第86話 スキル七連コンボ
ヨハンとゼッカはキングビートルの背に乗り、ギルドホームを目指していた。
「持ちこたえてくれているといいんですが……」
「きっと大丈夫よ」
「ところでヨハンさん。さっき考えがあると言ってましたけど……何故わざわざこの子を奪ったんですか?」
ゼッカはヨハンに訪ねた。確かにキングビートルは召喚獣としては破格の強さを持つ。性能はクロノドラゴンや他の上級召喚獣よりも上だ。
だが貴重な一時間を使ってまで手に入れる価値があったかと言えば、ゼッカとしては疑問なのだ。別にクロノドラゴンでも十分なのでは? という気がしてしまう。
ゼッカの疑問に対して、ヨハンは答える。
「それがね。さっきお祭りのルールを見ていて思ったんだけど……HPがゼロになった人は、待機エリアに移動して、戦いを見ることができるのよね?」
「ええ。ギルド同士で戦闘が起こった場合、それは待機エリアから観戦できるはずです。まぁ終わるまでの暇つぶし的な意味合いが強いですが」
「ゼッカちゃんはそう言うけど……私は暇つぶしだとは思わないの。これはかなり重要なことだと思う」
「どういうことですか?」
「戦いが観戦できる。つまり、待機エリアなら好きなだけ強プレイヤーの情報を得られるということよ」
「えっ……?」
「竜の雛じゃムリだけど。もしギルドの人数に余裕があったなら、私なら間違いなく、味方を何人かワザと敗退させて、待機エリアでの情報収集に徹してもらうわね」
「大手ギルドもそれをやっていると?」
「やらない手はないでしょうね。どう考えても、大手ギルドのポイントの入りが悪いもの」
「なるほど、観戦からの情報漏洩を警戒しているんですね」
戦いは三日間に分かれている。全てのギルドが全力でぶつかれば、もっと全体的にポイントが上がっていく筈。だがそれがないのは、どのギルドも力を小出しにしているからに他ないのでは? というのがヨハンの考えだ。
「だからヨハンさんは、わざわざキングビートルを?」
「ええ。この子なら今日が終わればもう使えないし。クロノドラゴンの情報は、できるだけ隠しておきたかったの」
クロノドラゴンの全スキルを解放しているのはヨハンだけだろうと言われている。クロノドラゴンのスキルの情報は竜の雛にとっての切り札なのだ。
「それにしてもこのキングビートル、なかなか安定して飛びませんね……」
ゼッカが不満を口にする。キングビートルは先ほどからグルグルと回ったり、無駄に動いたりと忙しない。
「ってか、私たちを振り落とそうとしているような……?」
「ふふ。もしかしたら元の召喚師のところに帰りたいのかもしれないわね。帰さないけど」
「まったく美女二人を乗せて何が不満なのか」
その時だった。二人の目にメッセージが飛んできた。
「え?」
「そんな……」
『煙条PのHPが0になりました』
***
***
***
竜の雛のギルドホーム【闇の城】上空。
ギルド【セカンドステージ】のギルドマスターであるクロスは、スキルによる飛翔能力で空を飛びながら、闇の城の庭で行われている戦闘を余裕の表情で眺めていた。
その手には彼の身長すら超える巨大なユニーク弓【ゴッドレイジ】が握られている。そしてその弓を持つことによって与えられるスキル【ゴッドヘイロー】によって、クロスは飛翔能力を得ることができるのだ。
「あはは。まさかこの位置から狙撃できるとは思っていなかったようだねメイ」
クロスは地上にいるメイの奮闘を楽しそうに見つめていた。
セカンドステージのメンバーは全部で60人。その内、戦闘に特化したユニークを持つ30人を引き連れて、クロスは竜の雛を強襲した。
最初こそメイの采配と強力な護衛召喚獣に苦戦していたメンバーたちだったが、徐々に召喚獣たちの守りを突破。メンバーたちは、どんどん中に入り込んでいる。2Fの戦闘にて煙条Pのバフを受けたドナルドに苦戦する仲間たちを見かねて、たった今、ここから煙条Pを倒したところだった。
「さて、先行部隊はどうなったかな……チッ。まだあのピエロに手こずっているのか……」
クロスの前には、別の場所を映したウィンドウが出現している。スキル【視覚共有】によって、クロスが【初級召喚術】により召喚した召喚獣ゴーストの見た視界を表示しているのだ。そしてそのウィンドウには小学生プレイヤーたちの猛攻をやり過ごすドナルドが映し出されていた。
クロスは弓使い。何故【初級召喚術】が使えるのか? それはユニークスキル【強制徴収】により、手に入れたからである。
ユニークスキル【強制徴収】。ギルドメンバーからスキルを一つ奪うことができるスキル。但し代償として、奪われた者はその間、あらゆるスキルを使用できないというデメリットがある。これを使用し【初級召喚術】を取得、クロスは弓使いでありながら【視覚共有】のスキルの入手にも成功したのだ。
続けて、メニューを操作し【弓矢作成】を起動。素材を消費し、一本の矢を生み出す。
【アウルヴァンディルの矢】。その制作レシピはユニークで、クロスにしか作れない究極の矢である。その効果は、敵にヒットした時、ダメージ計算前に相手の全ての強化状態を無効にし、発動を封じる効果を持つ。
これにより相手がガッツを持っていても発動させずに勝つことができる。デメリットは、矢に一本しか持てない所持数制限がついているので、一発撃つ度に作成し直さなくてはならないことくらいか。
「ピエロねぇ、実に醜い。僕はお前のような図体のでかい大人が大嫌いなんだ……」
矢を構える。そして、スキル【必中】をドナルドに発動。本来目視しなければ発動できない【必中】のスキルだが、【視覚共有】とのコンボにより、ゴーストを通して見た相手にも使用できるのだ。
「食らえ――ゴッドレイジ!!」
巨大な弓から矢が放たれる。その矢は一度地上に向かって飛ぶと、軌道変更。扉を超えロビーを抜けると、2Fにて敵の侵入を防いでいたドナルドの胴体を貫いた。
「ふっ。ここでゴッドレイジの効果発動! お前は終わりだ」
視覚共有によって表示されているウィンドウにて、ドナルドのHPが0になるのを確認し、笑みを浮かべるクロス。
ユニーク弓ゴッドレイジは、【ゴッドヘイロー】によって飛行中に放った矢の与えるダメージを5倍にすることができるのだ。
「フッ。見たかオウガ。これが僕のスキル7連コンボ……【クロスセブン】だ」
【ゴッドヘイロー】飛翔によって敵の攻撃を防ぎ、【ゴッドレイジ】によるダメージを増加させる。
【強制徴収】によって得た【初級召喚術】で呼び出したゴーストで【視覚共有】、どこにいる相手も目視して【必中】。
どんな防御能力も【アウルヴァンディルの矢】の矢で無効。
決まればヨハンさえ一方的に倒す事が出来る最強コンボ。それがクロスのゴッドセブンである。
「くくく……オウガ。はやく城から出てこないと、お前の仲間が全員死ぬぞ……ふはは……ふははははは」
そしてクロスは再び眼下の戦いに視線を落とす。そしてアウルヴァンディルの矢が再び作成可能になるまでの数分を待つのだった。
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