第93話 ドンチャン騒ぎ

 初日を1位で終えたセカンドステージの面々は、現在ミーティングを行っていた。

 しかし1位という上々の結果にも関わらず、会議室の空気はとても重い。ギルドマスターであるクロスは会議室に入室すると、露骨に不快感を露わにする。


「少ないな……半分も居ないじゃないか?」


 会議室には大体20人程度が座っている。予定があって来られないとあらかじめ連絡を入れていた者を除いても、その人数は少なかった。


「僕に無断で欠席なんて……」


 苛ついた様子のクロスに、背の高い小学生プレイヤーのガイキが、もう遠慮はしないとばかりに言葉をぶつける。


「ボミー、れのん、カエストス、扇風機、トマトン、ドレザ、ドンキホーテ、キンぞく、男マン、ジュエリスト」

「……? なんだいきなり。何かの呪文かい?」


 そのクロスの返答を聞いて、ガイキはがっかりしたように肩を落とした。


「今日、ギルドホームを守ってくれていた連中の名前だよ。覚えてないとか、信じられないぜ」

「で、その連中がどうしたって?」

「辞めたよ」

「は?」

「だからそいつらはセカンドステージを辞めたよ」

「おい待て。ギルドマスターである僕に断りもなく辞めるなんて、許されないぞ?」


 怒りだしたクロスを、ガイキは冷めた目で睨む。


「誰もお前をギルドマスターとして、認めていなかったって事だろ」

「何?」

「そうだろ。みんなユニークが欲しいから仕方なくお前にへこへこしてただけ。お前について行けば他のプレイヤー達を倒せる。勝って煽れる。それが楽しいから、だから我慢して一緒に居たんだ」

「……な、何だって? 我慢?」


「いい加減気づけよ天才くん。今日、お前は負けた。そのせいで俺たちまで死んだ。屈辱を味わったんだ。その時点でクロス、お前の存在価値は消えたんだよ」

「……僕の存在価値が……消えた?」


 ガイキや先ほど辞めたメンバーはセカンドステージ元々のメンバーではない。ユニークを手に入れられるという言葉に惹かれて集まった小学生の内の一部だ。

 ユニークを手に入れたら後はおさらば……でも良かった。しかし、そんな彼らが我慢しながらもクロスに従っていたのは、クロスの強さを信じていたからである。


 クロスに従って、子供だけの力で最強ギルドとして君臨し、大人達を見返す。それが彼らの目的だった。

 だが、クロスは無残にも敗北し、自分たちにも死という屈辱を味わせた。


「しかもヨハンとかいう、ランキング100位にも入っていない無名のヤツに負けるなんて……お前、この責任をどう取るつもりだよ?」


「責任? はは……あっはははは。何の責任だい? セカンドステージは今1位だぞ? この調子で明日も敵を殺し続ければ、僕らの優位は揺らがない!」


「ま、精々頑張るんだな」


 そう言って、ガイキはログアウトしようとした。そんなガイキに、ゾーマが声を掛ける。


「お、おい……明日は来るんだよな?」

「いや、来ない。ま、俺たち抜きでお前らがどこまでやれるか……高見の見物とさせてもらうぜ」

「高見って……今日お前も死んだじゃん」

「っ!? ちっ……とにかく、俺たちに戻ってきて欲しかったら結果をだせよな!」


 そう言うと、ガイキの姿が粒子となって消えた。


「うわぁ……」

「なんだあいつ」


 ユウヤとパンチョが不満げに言った。そしてゾーマは胃を抑えながら、天を仰ぐのだった。



***


***


***


パンチョ『あの』

パンチョ『昼間のことは忘れてくれ』

ユウヤ『剣6本より盾6個の方が強い気がするんだ』

パンチョ『俺たちずっと友達だよな?』


ゾーマ『こっちの空気最悪(^○^)穴があったら入りたい』


オウガ『それ意味違う』


「何やってんだあいつら?」


 闇の城のパーティルームにて、クラスメイトから送られてくるメッセージに首を傾げるオウガ。そんなオウガに声がかけられる。


「オウガー、何やってるの?」

「乾杯するわよ☆」

「ささ、オウガくん。グラスを持って」

「うっす。ありがとうございます」


 反省会、及び明日の作戦会議を早々に終えた竜の雛ではパーティールームにて、軽い宴会が行われていた。


 オウガは薄い黄色の液体の入ったワイングラスを手に取る。中にはシャンパンに見せかけたジュースが入っている。VRではアルコールも摂取できる(もちろん酔ったりはできないし、未成年のアカウントでは飲むことができない)のだが、未成年が多いということで、大人達も自重して、ジュースでの乾杯だった。


 見渡せば、賑やかしにと会場に配置されたモンスターたちもグラスを持っており、さながら本物の魔王軍のパーティ会場のようであった。

 そして、全員の手にグラスが行き渡ったのを確認すると、ギルドマスターであるヨハンが音頭をとった。


「では、初日を無事に終えられたということで……かんぱーい!」


「「「乾杯!!」」」


 ヨハンたちは乾杯と共にジュースを飲み干すと、ドナルドの用意していたゴージャスな食事に手をつける。チキンやサンドイッチ、ピザといった定番のものからド派手なケーキまで、多種多様な料理が揃っている。


「凄い……ゲームとはいえ、ここまでの料理を作りはるなんて!」

「ドナルドさん、料理スキルも取ってるんですね」

「嗜みとしてね。まぁ、誰かに振る舞ったのは今回が初めてよ。口に合うと嬉しいんだけど☆」

「心配ないみたいやね……」


 コンが指さした方を見ると、オウガが召喚獣たちと一緒に肉料理を勢いよく食べていた。それは最早争奪戦の様相を呈している。


「もうっオウガったら、喉詰まらせちゃうよ」

「大丈夫!」

「良かったわ~沢山あるから遠慮なく食べて頂戴。あらヨハンちゃん。アンタってば、ピザが好きだったの?」


 ドナルドが隣のテーブルに目をやると、そこではバチモンたちとヨハンがピザを美味しそうに頬張っていた。


「ピザ片手にコーラを一気にゴクゴク……はぁ、幸せ。味覚が若返るわ!」


「わかるわ。現実では色々と気になって、中々できない組み合わせだものね……楽しんで頂戴☆」

「……お姉ちゃんがコーラ飲んでるのはいいんだけどさ。バチモンたち、お酒飲んでない?」

「ほんまやね……」


 見れば、ヒナドラはビールジョッキ、イヌコロは日本酒など、バチモンたちはそれぞれがお酒をぐびぐびと飲んでいる。


「大丈夫よみんな。20thアニバーサリーも過ぎたし。バチモンたちは実質二十歳以上だから!」

「そういう問題ですか!?」


「ささ、細かいことは気にしないで! お料理はまだ沢山あるから。明日に備えて、今日は盛り上がるわよ~!!」

「おおー!!」


 そして、まるで最終日のような竜の雛の宴会は、夜遅くまで続いたという。

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