第87話 VS元パーティーメンバー

数日前。


 オウガとゼッカは夜の短い時間を使って、GOOのランキングトッププレイヤーであるロランドに修行をつけてもらっていた。

 ロランド自身の戦い方は【最果ての剣】のチャンネル動画でも確認できる。だが実際に教えて貰うというのは、オウガにとってはとても良い経験だった。

 そして、指導が中盤に入った頃、ロランドがぽつりと呟いた。


「このGOOというゲームは、突き詰めると【じゃんけん】と同じなんですよ」


 と。それを聞いたゼッカは「あーまたロランド節がはじまった」と興味なさそうに退散したのだが、竜の雛に入ってから大人たちの話を面白いと思い始めていたオウガは、そのまま話を聞いてみることにした。

 何より、じゃんけんとはどういうことなのか、聞いてみたくなったのだ。


「言葉通りの意味です。が、何も運ゲーと言っている訳ではありません。何せ、このゲームを遊ぶ多くのプレイヤーは一つの手しか出せないのですから」

「手が一つ? ええと。つまり、戦い方が一つしか無いってことっすか?」


 オウガの言葉を聞いたロランドの口元が少しだけ緩んだ。


「いいですね、君は理解が早い」

「あ、ありがとうございます」

「ついでに言うと、自分の戦い方がパーなのか。グーなのか。チョキなのか。それすらわかっていないプレイヤーが大半なのです。だから大事なのは、このゲームに存在する数多くの戦い方、それぞれが何の手なのかを理解すること」

「そうか。相手の手がわかれば、自分はそれに勝てる手を出せばいい。だからじゃんけん!」


「そうです。ただ口で言うのは簡単ですが、自分の手を増やす……それは並大抵の事ではありません。自分の持てるスキルを熟知し、使いこなす。それが何より大切です」

「ああ……」


 オウガはこれまでのロランドの教えを思いだし、一人納得した。ロランドに連れられていろんな場所に行き、色々な状況で手持ちのスキルを使う。どんな状況でスキルを使えばどのような結果をもたらすのか。それを何度も何度も繰り返していた。

 職業剣士のプレイヤーが取れるスキルはそこまで多くない。20~30程度だ。ロランドは、この手持ちのスキルの熟練度を上げ、完全に使いこなせと言っているのだ。数多くのスキルを使用可能なヨハンとは、対極といっていいだろう。


「ただ、初見のユニークスキルには、どうやって対抗すればいいんでしょう?」


「ふむ……私の場合、初見のユニークスキルやユニーク装備持ちと出会ったら、勝ちに行きません」


「え!?」


 オウガは思わず大声で驚いてしまう。


「意外でしたか?」

「は、はい……」

「ふっ、私は最強ですが、無敗ではないんです。情報の全くないユニークスキルには普通に負けることも多い。ただ、黙ってやられるわけではありません」

「相手の情報を集める?」

「そう。そして相手の手がパーなのか。チョキなのか。はたまたグーなのか。探る。次に戦うまでに研究する。そうすれば次は負けない」


 オウガは鳥肌が立った。ロランドは簡単そうに言うが……これこそが目の前の男を最強たらしめているのだと、強く思った。勝ちに拘らないのではない。勝ちに拘るからこそ、何が本当の勝負なのかを見極めている。


「オウガくん。君はユニークが欲しいそうですね」

「えっ……いや……」

「恥ずかしがることはない。オリジナルでありたいというのは、君くらいの歳では普通です。私にも覚えがある。だが、君はユニークを見つけることができなかった。実に運がいい」

「え? 運がいい? 俺、運がいいんですか?」

「ええ。君はとても運がいい」


 ロランドが笑う。だがオウガは、意味がわからず混乱するばかりだった。


「ユニーク。このゲームに一つしか存在しないオンリーワン。と聞けば心ときめく。だがその実、ユニークで強くなる為の方法は自分で見つけるしかない。これはとても孤独な戦いです。例えば対策されてしまった場合、次にどうするべきか、誰も教えてくれない。考えてくれない。協力してくれない。一方、剣士はおおよそ1000人程度のランキングプレイヤーが存在し、常に何が最強か意見を戦わせている。もし剣士という職業が何か大きな壁にぶつかっても……1000人が共に考え、解決策を探す」

「せ、1000人……」

「そうですオウガくん。1000人の剣士プレイヤーが積み重ねてきたものすべてが君の味方となってくれる。そしてユニーク持ちというのは我々にとっては最高の遊び相手です。皆でデータを集め、攻略方法を模索する。君のライバル、クロスくんを倒すための研究も進んでいます。今から君に、それを教えてあげましょう」


 オウガはゾクっとした。


 一つは剣士という職業の最強を維持する為に多くのプレイヤーが研究し、意見をぶつけ合っていることを知ったから。

 そしてもう一つは、オウガの憧れであったユニーク持ちは、彼らにとっては一種のコンテンツ、娯楽なのだということを知ったからだ。

 オウガが今まで一度も勝てなかったクロスでさえ、彼らにとっては倒すまでの過程を楽しむ娯楽だったということだ。


(ギルマス……ヤバいかもな……)


 この修行に参加する際、ヨハンの情報を教えろとは、一言も言われなかった。それはロランドのフェアプレー精神からなるものだと、オウガは思っていたが。

 本当は違うのかもしれない。もしかしたら彼らは既にヨハンを倒すための戦法を編み出しているのでは? オウガはそう思った。


***


***


***



 セカンドステージ襲来に伴い、クワガイガー、クリスタルレオと共に3Fの守りを担当していたオウガは、庭目指して走っていた。(防衛責任者のレンマには了承を得ている)


「そっか、コンさんもギルマスたちとは別に、他所に襲撃に出てるのか」


 無人のロビーに降りる。後はドアを潜れば庭だった。しかし、その行く手を阻む者が二人、ドアを塞ぐように立っていた。


ゾーマ Lv30 守護者


ユウヤ Lv32 剣士


2人ともオウガと一緒にGOOを始めた、現実でもクラスメイトの友人たちだった。


「はは、悪いがお前の相手は俺たちだ。相手になってもらうぜ」

「俺たちが強くなったところを見せてやる」

「くっ……」


 オウガは軽く舌打ちした。


 オウガの目的でもあったクロスは扉の向こう……すぐそこだった。しかし、目の前の二人はやる気満々。黙って通してくれるなんて甘い考えは、しない方がよさそうだった。

 オウガは黙って剣を抜く。竜の雛のみんなが協力してくれたからできた、ミスティックソードだ。


「ふっ、お前もやる気だな。じゃ、まずは俺からだ」


 そのオウガを見て興奮したように前に出たのは剣士のユウヤ。一緒に遊んでいた頃はオウガに一度も敵わなかった少年だ。だがユウヤは、クロスのお陰でユニークスキルを手に入れていた。


「見てろ――【阿修羅アームズ】!」


 ユニークスキル【阿修羅アームズ】。その効果は腕を4本増やすことができるというもの。ユウヤの肩と脇からそれぞれ腕が生える。元あったのと合わせて、腕が6本になった。そしてそれぞれの腕に剣が装備される。


「なんか逆に雑魚ぽい見た目だな」

「ほざくなよオウガ! 本当はビビってる筈だ。何せ今の俺のステータスは剣6本分だけ上昇しているんだからなぁ! とうあ!!」


 そして、6本の腕と6本の剣でもって、ユウヤはオウガに襲いかかる。だが、オウガはその攻撃を全て捌く。


「な、何故だ……何故当たらない!?」


 オウガはゼッカの戦いを思い出していた。二刀流。確実に敵を殺すため、計算されつくした二本の剣の軌跡を。

 だが目の前のユウヤの戦いは違う。ただ闇雲に剣を振るっているだけ。例えいくら本数が多くとも。いくらステータスが上昇していようとも。今のオウガには少しも怖くなかった。


「ユウヤ。お前が6本の剣を使うなら、俺も同じ数を用意してやるぜ……ソードディメンジョン!!」


 オウガがスキルを発動すると、ストレージにしまわれていた6本の剣が現れる。


「行くぜ一斉射撃!!」


 そして6本の剣は同時にユウヤに襲いかかる。


「わっ……わあああああああああ!!??」


 ユウヤは剣を振り回して対応するが、そんなことで剣が打ち落とせる訳もなく、結果全ての剣が体に命中。HPを失い、悔しそうに叫びながら消滅する。


「ま、所詮ユウヤじゃこんなもんだよな……」


 と、今まで黙って見ていたゾーマが苦笑いしながら前に出た。


「次はお前か? さっさと始めようぜ」

「ああ。だが俺のユニークスキルはユウヤほど甘くはないぞ」


 そう言うと、ゾーマは手のひらをオウガの方へ向ける。


「――スキルロック!!」


 そして、手のひらから発射されたのは赤い光弾だった。それは真っ直ぐにオウガへと向かっていく。


「はははは! 逃げろ逃げろオウガ! それに当たったら全てのスキルが使用不可能になるぞ!」

「ご親切に……どうもっ!!」


 オウガは向かってきた赤い光弾にタイミング良く剣を振り下ろす。すると、光弾はシャボン玉のようにはじけて消えた。


「なっ……オウガ、お前一体何をした!?」

「は? 知らないのかブレイクマジック」


【ブレイクマジック】とは、持っているだけで常時発動する剣士専用の永続スキル。

 このスキルを持っていると、敵からの魔法攻撃の中に、赤いラインが見えるようになる。そのラインを剣で切れば、その魔法を無効化できるのだ。

 そしてその難易度は相手の魔力ステータスの高さに依存する。魔法使いですらなく、魔力のステータスにポイントを振っていないゾーマの攻撃は、容易く切り裂くことができた。


「ば、馬鹿な……もしそうだとして、なんで俺のユニークスキルが魔法だとわかったんだ!」

「いや、だってお前、プレイ動画を自分のチャンネルに投稿してただろ?」


 そう。ロランドの教え通り、相手の手の内を知ることは大事だろうと友人の投稿しているGOOプレイ動画を、オウガはあらかじめ全てチェックしておいたのだ。


「え、俺の動画見てくれてたの?」

「ああ。切るタイミングを掴むために何回も見たぞ。ついでにいいねも押しておいた」

「マジか! やっぱお前良い奴だなオウがああああああ」


 談笑モードに入る前に、スキル【スラッシュ】でゾーマの体を真っ二つに切り裂くオウガ。ゾーマは「チャンネル登録もよろしくな!」と言いながら消滅した。


「もうしたよ……さて……」


 オウガはドアをくぐり、外へ出る。外ではまだ15人程度のセカンドステージメンバーが、防御用の召喚獣たちと戦っている最中だった。そして庭の防衛を一手に引き受けるメイも、そろそろ危なそうだった。


「メイ……今助けるぞ」


 だがメイの助けに行こうとしたオウガの行く手を阻む影が一人。


「待てよオウガ。彼女を助けに行きたいだろうが……その前に俺と勝負しろ」

「やっぱり居たか……パンチョ」


 もう一人の元パーティメンバー、パンチョが待ち構えていた。

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