4-4 セフレ攻撃に陥落

「ここ、暑いへ」


 丹前をがばっと脱ぎ捨てる。脱いだ拍子に浴衣が乱れ、胸が半分くらい見えてるがな。


「ねえ、お兄……」


 妙に色っぽい流し目で俺を見る。


「な、なんだよ」

「ふたりっきりの旅行ってことは、あれだよね」

「……」


 俺が黙っていると、にじり寄ってくる。


「ねえ、しようよ」


 結菜の瞳は輝いている。ついに始まったか……。


「よせよ」

「ねえってば」


 俺の腕を胸に抱く。


「やめろっての」


 ゆっくりと体を離してやる。


「心配しなくて大丈夫だよ。買っておいたから」

「買って?」

「へへーっ」


 コンビニのレジ袋をガサガサすると、小さなパッケージが出てきた。


「これなら安心でしょ」


 ゴムだな、これ。いつの間にこんなの買いやがった。


「ねえ、あたしが付けてあげようか。……なんというか、形に興味あるし」


 そそくさとパッケージ破って、ゴム出してやがる。


「うわ、かわいい色。キャンディーみたい。……これ、どうやって付けんの?」


 くるくると伸ばしちゃったな。それじゃもう付けられないだろ。


「風船かあ……」

「もうよせ」


 奪い取ると、ゴミ箱に放り込んだ。


「なに、付けずにしたいの」


 面白そうに、俺の瞳を覗き込んでくる。


「お兄ったらヘンタイ。……まあいいよ。多分安全な日だし」

「酔っぱらいとするほど、餓えちゃいない」

「酔ってないし。セフレならすること、してるだけだし」


 言いながらも、手元が怪しい。てか動くたびに浴衣が乱れて、もうほぼ全部胸見えてるけど。


「そもそもなんでセフレ志願なんだよ」


 ちょうどいい機会だ。訊いてみるか。酔ってるなら口も軽いだろうしな。俺も胸ばっか見てたらどうかなっちゃいそうだし、気を散らさんと。


「普通は彼女志願だろ」

「だって……お兄のアプローチ、断っちゃったし」


 ふてくされたような口ぶりだ。


「断ったら普通、彼女もセフレも志願しないんだよ」

「いいんだよっ」


 横を向いちゃった。


「黒歴史だから」

「なにが」

「……言いたくない」


 口を固く結んだわ。どうにも、ここ一点だけは頑固なんだよなあ。なぜか。


「ならいいや。飯も終わった。もう寝ろ。隣の部屋に布団敷いてあるからよ」

「まあた。そうやって子供扱いするっ」


 いやいやと頭を振った。


「未成年飲酒」

「酔ってないもん」

「ならそこに立ってみろ」

「うん」


 よろけながらも立ち上がった。


「目をつぶって片足立ちだ」


 飲酒運転の検問でやる奴だ。


「へいきへいきーっ」


 言ったものの、案の定、よろけてどすんと座り込んだ。


「あれー。ヘンらな」

「ほらな」

「ふわー。なんだか世界が回るぅ」


 気持ちは良さそうだわ。


「ふわふわーっ。ほひあはまはいなら、ほまんは」


 どたんと倒れちゃった。最後、何言ってるのか、さっぱりわからなかったが。


「大丈夫か、結菜」


 返事がない。ただのしかばね……じゃあないが。


 近寄ってみると、紅潮した頬で、すうすう寝息を立てている。


「寝ちゃったか……」


 こうして寝てるとかわいいんだけどなあ……。なんでセフレとかわけわからん発言するのやら。謎が多すぎる。


「……てか、こいつヤバいな」


 もう胸、完全丸出しじゃん。きれいな形だし、先って結構かわいい色だな。横になっててもわかるくらい胸は大きめだけど、先は小さい。


「……」


 これ、触りたいんですけど。どえらく。なんかムラムラしてきた。


 触ってもいいよな。もともと向こうがその気だし、別段悪いことしようって話じゃない。ちょっと揉んでみて先を撫でるくらいなら、傷つけるわけでもないしさ。


 俺、そんな経験皆無だし。少しくらい経験値詰んだって、神様は許してくれると思うんだ。彼女経験、レベル〇からレベル一になるくらいはさ。リアルはクソゲーとかよく言われるけど、そのくらいのログインボーナスはあってもいいだろ。


 それに結菜、ぐっすり寝てるし、多少触ったところで、なんもわからんだろ。なら、なにも起こってないのと同じだ。


「……」


 とりあえず顔を近づけてみた。秒速(でもないか)五センチメートル。うん。肌は張りがあってつやつやしてる。さすが女子高生。先の周りにだけ薄い産毛が生えていてかわいい。


 じっと観察していると、先が膨らんで少し立ってきた。俺に触ってくれ、吸ってくれと言わんばかりに。ヤバいわこれ。


「……くすぐったい」


 おっと! 鼻息がかかったか。


 思わず唇の先で触ろうとしてたわ。いい匂いがしてたし。危ないところだった。


「お兄……」


 ぎゅっと抱き寄せられた。


 いかん! 柔らかいし、胸の先が唇に入ってきた。


「……んっ」


 あわてて手を振り切った。


「結菜の奴……」


 まだすうすう寝てはいるが、息は感じるんだな。唇が触れただけでうめいたし、感度も良さそう……って、それどこじゃないだろ、俺。


 頭を振って、エロ妄想を吹き飛ばした。別にそういう目的で旅行したわけじゃない。こんなとこで手を出したら、悪魔の思うつぼだ。……まあ悪魔がいるかは知らんが。


「寝るぞ。結菜」

「ふ……ん」

「ほら、手を回せ」

「うん」


 浴衣を直すのは諦めた。触ってるうちに、俺の本能に火がつくとまずいしな。首に腕を回してきた結菜の背中と脚を抱え、なんとか立ち上がる。


「重いな、お前。ダイエットしたほうがいいんじゃないか」

「お兄……ありがと」


 冗談には反応せず、俺の首筋に唇を着けながら、口にする。


「拾って……くれて」

「安心しろ。当面いてもいいからな」

「……」


 なにか言葉にならない言葉で呟いた。首がこそばゆいわ。


 そのまま真っ暗な次の間に抱え込むと、布団に寝かせてやった。胸はなるだけ見ないようにして、掛け布団を体に掛けてやる。


「離しといたほうがいいな、これ」


 二組ぴったり並んでいた布団を、少し離す。大丈夫とは思うが、この後もう少し飲む。酔った後の自分が危ない。


「じゃあな。おやすみ」

「……」


 部屋に戻ると、次の間の襖を閉じた。


「ふう。飲み直すか。まだ酒あるし、もったいない」


 ひとり飲み始めたが、話す相手がいないだけに、ペースが早くなった。なんか寂しい酒だ。やることもないので、さっきの会話が頭をぐるぐる回る。


 それにしても結菜、ゴムなんか用意していたのか。なまら積極的じゃん(結菜の口癖が移った)。それに黒歴史って、どういう意味だろ。俺の告白を受けたのが黒歴史ってことか。それとも断ったことか。セフレ宣言のこと……じゃあなさそうだが。


「あーもう、わけわからん」


 酔いが回ってきたこともあり思考が混乱したので、大きく深呼吸してみた。


「まあ、とりあえず結菜の攻撃はかわした。痛恨の一撃はやり過ごした。もう安心だ」


 なにが安心なのかは謎だ。てか、こうして飲んでても、つい胸の映像が脳内で再生される。柔らかな胸に包まれ、硬くなった先が口に入ってきたときの、あの唇の感触。天国のようにいい匂いがして……。


「あーいかん。これヤバいわ」


 安心どころじゃない。どんどん欲望が加速する。もちろん体も反応している。なんたって、結菜と同居を始めてから、ほとんどアレ、できてないからなー。溜まってて口から出てきそうだわ。


「くそっ」


 なんとか前向きに考えてみる。とりあえずモヤモヤしているが、幸い、結菜は寝ている。朝までは起きてこないだろう。個室温泉にもう一度入って、一回……いや二回ほど抜いておくか。ちょうどいいチャンスだし。そうでもしないと今晩、野獣化してマジ襲いかかりそうだ。てか多分そうなる。もう我慢も限界だ。


 やけくそのように服を脱ぎ捨てると、バルコニーへと暴れ込んだ。これも結菜を守るためだ。仕方ない。

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