イケメン青年になったみにくい老人デボチ【大人の昔ばなしシリーズ】
独白世人
イケメン青年になったみにくい老人デボチ
昔々あるところに、顔のとてもみにくいデボチという少年がいました。
デボチは山のふもとのアパートで母親と2人で生活していました。
デボチはそのみにくい顔のせいで友達が出来ませんでした。いつも一人で絵を描いていた彼の夢は画家になることでした。
しかし彼の母親は、デボチが画家になることに反対でした。
「絵で私を感動させられたら画家になることを認めてあげましょう」
そう言った母親に認めてもらうために、デボチは学校にも行かず必死に絵を描き続けました。
しかし、なかなか母親に認めてもらうことは出来ませんでした。
デボチが18歳になった時、母親が病気で寝たきりになりました。
お金がなく病院に連れて行くことが出来なかったデボチは近所の人に必死に助けを求めました。しかし、誰も助けてはくれませんでした。必死の看病の甲斐なくデボチの母親は亡くなりました。
それからデボチは人と接することを極端に嫌いました。誰も信じられなくなったのです。
そして自分の顔のみにくさを呪うようになりました。母親を助けてくれる人がいなかったのも自分の顔のせいだと思いました。デボチはより一層、自分の絵の中に理想の世界を見出そうとしました。
外に働きに出ることはせず、内職をして生計を立てました。部屋に閉じこもり、ひたすら自分の絵と向き合う日々を送ったのです。
デボチは自分が描いた絵を母親にだけは見せていました。母親が亡くなったことで彼は絵を見せる人がいなくなってしまったのです。それでも彼は誰に見せるでもなく、ひたすら絵を描き続けました。
そういう日々を何十年も過ごしたデボチはいつの間にかヨボヨボの老人になりました。
そして、自分の死期が近いことを悟り、『自画像』というタイトルの作品を描き始めました。それはデボチが思い描く人間の理想像を詰め込んだ作品でした。デボチは『自画像』というタイトルにも関わらず、年老いた自分ではなく青年の絵を描いたのです。
絵の中の青年は社交的で自信に満ち溢れているような人物像に描かれました。女性からは勿論のこと、男性からも好感を持たれるであろう人物がそこにはいました。デボチはそれまでに培った技術や、絵に対する執念のようなものを全て込めた作品を完成させたのです。
「この絵なら母も褒めてくれたに違いない」
そうデボチは思いました。
その絵を描き終えた朝、窓からいつも見えている山にデボチは登りたくなりました。山の頂上からの景色が見たくなったのです。どうしてだか分かりませんが、デボチは自分が生まれ変われるような気がしていました。そして、アパートの部屋を出て山に登り始めたのです。
しかし、年老いて体力がなくなっていたデボチは山の中腹にある崖から足を滑らせて死んでしまいました。
死体は崖の奥底に落ち、誰からも発見されることはありませんでした。
人知れずデボチはこの世を去ったのです。
デボチは部屋を埋め尽くさんばかりの大量の絵を残していました。
そしてそれらの絵は、家賃の催促に訪れたアパートの大家によって発見されました。
部屋の真ん中には一人の青年が描かれた絵が置いてありました。
そしてその絵の裏側には『自画像』というタイトルとデボチのサインが書かれてありました。
デボチには身寄りはありませんでした。いつまで経ってもデボチがアパートに戻ってこないので、大量の絵はアパートの大家のものになりました。
デボチの絵は高く評価されました。彼の理想とした世界は繊細かつ鮮やかな色彩で描かれ、見る人を魅了しました。それらは、長年絵筆を取って絵の具を重ね続けた者にしか描けない唯一無二の作品でした。
しかし、それらの絵は老人が描いたものとして世には出されませんでした。
デボチが自画像として描いた架空の青年が全ての絵の作者になったのです。
デボチ本人を知っていたのは、この世でアパートの大家だけでした。
ヨボヨボのみにくい顔の老人よりも、自画像に描かれたような青年が作者だという方が絵が高く売れると考えた大家が真実に蓋をしたのでした。
こんな風にこの世の真実はねじまげられるものです。
絵の評価に作者の容姿は関係ありません。
生前に絵を発表していたら、間違いなくデボチは画家として有名になっていたでしょう。
しかしながら、もしかするとデボチはこのねじ曲げられた真実によって有名になれたと思い、天国からその様子を見て喜んでいるかもしれません。
イケメン青年になったみにくい老人デボチ【大人の昔ばなしシリーズ】 独白世人 @dokuhaku_sejin
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