一週間後に引っ越しをして●●になる彼女と想い出作りをする話

https://kakuyomu.jp/works/16817330661212146771

笹倉星伶奈でした。


大國君とどういう関係なのかは……。

いつか本編(もしくは派生作品?)で語れたら良いなぁって思います。


今回の作品はYahoo! JAPANニュース

一部客室から実は「丸見え」だった絶景露天風呂 放置していた温泉宿の苦しい弁明 / 産経新聞

https://news.yahoo.co.jp/pickup/6497106

こちらを参考に執筆しました。


 

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