第34話 お近づきのしるし
証明しろ、と言われてアルムは戸惑った。
アルムは聖女じゃなくて元聖女なので、聖女であることを証明しろと言われても困る。
(でも、ここで「聖女じゃないです」って言ったらややこしいことになりそうだし)
仕方がない。マリスを無事に救い出すまでは、聖女を自称させてもらおう。
「わかりました! では、お近づきの印に聖女からの贈り物です!」
アルムは自身のもっとも得意な方法で砂漠の民の心を開くことにした。
アルムとエルリーを囲むように地面からにょきにょきと木が生えてきて、幾重にも分かれた枝の先に赤い果実が実り始める。
「えーいっ! 飛んでけー!」
アルムの命令で、実ったリンゴが枝から離れて宙を飛び、子供達の手の中にぽすぽすと収まった。
アルムもリンゴを一つ取って、怪しいものではないと証明するために一口かじってみせた。
「食べても大丈夫ですよ!」
子供達は目を丸くして、口をぽかんとあけて手の中のリンゴをみつめている。
「……嘘でしょ。これが聖女の力なの……」
ミリアムもまた、自身の手の中に飛び込んできたリンゴをみつめて呆然と呟いていた。
「何故……シャステルなんかにこんな力の持ち主が……」
「おい! なんじゃこのリンゴは!?」
突然集落の中をリンゴが飛び交い出した謎現象に民が怯えている、と怒ったハールーンがやってきたので、リンゴは飛ばさずに道の端に積んでおくことにした。
「ご自由にお取りくださいっと……」
「勝手な真似をするでない! ここにいる間は魔力を使うことは許さぬ!」
挨拶代わりのつもりだったのだが、ハールーンには激怒されてしまった。
「ハールーン様ぁ……」
「これ、どうしたら」
リンゴを手にした子供達も、喜ぶこともなくむしろ不安そうにハールーンを見上げている。
王都で同じことをすれば皆喜んでくれるのに、とアルムはリンゴの山を眺めて肩を落とした。
「ああ……そのリンゴは食べてもよいぞ。シャステルの聖女からの今夜一晩の宿賃じゃ」
ハールーンは子供達からリンゴを取り上げようとはせず、安心させるように微笑んでいた。
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