第41話 囚われの人質達
体がひどく怠い。
軽い吐き気もして、ヨハネスは小さく咳き込んだ。
「う……」
咳き込んだ拍子に顎を硬いものにぶつけたようで、鈍い痛みに目を開いた。
ぼんやりとかすむ視界に、ちらちらとオレンジ色のなにかが見える――ランプだ。
他は真っ暗でなにも見えないが、腹の下に感じる硬い感触からして、地面にうつ伏せに寝かされているようだ。
「どこだ……」
小さく呟くと、すぐ隣で囁くような声がした。
「殿下。お目覚めになられましたか」
ヨハネスが首を動かして横を見ると、安堵の表情を浮かべるマリスの姿が目に入った。
「マリス、ここは……」
「砂漠の地下です。どうやら、砂漠の民しかしらない石窟のようで――」
低い声で話していたマリスが急に黙り込んだので、どうしたのかと問おうとしたヨハネスだったが、ぼそぼそと聞こえる会話に気づいた口をつぐんだ。
「早くやっちまおう」
「いや、捕らえる時に瘴気を使った。少し魔力を回復させてからじゃないといけない」
「早くしないと、ハールーン様がここに来るのでは」
「ああ、来るだろうな」
知らない男と女の声に応えているのはダリフの声だ。ヨハネスは気を失う前になにがあったかを思い出して顔を歪めた。
ダリフが操る瘴気に包まれて、魔力と体力を奪われたのだ。この体の怠さはそのせいだ。ヨハネスは光の魔力を持っているため瘴気に対して普通の人間より抵抗力があるが、それでも今は起き上がるのも億劫だし気分が悪い。
「大丈夫。ハールーンは俺が抑える」
ダリフの声がする。
会話の内容からして、ハールーンは彼らの協力者ではないのだろう。
(ハールーンは知らないと言っていたが……)
ハールーンが、自らの主が止めに来るとわかっていて、それでもなにかをしようとしている。
「それと、あの娘は聖女アルムではない。本物はオアシスにいる。ハールーンと一緒にここに来るやもしれん」
マリスが息をのむ気配がした。
「では、あの娘は……」
「気の毒だが、ここまで連れてきてしまった以上、帰すわけにはいかない。聖女アルムに言うことを聞かせるための人質ぐらいにはなるだろう。生かしておけ」
ヨハネスは気絶しているふりをするためにうつ伏せのままで考えた。
人質を取ってでもアルムにさせたいことがある。そして、ヨハネスのことは「早くやっちまおう」としている。
どうやら、すぐにでも命を取られそうなのはヨハネスだけのようだが、アルムとマリスも王都へ帰すつもりはない。
現状、ヨハネスにできることは一つだ。
なるべく時間を稼ぐ。アルムがここにたどり着くまでの時間を。
(魔力がある程度回復したら、おそらく俺は殺される。とりあえず、目覚めたことには気づかれないようにしなければ)
ヨハネスは視線だけを動かして石窟を見渡した。ランプが燃えているということは、どこかから空気が入っているということだ。
ヨハネスとマリスがいるここは少し広い小部屋のようになっており、通路となる穴が二つある。うち一方からはダリフ達の話し声が聞こえ、もう一方からは風の唸りが聞こえる。
(この風は……渇きの谷のものか)
渇きの谷のすぐそばに出口があるとしたら、マリスを連れて逃げるのは不可能だ。渇きの谷に近づくと瘴気が襲いかかってくると言われている。ヨハネスの魔力ではマリスを守るのは難しい。
(結局、アルムを待つしかないのか……情けないな)
ヨハネスは自嘲しながら目を閉じた。
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