従姉妹(いとこ)となら「純愛セフレ成立する」説
猫目少将
1 押しかけセフレ宣言
1-1 夜中に男の家に来るのは鶴の恩返しか笠地蔵。それかJK。
「俺、もう死ぬかな」
つい愚痴が出た。仕事で毎晩疲れ切ってボロアパートに帰って、こうして半額弁当を食べる毎日。どうにも、今後の人生に楽しいことが満載とは思えない。
ラブラブでイチャコラしてりゃあ話は別だが、二十六年間生きてきて、彼女ができたことすらない。誰かを好きになっては玉砕の繰り返しじゃあな。今後も見込み薄だわ。
「はあーあ」
溜息が出たわ。しかも今日は月曜日。残り地獄の四連勤務じゃんよ。
「くそっ」
明日も朝早い。ヤケだわ。ストロングチューハイをぐいぐい飲んだ。もう三本目だが、知ったこっちゃない。弁当味濃いから、酒が進むんだわ。
「ぴろりんっ」
スマホから珍しく通知音がしたわ。
「なんだよ忙しいのに」
嘘だが。飲んで寝るだけだし。
見るとトークだった。相手は……と。
「なんだ。
こいつとはいろいろあったんで、正直、もう絡みたくはない。そもそも親戚グループ絡みなのに、なんで勝手にフレ追加してんだよ。
「あたしのことセフレにしてよ😜」
なんだよこれ。思わずストハイ噴いたわ。好きですとかならともかく、いきなりセフレとかなんだよ。しかもお前、去年俺のアプローチ断わりやがったばかりじゃんよ。どういうことよ。
「結菜」
「お前誤爆してるぞ」
「誤爆じゃないよ」
「洋介兄に言ってるんだよ😡」
「なお悪いわ」
「ねえいいでしょ」
「JKだしお得だよ」
「😍」
「いいわけないだろ」
「俺のことフッたの覚えてないのかよ」
「つい最近だぞ。もう忘れてんの?」
「まだ18歳だろ、結菜」
「あと絵文字止めろ煽ってんのかお前」
「だから」
「彼女にしてって言ってないじゃん」
「セフレだよ」
「そのほうが問題だわアホ」
「いとこ同士だぞ」
「あたし」
「洋介兄ならいいもん」
頭痛くなってきた。
「そもそもお前、北海道だろ」
「俺は東京、仕事で忙しい」
「織姫彦星みたいな年一セフレになるのかよ」
「いいねそれ」
「なまら遠いし」
「ロマンチック」
「よかないわ」
「マジレスするけど大丈夫だよ」
「近いから」
「どこがじゃ」
ピンポーン。
なんだよ出前まで誤爆かよ。今日は飯なんか頼んでないぞ。
悪態をつきながら玄関に向かう。つったってキッチン付きワンルームだから、歩いて数歩だが。
ガチャ。
「えへーっ」
寂しい男の部屋に夜中に訪ねてくるとか、鶴の恩返しとか笠地蔵かよ。いずれにしろ日本昔話の世界だ。でも立っていたのは、そこそこかわいい女の子。見たところハイティーン。そこそこスタイルもいいし、短いスカートから伸びた脚がすらっとしてて、そこそこソソる。まとめるととにかく「そこそこ」だな。
長い髪をポニーテールにまとめてるから田舎臭いが、解いたら髪で隠れて小顔効果が出るから、多分いい感じに美人寄りになると思う。
つまり一言で言えば、結菜じゃん。ジャケシャツにカーディガン、チェックのスカートって、もろ四月の北海道女子高生制服スタイルだわ。
「お……お前、出前持ってきたんか」
「はあ?」
「誤配達お断りだ」
「なに言ってんのよ」
俺の渾身のボケは総スルー。結菜が首を傾げると、ポニーテールが揺れた。
「さっき教えたでしょ、近いって。……あっ。スマホでレスしたほうがいい?」
「どうでもいいわ、そんなん」
「んじゃあセフレがすることしよっ」
「はあ?」
「おじゃましまーすっ」
勝手にずかずか入ってくる。
「へえ、思ったよりきれいな部屋じゃない」
ベッドとローテーブル、あとパソコン作業に使う天板折り畳み式ライティングデスクと小さな食器棚しかない部屋を見回している。
「男の一人暮らしって、もっとこう……なんての、ど汚い感じかと思ってた」
「今日は月曜だぞ。お前、学校は」
「いいんだよ。あたしは今日から洋介兄のセフレだし」
後ろ手でポニーテールを解くと、髪をわさわさして広げた。クソっ。髪下ろすとやっぱ、かわいくなったじゃん。
フローリングにちょこんと正座すると、呆然と突っ立つ俺に、がばっと頭を下げた。
「よろしくお願いしまーす」
いや結菜、俺も童貞だからよくは知らんがセフレってのはなんて言うか、そういう「入り」はないと思うぞ。どんなツカミだよお前。
●
こうして、俺と結菜の奇妙なセフレ生活が始まったんだわ。なんかどえらい騒ぎになったんだけどさ。
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