50話 バーベキューの準備と見張ってる嫁
俺は社員旅行で、山中湖へとやってきた。
近くのホテルで一泊することになる。
午後は湖近くのキャンプ場で、バーベキューをするのだ。
バスでキャンプ場まで移動。
男子女子別れて作業をする。
男は主に荷物運びプラスタープなどの設営。
女子はレストハウスの厨房でバーベキューの下処理をする。
「って、なんで
俺の隣に、ちっこい子犬のような少女がいる。
俺の後輩だ。
ロリ巨乳に眼鏡をかける、というなかなかに可愛らしい見た目。
隠れたファンも多いらしい。
「こっちの手が足りなくなるだろうからって、部長がこちらを手伝うようにと!」
「なるほど……」
俺たちは簡易テントやら炭やらを運ぶ。
「ふぅ……ふぅ……」
えっちらおっちら、と安茂里が炭を危なっかしく運ぶ。
「いいって、貸しな」
「ですが……」
「女子に思いものを持たせるわけにはいかんだろ」
「せんぱい……! 優しいです!」
俺は安茂里から段ボールに入った炭をもらう。
安茂里には比較的軽いものをもってもらう。
ぶぶっ……とポケットに入れていたスマホが振動する。
「
うちの嫁からのラインには……。
【お嫁さん以外の女子に過剰に優しくしないことっ。特に、重いものをもってあげて、男らしいアピールとか駄目よ~ダメダメ!】
……嫌にピンポイントなアドバイスだな。
了解のスタンプを送っておく。
すぐに既読がつく。
【(^^)】
という絵文字だけが送られてきた。
これはどういうことなんだろうか……。
「せんぱーい! こっちですー!」
「おう」
安茂里は先に場所取りをしている。
レジャーシートを広げて、そこに荷物を置く俺たち。
男性社員たちは、作業を分担する。
俺はテントを張る係となった。
「別に良いけどなんで俺がテント?」
いつものメンツが訳知り顔で言う。
「おまえ長野出身なんだろ? なら子供の頃からキャンプとかしてたんじゃないかって」
「してねえよ」
確かに山育ちではあるが、キャンプなんてやったことないな。
「テントはおまえに任せるぜ
「アンナ先輩と過剰に仲良くしたから面倒をおしつけてるわけじゃないぞ
「くたばれ
おいいいいいい。最後私怨まじってませんでした!?
「チクショウ覚えてろよ……」
「「「そりゃこっちのセリフだ!」」」
鬼の形相で男性社員達からにらまれる。
俺、なにかしちゃいました……?
「アンナ先輩と仲良くしやがって!」
「あーあ、おれも女子にまざって料理したかったなぁ」
先輩は女子チームと一緒に料理の下処理をしている。
俺はテントを設営することになる。
「これどうやるんだ……?」
骨組みとかシーツとか一通り広げたが、さっぱりやりかたがわからん。
「せんぱいっ。わたし、手伝いますー!」
安茂里が笑顔を浮かべ、手を上げる。
「ありがてえ……けど、作り方わかる?」
「もちろんですっ! ちょっと貸してくださいね」
安茂里がテントの骨組みを手に取ると、テキパキと設営していく。
そりゃあもう、見事なもんだった。
安茂里は一切立ち止まることも苦戦することもなく、あっさりテントを組み立てたのだ。
「おお! すげえな! プロかよ!」
「えへへっ♡ 実はわたし、アウトドアが趣味なんです。田舎ではいつもキャンプしてましたっ」
「はー、そうなんだ」
安茂里も田舎育ちだって言っていたな。
「ドコ出身なの?」
「
「え、長野!? 俺も長野出身なんだよ」
「ほんとですかー! 奇遇ですねー!」
俺は安茂里にならいながら、テントとかタープとかを設営していく。
「なんだー、せんぱい長野出身なら早く言ってくださいよ!」
「いやまあ言うタイミングなかったからなぁ」
「ご実家は長野のどの辺なんですか?」
「
長野の北側のことを、北信という。
そんな風に地元トークで盛り上がっていると……。
ぶぶっ……とまたスマホに通知が来た。
ポケットからスマホを取り出すと……真琴からだった。
【嫁さん以外の女子と、地元トークとかで盛り上がるのも、だめですからな! それやったら罰金よ罰金!】
……またも真琴さんが気にして連絡を寄越してきた。
【おまえ暇なの?】
【外延々走らされて死にそう(/_;)】
外周の途中に連絡していたらしい。
【練習に集中しなさい】
【でもでもっ、お兄さんが浮気してないから、不安なんだもん! 駄目だよお兄さんはぼくのなんだからねっ!】
あいつまだ俺が誰かに取られるんじゃないかって心配してるのか?
まったく……。
【おかわいいことで】
【(*`皿´*)ノ】
ふふっ、可愛いやつめ……。
「じー……」
安茂里が俺の手元を、じっと見ていた。
「ん? どうした?」
「や、やけに……楽しそうにラインしてるなーって」
「そ、そうかな……?」
真琴のことは会社の人たちには秘密にしている。
まさか女子高生と付き合って、しかも同棲してるなんて、言えないからな。
「あの、せんぱい……つかぬ事をお聞きしたいのですが」
「ほぅ、なんだ?」
「……と、年下と年上でしたら、ど、どっちがタイプですか……? 女性の好みで」
顔を赤らめながら安茂里が聞いてくる。
「そりゃ断然年下かな」
真琴が年下だしな。
「っしゃっ!」
ぐっ、と安茂里がガッツポーズをする。
なんなん?
「あ、あと……その。もう一個! い、妹さんとかって、居ます?」
「俺に? いないよ」
「しょうでしゅかぁ……」
一転して、しおしおとした表情になる安茂里。
なんなんださっきから。
「はぁ~~~~…………妹だったらよかったのに……」
安茂里がテントのヒモをひっぱりながら、溜息をつく。
結構大きめのテントだ。
だが……そのときだ。
「おい! 安茂里!」
「え? ……きゃっ!」
強めの風が吹いて、テントのバランスが崩れる。
ヒモを持っていた安茂里が、引っ張られるようにして、転びそうになる。
「あぶねえ!」
倒れそうになる安茂里を、俺は抱きしめて、そのまま崩れ落ちる。
ドサッ……!
「いっつ……」
「だ、だいじょうぶですかせんぱいっ!」
俺は仰向けに倒れている。
安茂里と抱き合って倒れてるような体勢だ。
転んだ際に、設営したテントを巻き込んでしまった。
結果、俺たちはテントの布を上からすっぽりかぶっているような状態である。
「おうよ。問題ねえ。おまえ軽いからな」
「す、すみません……すぐにどきます……ふぬっ! ふぬー!」
俺たちの頭上には、テントの布が覆い被さっていた。
結構な大きさなので、安茂里の力では持ち上げられないみたいだ。
かといって、俺の腹の上には安茂里が乗ってるし……。
「ど、どうしましょう……」
「まあ騒ぎを聞きつけて、誰か助けてくれるだろ」
「そ、そうですね……」
しばし、俺たちは抱き合ったような状態のまま、救助を待つ。
ドキドキ……と心臓の鼓動が、安茂里から伝わってくる。
「どうしたおまえ?」
「えっ!? なにがですかっ!?」
「やけに心臓がドキドキいってんだが」
「そ、それは……だ、だって……お、男の人と、密着した状態で、二人きりなんて……」
ああ、恥ずかしいのか。
「せ、せんぱいこそ……平気です?」
上に乗ってて重くないかってことだろうな。
「問題ないよ」
「え!? 問題ないんですか!?」
何をそんな驚いてるんだ……?
「……で、でもせんぱいには……か、彼女かっこかりがいるはずなのに。女の子とくっついても問題ないってことは、やっぱりあのときの女の子は親戚とかなんでしょうかっ。ならワンチャンあるかもっ」
「ん? なんだって?」
超小声で早口にしゃべる安茂里。
ぶんぶん、と安茂里が首を振る。
「あ、あんま身をよじらないでくれ……」
安茂里は結構胸がでかい。
ぐにぐに、と胸板に、柔らかいものが当たってしまう。
「わ、わかりました!」
ぐにぐに。
「あの、安茂里さん?」
ぐに、ぐにぐに。
「う、動かないでって」
「で、でもっ、だ、脱出しないといけないので! すみません、脱出のためなんですほんとなんです!」
この状況から早く脱したいのだろう。
安茂里はその後も、脱出を試みる。
その際胸を押しつけたり、こすりつけたり
していた。
「不可抗力です! 不可抗力ですから!」
「お、おう……そうだな」
そこへ……。
バサッ、とテントの布が剥ぎ取られる。
「「あ」」
「やっほー……貴樹くん♡」
笑顔のアンナ先輩がそこに居た。
「こんなところで……何してるのかな♡ かな♡」
……すっごい笑顔のアンナ先輩。
なぜだろう……めっちゃ怖い。
ぶぶ……とポケットで通知が入る。
俺はアンナ先輩から目線をそらすために、スマホを見る。
【女子と二人きりで、暗がりで密着とか、してないよね? よね?】
スマホからも、そして目の前からも、恐ろしいまでの怒りの波動を感じる……!
「い、いや……違うんだって」
「そうです! 先輩は悪くないんです! わたしのせいなんです! 不可抗力なんです!」
ありがとう、その通りなんだけど、言葉を重ねれば重ねるほど……怪しさ倍増するから……。
ぶぶっ、とまた通知。
【(*`皿´*)ノ】
真琴さん、怒ってらした……。
すぐに返事がなかったから、疑ってるのだろう。
ああもうこれどうしろってんだよぉ……。
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