こえけん


「はい、それでは改めてB’sこえけんのルールを説明するね。配布資料は確認をしてくれた? でももう一度確認をしておこうか」

「りょーかい、瑛真先輩」


 副部長の彩音が頷く。

 みんなは再度資料に目を落としていく。


 オンライン小説サイトカケヨメのコンテストの一つ。

 ――こえけん。


 ボイスドラマの原作を意図としたコンテストだ。文芸部は、発表の機会が絞られる。自分達の学園祭。もしくは、全国高等学校総合文化祭への出場。でも、これしかチャンスが無いと決めつけたら、道はそもそも限定されてしまう。


 私達が目標としている、文学フェス――通所文フェスへの参加もその一つ。

 そして、オンライン小説投稿サイトでのコンテスト応募もそう。


 つい先日、部員のクララ・猫田さんが児童小説コンテストに入賞した「この恋心、暖めてもいいんでしょうか?」あれは本当に最高だった。作者の性格が文体に滲み出ていると思う。とにかく可愛いしか出てこない。


 そんな部員に負けじと頑張ろうという気合いが、文芸部のなかには溢れている。

 可能性は限定されない。本当にそう思う。


「じゃぁ、今回の趣旨をおさらいね。それぞれ、こえけんエントリーに向けてプロットを作っていると思うけれど、今回は作品のなかで言わせたい台詞を男子に朗読してもらいます。オッケー?」


 今回のこえけんは、男性ボイスがテーマになっているのだ。それもあてtか、みんなの気合いの入りようが、いつもとは違う。


「「「「「はいっ」」」」


 見事に声がそろった。

 一方の男子はゲンナリとした顔を隠さない。


「朗読してくれるみんなは、とにかく真面目に朗読すること。よろしくね」

 仕方ないと、言わんばかりにコクンと彼らは頷くのだった。



「それじゃ、いってみよう! エントリーナンバー1番。朗読は海崎君!」






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「今日、余所見していたよね? どうして俺以外の人を見るの? やっぱりその体で分からせないと、ダメ? もう一回、最初から調教しようか?」



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「見ない! 見ない! 他の人なんか見ない!」

「彩音が興奮しないの」

「だって、瑛真ちゃん! 瑛真ちゃんっ! えまちゃんっっっ!」


「落ち着け! えっと……台詞を考えたのは、媛夏よね? 台詞はともかく、これR-15圏内に収まるの?」


「あ、原稿を見たけれど、もうプロローグ時点でアウトでした」

「上川先輩、ひどいっ!」


 文芸部専属編集者の評価は、絶対だ。まぁ、媛夏がんばれ。


「とりあえず垢バンされない方向で、よろしくね」

 予想はできていたけどね。


「それじゃぁ、エントリーナンバー2番。上川君、よろしく!」









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「ごめん、卑怯なの知ってる。どうして最初に他の子を好きになっちゃったんだろう。でも、やっぱり君が好きなんだ。もう、気持ちにウソはつけない。好きだよ。もうムリ。本当に好きなんだ」



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「だめぇぇぇっっ!」

「雪姫、落ち着きなさいって。これはあくまで台詞の朗読、現実じゃないから」

「冬君は私の。誰にも渡さないもんっ」

「ゆ、雪姫。ぐ、ぐ、ぐるしいっ。胸で窒息す……る」


「えぇと、コレを書いたのは彩音ね。一応、解説を」

「NTRモノを考えてみました。かつ、BLね。付き合っていた子の弟に、惚れてしまったという禁断の――」

「それ、まんま空君をイメージしちゃうんだけど」

「ひかちゃん、イメージはご自由にだよ」


「まぁ、イメージまで連想させてなんぼだよね、こえけんは」

「次点で、相談に乗ってくれた親友に――」

「それは海崎君よね?」


 まぁ、あの三人はそれで絵になっちゃうけどさ。


「それではエントリーナンバー3番。特別ゲスト、空君です!」

「……すんんげぇぇ、イヤなんですけど」

「そう言わずに、よろしく!」










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「ココ最近、ずっと一緒に過ごしているモノ好きは誰だって話じゃん。本当にバカだよな」



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「はいっ」

「えーと、天音さん。そんなに嬉しそうに笑わないで。背中がむず痒い。これを書いた雪姫、解説よろしく」


「えっと、今書いている『あの空へ、その翼で』で書こうとしている作品の主人公がヒロインに向けて囁く台詞です」


「……つか、なんで姉ちゃん、これ知ってるの?」

「え? これ、空っちが実際に言ったヤツ?」

「情報提供は翼ちゃんから、でした」

「えへへ」

「翼、お前ね!」

「だって、本当に嬉しかったし」


 むず痒い、むず痒いったらありゃしない。口の中お砂糖がジャリジャリである。私はコーヒーを飲んだ。気を取り直して――。


「エントリーナンバー4番。圭吾、よろしくね!」

「俺、文芸部じゃないんだけど。それに、すげぇイヤなんだけど――」

「良いから、良いから。よろしくね」









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「ウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホウホ」




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「えっと……これを考えたのは、猫田さん?」

「猫田、お前かよ!」


「はい、声をイメージするとのが一つテーマですよね。インパクトが大事だと思いました」

「インパクトありすぎるわ!」


「まぁまぁ、圭吾。最後まで聞こうよ」


「イケメンのゴリラって知ってます?」

「一時期、流行ったよね」


「あのゴリラさんと大國先輩を見て、ピピピと閃いたんです」

「閃いたにしても、そこは伏せろよ、猫田?!」


「まぁまぁ、マクスウェルの仔猫ちゃんは、帰国子女だから。感性が豊かなんだよ。そこは片目、つぶってあげてよ」

「また、彩音はそんなあだ名を……」

「違うよ、ひかちゃん。これはカケヨメでのユーザーネームだからね」


「えぇと、続けますね。タイトルは『みんなが夢中のイケメン先輩がゴリラであることに、私以外誰も気付いていない件について』なんですけど、どうでしょうか?」

「個性的すぎるわっ!」


 圭吾、大絶叫。

 クララ・猫田先生の次回作ご期待くださいって感じだよね。私は個人的にメチャクチャ読みたいけどさ。


「それじゃ、次いこうね。エントリーナンバー5番は――」


 思わず、笑みが零れそうになる。

 こえけん、マジで今から楽しみだ。






________________


謝辞。

フォロワーのマクスウェルの仔猫先生に心からの感謝を

(きっと笑って許してくれるに違いないw)


ちなみに猫田・クララさんは帰国子女。でも4カ国語ができる天才肌。感性が独特で楽しくて、人気者。


クララはジェームズ・クラーク・マクスウェルのクラークから取りました。

女の子にしたいので、クラークからクララにしましたとさ。


こえけん、どんな作品が出るのか今から楽しみです!



【作者注】

※1 こえけんは、G'sこえけんで、女の子がテーマです。

男の子をテーマとしたのは、今回のエピソード独自の設定ですので、そこはお間違いなく。


※2 空君の台詞「ココ最近、ずっと一緒に過ごしているモノ好きは誰だって話じゃん。本当にバカだよな」

こちらは「君がいるから呼吸ができる」EP 76「3バカ ⇒ 4バカ」

こちらに出てくる台詞でした。


本編も合わせて何卒、よしなに。

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