6 諭吉飲み会

6-1 合コンか。それとも話のネタか。

「さて、ドリンクも来たし、乾杯しますか」


 居酒屋の個室で、俺の隣で菜々美ちゃんが切り出した。研究室アシスタントの菜々美ちゃんに飲み会セッティングされたんで、仕事帰りに参加してるんだわ、俺。


「お、おう……」


 六人席の個室だが、今日は五人飲みだ。俺と菜々美ちゃんが並び、向かいには菜々美ちゃんの高校時代の同級生とかいう女の子三人。全員女子大生だ。


「今日は木戸さんのゴチなんで、乾杯の音頭取って下さいよ」

「うーん……」


 はめられたわ。寿司ランチごちそうの予定が、なぜか宴会になったからな。菜々美ちゃんが言うには、「ごちそうの約束」+「いいこと」を合体させたんだと。


 たしかに以前、いいこと思い付いたって言ってて、そのままになってたわ。どうも「いいこと」ってのが、俺を友達に引き合わせることだったらしい。


「ゴチったってなあ……」


 菜々美ちゃんの食欲は、こないだの飲み会でわかってる。同い年の女子ってことは、他の三人も大差ないだろ。いくらたかられるんだ、これ。


「ノリが悪いなあ」


 背中を叩かれた。


「安心してくださいよ。木戸さんは一万出してくれればいいっす。あとはこっちで割るんで」


 大人が女子大生に財布の心配されるのもなんとなく情けないが、まあいいか。飲み一万なら、たいした問題じゃあない。ちょっとほっとしたわ。


「とにかく乾杯するか」


 うんうん唸ってても仕方ないしな。すぐ酔っ払うとかいうひとりを除いて、全員生だ。


「じゃあ乾杯」

「かんぱーいっ」

「乾杯」


 はあ。CM並のぐい飲み派は、菜々美ちゃんとあとひとりか。上品系がひとり。あとは烏龍茶の娘。


「ぷはーっ。うまいわこれ。ジョッキ凍ってるし」

「夏だとこれがいいよな」


 絶好調の菜々美ちゃんに、とりあえず合わせた。まあ七月だからな。実際キンキンに冷えたビールは最高だ。よくビールの適温はもうちょい上で……とか言う奴いるけど、絶対氷温だよな、うまいの。多少味気なくなっても、喉越しの良さがその欠点上回るからさ。


「さて、さっきは入り口でドタバタしただけだから、もう一度ちゃんと友達、紹介しますね。まず木戸さんの向かいが、莉緒りお

「よろしくー」


 ぐい飲み派の娘だな。ファッションも顔も、かわいい系というより美人系の雰囲気。


「莉緒はですね。ダメンズに引っ掛かって、別れたばかり」

「ちょっと菜々美。今、そんな話する?」


 睨んでんな。てかこないだ話に出た、彼氏と別れて寂しくて、ヘンな男に引っ掛かったって娘か。まあそいつと切れたんなら、よかったじゃんな。


「その隣が、美月みつき


 お茶飲んでる娘だ。ちらっと俺を見て、ぺこりと頭を下げる。無言だ。服は地味というか、田舎臭い。顔は多分一番整ってるから、メイクや服、髪を整えて磨けば光ると思うわ。


「美月はシャイでね。だからずーっと彼氏いないんですよ」

「それは……」


 なんか言いかけて黙っちゃったな。ギンナンつまんだりして。


「一番端が、陽菜乃ひなの

「よろしくお願いします」


 この娘、雰囲気かわいいな。愛嬌があるというか、つい構いたくなる子猫みたいな印象。よく見ると胸も大きいし、なんか妙にそそる部分がある。


「陽菜乃はファザコンで年上好みなんすよ。だから割とヘンな男に引っ掛かる。その意味でこっちもダメンズウオーカー気味というか」

「はあ」

「で、こちらの宴会スポンサーが木戸さん。あたしのバイト先の超有能なイケメンで、前途洋々なヒト」


 おいおい。いくらゴチになるからって、持ち上げすぎだろ。イケメンとか言われても目の前で顔晒してるから嘘バレバレだし。


「木戸さん大学院出てるって、菜々美に聞きましたけど」


 陽菜乃ちゃんは興味津々といった食いつき方。


「まあね。でもあの研究所はだいたいそうだから」

「へえー。すごい」


 頷いている。えらい素直だな。


「そういや陽菜乃、最近、おじさまと付き合ってないの」


 あたりめモグモグしながら、莉緒ちゃんが振る。


「まあねー。前のはちょっと歳すぎたし。いくらなんでも話題が合わなくて」

「四十代だったもんねー」

「そうそう」

「やっぱり二十代じゃないとね」


 じっと俺見てる。あーこれ、値踏みされてんのかな。ストライクゾーンかどうか。


「次行こうか」


 莉緒ちゃんが呼び出しベルを押した。


「みんな生でいい」

「そうね」

「うん」

「あたしはまだお茶がある」

「木戸さんはどうします」

「俺はハイボールだな、次は」


 本当は日本酒飲みたいけど、なんかあんまり酔わないほうがいい気がするからな、今晩。醜態晒すのも嫌だし。


「ツマミは適当でいい?」

「任せる。鶏唐マストで」

「あたしサラダ。シーザーじゃなくて海藻のほう」

「木戸さんは?」

「きゅうりの一本漬けだな。夏だし」


 さっぱりしたもん食いたいわ。脂ギッシュ系は、みんなが頼むだろうし。


 莉緒ちゃんと菜々美ちゃんがてきぱきと仕切って、適当に注文している。


「ところでこれ、合コンじゃあないよな」


 一応確認しておく。なんか女子のノリが取り繕った雰囲気でもないし、そもそも一対四だしな。


「ぷっ」


 菜々美ちゃんが噴き出した。


「んなわけないじゃないすかー。あははははっ」


 またのどちんこ見せながら大笑いしてるし。


「今日は仲良し女子会ですよ」

「女子会に俺呼ばないだろ、普通。男だし」

「木戸さんはスポンサー兼、話のネタ。女子会のツマミっす」

「はあ」


 そういうことか。なんか男扱いされてなくて悔しいが、まあ気楽っちゃあ気楽。ならこっちも気兼ねなく行くわ。


「じゃあ聞くけど、俺ってどう見える。みんなくらいの娘から見て」


 せっかくだから市場調査しとかないとな。俺という商品の。なんで非モテなんか、知りたいし。


「おうふっ」

「グイグイw」

「初手からそれ?」

「……」


 それぞれの反応で笑われたわ。なんか知らんが受けてるな。


「はいはいーっ」


 菜々美ちゃんが手を上げた。


「じゃああたしが司会しまっす」


 届いたばかりのきゅうりの一本漬けを握ると、マイクとしてぐっと突き出す。


「まず莉緒」

「そうねえ……」


 首を捻ると、莉緒ちゃんが天井を見上げた。


「あたしの見たところ……」


 こうして始まったんだわ。俺の品評会が。なんか好感度高いんだか低いんだかわからん、謎品評会の大騒ぎになったんだけどさ。

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