EP5 サモンソード
「プレイヤースキルは一先ず置いておくとして……装備もキツいなぁ」
三日後。
とりあえず昔の勘を取り戻そうと考えたミュウは、モンスターと数回ほど戦闘を行った。だが、思ったように体が動かず、かなりギリギリの戦いを強いられてしまった。
そこで、そういえば装備を変えなくちゃと思い至るのだが、ストレージには禄な装備が残されていなかった。
「引退するとき、殆どゼッカにあげちゃったの思い出した……。せめてアビスがあればなぁ」
アビスとは、【深海剣アビス】のことである。ゼッカとギルティアと三人で遊んでいた頃に手に入れた、ミュウの元・愛剣である。
「う~ん。とりあえず手持ちのアイテムを売って資金にするかな……プレゼントBOXも溜まってるし」
ログインボーナスや復帰キャンペーンが大量に貯まっているプレゼントBOXを開く。一つずつ確認しながらストレージに放り込んでいると、妙なプレゼントを発見した。
「なんだろこれ……えっと」
ミュウはメッセージを読み上げる。
『【もふもふ動物園】をお買い上げ頂きありがとうございました。セーブデータを確認できましたので、キャンペーン品をお送り致します』
そして、送られてきたものを確認する。どうやらそれは剣士用の武器のようだった。
「剣の装備だ。サモンソード……? やった、あまり性能は高くないけど……ショップで買えるヤツよりは大分マシだよね!」
性能は型落ち感が否めないが、ステータスの上昇値はギリギリ合格ラインだと納得するミュウ。少なくとも今から剣を用意し始めることを考えれば、その時間が短縮できるだけ、ラッキーと言ったところか。
「へぇ~これがキャンペーン装備か。初めて見たな」
GOOを運営する【神永エンタープライズ】は、VR技術を独占しており、様々なゲームを販売している。
同社が発売するゲームのセーブデータがあれば、様々な特典を受け取ることができるのだ。これはGOOに限らず、他のVRMMOでも同じである。
もしかしたらどこかにGOOのセーブデータがあることで特典が貰えるゲームもあるのかもしれない。
「凄いよね。私たちと同じ高校生が、こんな世界を造っちゃうんだから」
10年前。当時高校生だった、神永エンタープライズの現総帥・神永光太郎かみなが こうたろうはVR技術の基礎を開発。
この技術により、人類は新しいステージに進むと、当時世界中が期待していたという。
しかし自分の開発した技術が戦争や大衆洗脳、宗教のために使われることを嫌った彼は、会社を設立。VRの技術を完全ブラックボックス化し自社で独占。ゲームメーカーや玩具メーカーを次々と吸収合併し、今や日本をエンタメで支配する一大組織である。
噂ではプログラマーですら専用ツールを介して、VRのシステムの根幹を知らないままゲームを作っているというのだから、その情報管理の徹底ぷりには驚きを隠せない。
「天才か……はぁ。私も天才に生まれて、悩みなく生きたかったなぁ」
進路、勉強、恋、そして友人関係。現在16歳のミュウには悩み事がいっぱいだった。
「おっと、暗い。暗いよ私。とりあえず新装備を試さないと」
メニューにて先ほど手に入れたサモンソードを装備する。すると、ミュウの手に奇妙な形の剣が現れた。
その剣の刃渡りは大分短く、30cm程。最早短剣である。そして全体的に安っぽいプラスチックのような装飾があり、柄の部分には銃のようなトリガーがある。非常に玩具ぽい。ミュウは弟が小さいときに振り回していたウルトライダーのおもちゃを思い起こす。
「で、この穴はなに?」
剣の中央に穴が開いており、何か別のパーツを嵌められるようになっている。
「待って……この形ってもしかして……」
何かをひらめいたミュウは、ストレージを漁る。そして、以前拾った【ブラックファング】の召喚石を取り出した。
「やっぱり! ぴったりだ!」
ミュウの閃き通り、ブラックファングの召喚石はその穴にがっちりと嵌まった。
「で……どうするの?」
ミュウは10分ほど色々試す。そして、柄の部分についていたトリガーが怪しいと思い、一度引いてみる。
『チャージ』
トリガーを引くと、剣からそのような音声が鳴った。やけにノリの良い音声だった。
「ええ、何これ面白い。えい、えい、えい」
『チャージ』
『チャージ』
『チャ『チャ『チャージ』
トリガーを引く度に音声が鳴る。すると、10回ほどで音が鳴らなくなった。だが、その変わりに、剣は稲妻とオーラを纏い、今にも爆発寸前といった感じである。
「これで攻撃準備完了ってことかな……じゃあ……えいっ」
とりあえず、剣を振ってみた。
『フルチャージ!!! ファイナルアタック・ブラックファング!!』
と、やけにハイテンションな叫び声が剣から鳴り響き、さらにブラックファングを模したオーラが放たれる。
そのオーラはフィールドの巨大な岩にぶつかると、易々とそれを粉々にした。
「す、凄い!」
その破壊力に素直に喜ぶミュウ。
「隙が大きいから対人戦には向かないけど……別に対人はもうしないし、十分だよ。ありがとうおばあちゃん!」
もふもふ動物園を買ってくれたおばあちゃんに感謝するミュウ。これで後は適当な装備を見繕えば、準備は完了である。
その時だった。
ミュウの元に、ハゼルからのメッセージが届く。
『ハローみゅうみゅう。
協力者を見つけた。
集合時間は4日後の19:00
氷のダンジョン入り口に集合だ』
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