年下幼なじみ♂が実は美少女だった件~婚約者に浮気され独り身の俺、昔弟のように可愛がっていた子と同棲する。今更女の子だったと気づいても遅い。世話焼きJKに知らぬ間にダメ人間にされてたので…

茨木野

プロローグ

1話 婚約者に裏切られた


貴樹たかきごめんね、私……あなたと結婚できない」


 それは、去年の夏。

 俺、【薮原やぶはら 貴樹たかき】。


 社会人2年目。


 俺の前には、大学の頃から付き合っていた彼女……。


犀川さいがわ かすみ】がいる。


 1つ年下の、まあ……美人だ。


 俺にはもったいないくらいの、綺麗な、恋人で……。


 将来を約束した、関係だった。


「な、なんでだよ! かすみ! 結婚できないって、どういうことだよ!」


 俺たちがいるのは、昼下がりのカフェだ。

 かすみ。眼鏡をかけた小柄な女性。


 俺の1つ下で、社会時になったばかりだ。


「事情が変わったのよ、貴樹たかき


「な、なんだよ事情って? 俺たち、結婚するんだろ? だから……こうして俺、故郷を出て都会にきたんだぞ?」

 

 俺とかすみは、同じ大学に通っていた。 

 俺が1個上で、かすみは後輩。


 大学2年生の時かすみとつきあって、それから今に至る。


 俺は長野県出身。

 かすみは都会から、長野にある国立大学に進学。


 大学卒業後にかすみは、東京に帰ることになっていた。


「おまえが都会で暮らしたいっていうから! 俺は実家を出て、こっちで就職して! おまえが来るのを待ってたんじゃないか!」


 知らずヒートアップしてしまう。


 だってそうだろう?


 俺は恋人かすみと結婚するために、故郷を捨ててきたんだ。


 本当は長野で暮らしたかった。

 地元の友達、家族、住み慣れた場所を捨てて……。


 それでも、俺はかすみを選んだんだ。


 彼女と結婚するために、地元を離れて就職していたって言うのに……!


「なんでだよ! なんで結婚できないんだ!?」


 かすみは、一言言った。


「彼氏がいるの。貴樹のほかに」


「…………………………は?」


 最初……俺は何を言ってるのか、わからなかった。


 だが……徐々に脳が理解する。


「か、彼氏……俺以外の?」

「そう。ごめんなさい」


「いや……え? なにそれ……いつ、だよ。いつの間に、彼氏作ってたんだよ?」


 少なくとも、俺が大学に居た頃、かすみに男の影はなかったはず。


貴樹たかきが大学を卒業して、その年に、同級生の男の人と付き合ったの」


「…………」


 グニャリ……と視界が歪む。


「貴樹が大学を卒業して、私は一人になって、不安だったの。そんなとき、彼が私を支えてくれたんだ」


「いや……ちょっと、ちょっとそれは……待てよ……」


 状況を整理しよう。


 かすみは、俺の一個下。

 

 つまり俺が大学を卒業して、社会人となった年。


 かすみは大学四年生、最終学年。


 俺は先に卒業したので、一足先に、彼女の実家である東京へと出てきた。


「俺は……おまえのために、先に来て……待ってたんだぞ?」


 東京で就職したいからって。

 家族や友達の居る、故郷で、一生過ごしたいって言うから……。


 俺は、自分のことを我慢して、都会に出てきたのに……。


「ええ。そうね」


「いや……そうねって……」


「でも貴樹は、私が一人長野に居るとき、どれだけ寂しい思いをしていたのか、知らないでしょ?」


 ……かすみは、まったく悪びれたようすもなく、そんなことを言う。


「長野には、何もなかったわ。あるのは山だけ。遊びに行くとこもないし、親しい友達も居ない。そんなところに……あなたは一人、恋人を置いて都会へいってしまった……私の苦労も知らずに」


 ……こ、こいつはいったい、何を言ってるだろう?


 確かに、俺はかすみを一人置いて際に就職した。


 けど、けれどさぁ……!


「お前が寂しくならないようにって! 毎晩電話しただろうが!」


「電話くらいで、寂しさが紛れるわけないでしょ? でも……彼は違ったわ。ずっと私を励ましてくれた。……あなたと違ってね」


 え? なんで……?


 なんで俺が……非難されてるんだ?


 お、俺が悪いのか……?


「そういうわけだから、わかれたいの。あなたと」


「そ、そんな……!」


 かすみが立ち上がって、俺の元を離れようとする。


「待ってくれよ! 俺は……俺はどうすりゃいいんだよ!?」


 俺はかすみの手を掴んで、声を張り上げる。


「もうこっちに就職しちまってる! 家も……おまえと住むために、大きめのマンションも購入しちまった!」


「そうね。でも就職先を決めたのはあなただし、マンションを買ったのだって貴樹よ。私には、もう関係ないわ」


 無関係を装うかすみを見て……俺は思う。

 もう、彼女の心は、俺の元にはないんだと。


 それでも……。



「マンションだって! おまえが住みたいって! 一緒に内見して決めたとこじゃないか!」


「私はこういうとこ良いわねって言っただけよ。かってなんて、一言も言ってないわ」


 拒絶につぐ、拒絶。


 もう……彼女は俺と離れたくて、仕方ないんだ。


「もう別れましょう」


 かすみは、自分の指にはめていた、指輪を外す。

 

 ことん……とテーブルの上に、指輪を置いた。


 それは、今年の初めに、彼女と買った婚約指輪だ。


 給料3ヶ月分の、それを……あっさりとかすみは外した。


 俺は完全に、悟った。


 もう……俺たちは、終わってしまったのだと。


「俺は……これからどうすればいいんだよ……」


 絞り出すように、俺は言う。


 恋人との結婚のために、全部を故郷に置いてきて、都会に出てきたのに……。


 肝心の、恋人との結婚が、ご破算になって……。


 これからどうすりゃいいんだよ。


「さっさと切り替えて、新しい恋人でも、作れば良いんじゃないかしら?」


 ……おまえが、よりにもよって、おまえが言うか、そのセリフを。


「私はもう彼と新しい生活を始めてるから。もう二度と関わらないで。それじゃ」


 かすみは俺に冷たくそう言い放ち、カフェを後にする。


 俺は呆然と、椅子に座ったまま……閉店になるまで、動けなかった。


「うぐ……ふぐっ……うぅうううううう!」


 俺は……22年生きてきて、ここまで悲しいと思ったことは……後にも先にもなかった。


 こうして、俺は婚約者に裏切られて、独り身になったのだった。


    ★


 それから数ヶ月後。


 3月。


 来月から社会人2年目となる……ある日。

 俺の元に、1本の電話が掛かってきた。


『お兄さん、元気っ?』


「おお、真琴まことか。久しぶりだな」


 電話の相手は、【岡谷おかや 真琴】。


 長野の実家の近所に住んでいる……


 いわゆる、幼馴染みだ。


「久しぶりだなぁ、真琴まこと。今日はどうした?」


『あのねっ、ぼく、東京の高校に、進学することになったんだ!』


 まことは今年15。

 対して俺は22。


 年の離れた、けれど弟的存在として、俺は可愛がっていたのだ。


「どこ受かったんだ?」

『東京のアルピコ学園!』


「バスケの名門校じゃないか! 良かったなぁ」


 真琴は昔から運動が得意で、当時からバスケが上手かった。


 なるほど、東京に出てきたのは、バスケの名門校に通うためか。


「ってことは、こっちで一人暮らしか。大丈夫か? アルピコ学園って寮あるのか?」


『ううん。ないよ。だから一人でアパート借りて暮らすんだけど……ちょっと心配。東京はじめてだし……』


 確かになぁ。


 俺も東京に来たばかりの時、同じ不安を感じた物だ。


 弟が、困っている……なら兄ちゃんはどうするか?


 俺はふと……自分が住んでいる場所を思い出す。


 ここは、俺がかすみと暮らすために、買ったマンションだ。


 つまり、二人なら余裕で暮らせるスペースがある……。


「なぁ真琴まこと


 だから、俺はこんな提案を、真琴にしたのだ。


「よければ俺と、一緒に住まないか?」

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