第6話 火事の真相

何もない真っ白な空間。

瑠璃の前に誕生日ケーキを持ってジョーンが現れた。

ケーキにはろうそくが7本立てられており、炎が揺れていた。


「ジョーン? わたし、今日誕生日じゃないよ? えっ……7歳……」


すると、ケーキを持ったジョーンが突然転倒した。

ろうそくの火が床から一気に燃え広がり、瑠璃とジョーンはたちまち炎に包まれる。


「えっ……」


ジョーンは固まる瑠璃の手を引き、慌てて駆けだす。



瑠璃とジョーンは、街中を歩いている。

図書館を見つけると、ジョーンは瑠璃を手招きする。

つられるように、瑠璃はジョーンと共に図書館へと入っていった。

新聞コーナーへ向かうと、ジョーンは13年前の新聞を取り出した。

日付は『2004年3月16日』とある。


「これって……」


ジョーンは躊躇することなく新聞を開くと、火事の記事を瑠璃に見せる。

そこには消火された後の工藤家の写真が載っていた。


「わたしの家……」


わたしの中で、あの日の火事の記憶がよみがえる。

あの日は、わたしの7歳の誕生日だった。

母と父と3人で誕生日ケーキを囲んだ。

その時はまさか、火事になるなんて、到底想像することなどできなかった。


ジョーンは蛍光ペンを取り出す。

新聞記事に書かれている一文にアンダーラインを引いた。


『庭から出火したものと思われ、放火の疑いがある』


「放火……?」


瑠璃はジョーンを見つめた。

すると、ジョーンは瑠璃の手を掴み走り出す。


「え? ちょっと!」



気付くとそこは映画館だった。

瑠璃は、いつの間にか隣同士で座席に座っていた。

ジョーンは、ポップコーンを瑠璃に差し出した。

上映が始まる。


  ×  ×  ×


スクリーンに古いフィルム映像が流れ始める。

若い頃の美希が、男と歩いている。男の顔はよく見えない。


  ×  ×  ×


「お母さん?」


瑠璃は思わず声を出した。

スクリーンに写る美希の姿は、瑠璃を産む10年ほど前の姿と思われた。


  ×  ×  ×


美希はピアノのコンサート会場に男と入っていく。

美希はリストの『愛の夢 第3番』を弾く女性に目を輝かせた。


  ×  ×  ×


美希は宮内の家に入っていく。

美希は、宮内の家にあるお揃いのマグカップを使っている。


  ×  ×  ×


「えっ? 何で……」


美希が手に持つマグカップは、まさに今瑠璃が使っているものと同じだった。


突然スクリーンが砂嵐になる。

やがて、綺麗な映像へと変わった。


  ×  ×  ×


深夜、煙草を吹かす、フードを深くかぶった男。

工藤家に向かうと、庭にあるゴミ箱に火のついた煙草を入れる。

次第に燃え広がっていく炎。

燃え始める家を見つめる男。フードを取ると、それは若い頃の宮内だった。

宮内は水をかぶると、燃える工藤家の中に入っていく。


  ×  ×  ×


「嘘……そんなの嘘だよ!」


瑠璃は凍り付いた。


  ×  ×  ×


暗闇を明るく照らし、一軒家が激しく燃えている。

消防車のサイレンが、深夜の住宅街に鳴り響いた。

燃え盛る炎。泣き叫ぶ7歳の瑠璃。

美希と和正のもとへと駆け寄ろうとしたが、炎に包まれた柱がゆく手を阻み、まるで家族を引き離すかのように瑠璃めがけ倒れてきた。


「瑠璃!」


「お母さん! お父さん!」


宮内が入って来ると、瑠璃を後ろから抱き上げ外へと連れ去って行く。

瑠璃と美希は互いに手を伸ばすが届かない。

引き裂かれていく家族。


「お母さん! お父さん!」


宮内を見て青ざめていく美希が、炎の中に飲み込まれていった。


  ×  ×  ×


ジョーンが立ち上がり拍手をする。

つられるように、周囲の人々も次々と立ち上がり、スタンディングオベーションが起きる。

瑠璃はただただ、その光景に取り残されていた。



扉が開き、宮内が現れた。


「瑠璃、何してるんだよ! こんなところで」


「……!」


「僕が、こんなにも愛しているというのに!」


「!」

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