第21話 これが一般プレイヤーの戦いだ!

 ただただ広い草原の中に、円形に広がる森がぽつぽつと点在している。そしてその森の一つ一つにイベントやダンジョンが仕込まれているという単純な構成をしているのが第一層の特徴である。


 ならばいっそ、草原の探索は捨て、森から森へと移っていった方が、レアなアイテムと出会える確率が上がるだろうという結論に至る。


「なら、ここは私の出番よね」


 バチモンを活躍させられるとなると一気に上機嫌になるヨハン。メテオバードを召喚し、三人でその背に乗って移動する。


「~~~~~♪」


 ヨハンはバーチャルモンスターズのOPを口ずさみながら、ゴキゲンである。


「……元に戻って良かったね」

「うん。ヨハンさんみたいな人でも、あんな闇を抱えるなんて、社会って怖いね」


 ヨハンの後ろで、まだ学生であるゼッカとレンマが囁きあう。いつもの優しくて天然なヨハンに戻ってくれた事を神に感謝した。


「次はどんなアイテムが手に入るかしらね?」

「私は剣! 剣が欲しいです。剣は何本あっても困らないですからね!」

「……ボクはこだわりはないけど、可愛い衣装とかが欲しいな」


なんて女子三人で楽しく話していると、レンマの視界にメッセージが表示される。


『スキル【直感】が発動しました』

『【直感】の効果により【ルミナスエターナル】を発動しました』


 守護者ガーディアンの最高峰の防御スキル、ルミナスエターナルが発動する。円形の魔法陣がメテオバードとヨハン達を包み込む。


 遅れて、ヨハン達が目指していた森の方から、攻撃が飛んでくる。まるでレーザービームのようなそれは、真っ直ぐにこちらを捉え、直撃させてくる。もしレンマのスキル発動があと数秒遅れていたら、メテオバードを撃破され、落下ダメージで死亡していただろう。


「森からの攻撃!? 弓使いですか……」

「レンマちゃん、今何が起こったの?」

「この前取ったスキル、直感が発動したんだよ」


 スキル【直感】。攻撃を受ける時、あらかじめ設定しておいたスキルを強制的に使用するスキルである。レンマはあらかじめ【ルミナスエターナル】を設定していた為、森に隠れる弓使いが矢を放った瞬間に発動したのだ。このスキルの優秀な点は、本人が気づいていない不意打ちであっても発動する事だろう。


「お姉ちゃんが居ない間、頑張って取った」

「偉いわレンマちゃん」


「いや、撫でてる場合じゃないですよ! 私たち明らかに狙われています!」

「わかってる。メテオバードを地上に向かわせているわ」

「……助かる。ルミナスエターナルは再使用までに10分かかる」


MPポーションを使用しながらレンマが言った。


「地上なら狙われにくいでしょう。で、皆さんはどうします?」

「私は戦いを避けて迂回してもいいけれど」

「……売られた喧嘩は買う」

「レンマさんに賛成です。アーチャーと森で戦闘……燃える!」


3人は地上に降りると、森を目指して走り出した。



***


森に入ってすぐの事だった。


「囲まれてますよ」


と、まるで達人のようにゼッカが言った。何故わかるの? と疑問に思いながら、ヨハンとレンマも身構える。すると、茂みの向こうから5人のプレイヤーが姿を現す。


「ぐへへ」

「久しぶりだなぁヨハンさんよぉ」

「こんにちは」

「会いたかったぜ」

「……私は何も語らない。ただ戦うのみ」


三者三様のあいさつ?をするプレイヤー達。


「知り合いですか?」

「いいえ……あの、どこかでお会いしたことがあるでしょうか?」


「ぐへへ」

「覚えてないのも無理はねえ」

「私たちは全員、先月のランキングイベントで貴方に殺された者」

「本当に会いたかったぜ」

「……私は何も語らない。ただ戦うのみ」


まとまりがない奴らだった。


「つまり、復讐? ダッサ」

「あわわ……でも勝負な訳だし、恨みっこ無しでいきましょうよ」


ダサいと切り捨てるゼッカ。挑発のつもりだったが、意外にも相手は乗ってこない。


「ぐへへ」

「復讐? そんなんじゃねぇさ。この感情、まさしく愛だ!」

「この一ヶ月、私たちはずっと貴方の事を考えていました」

「ずっとずっと会いたかった」

「……私は何も語らない。たd(以下略)」


「うえぇ……ヨハンさん、この人達気持ち悪いです」

「……うん、なんか怖い。倒そう」

「そうしましょう……あれヨハンさん、どうしました?」

「ううむ、モテ期来たかしら?」

「違うと思いますよ」



「さてお話はここまでだ。そろそろやろうぜ」

「お嬢ちゃんとゴリラも掛かってきな、チーム戦で行こうぜ」


ヨハンを狙う5人のプレイヤーが武器を構える。


「ヨハンさん、こんな奴らにスキル使う必要ないです! ここは私が!」


ヨハン陣営はゼッカが前に出る。



Lv:18 ヨハン 職業:召喚師

Lv:50 ゼッカ 職業:剣士

Lv:41 レンマ 職業:守護者


VS


Lv:32 ゴロゴロ 職業:剣士

Lv:43 ガルガロッゾ 職業:破壊者 

Lv:22 ビューティー 職業:槍使い

Lv:40 アベンジャーマスオ 職業:弓使い

Lv:45 イッパツ 職業:魔法使い



「はああああああ!!」


 ゼッカは自慢のユニーク装備デッド・オア・アライブを引き抜く。そして相手パーティの唯一の弓使いであるアベンジャーマスオに斬りかかる。

 そして、1、2、3と目にも止まらぬ早さで切り裂くと、黒い方の剣でトドメの一撃を振り下ろす。二本の剣を振るうゼッカの背には天使と悪魔の羽がエフェクトとして現れていて、それがさらにマスオを絶望へと突き落とす。


「天使と悪魔が……同時に……ファンファーレ」


 アベンジャーマスオは消滅。だが、勝利を喜んでいる暇はなかった。ゼッカが敵の弓使いを始末している間に、相手の魔法使いが魔法の発動準備を終える。


「前座は消えろ――ファイアスタチュー!!」


中級火魔法がゼッカに向けて放たれる。ゼッカの足下から火柱が上がり、HPを一瞬で削り取っていく。


「さぁお仲間は死んだ。ヨハン。私と勝負だ」


ヨハンの方向を向く魔法使いイッパツ。だがヨハンはジェスチャーで「後ろ後ろ」と警告する。


「後ろ……ぐあああああ」

「誰が前座ですか誰が!」


 スキル【ガッツ】を発動させたゼッカが二人目の敵を撃破する。魔法使いイッパツはその名の通り一発撃っただけで死亡した。


「ガッツ持ちか……」

「馬鹿野郎……油断しやがって」


「残りは全員近接戦闘職……楽勝ですね」


左手の白い剣で斬りかかるゼッカ。ターゲットとなった破壊者のガルガロッゾはハンマーを構えるも、ゼッカのスピードに対応できない。


「――連続突き!!」


 ゼッカの鬼の攻撃。白い剣をレイピアのように突き出して行う三連続攻撃だ。だが耐久に厚いのか、ガルガロッゾのHPを削り切ることは出来なかった。


「残念だったなぁ……【クラッシュカウンター】!!」


 受けたダメージを上乗せして敵を粉砕するカウンタースキルで反撃に出るガルガロッゾ。

ゼッカはその攻撃をモロに食らうが……。


「なっ……HPが減らないだとぅ!? まさか二度目のガッツ!?」

「はい、さよなら――【連続切り】」


 今度は黒い剣での連続攻撃。ガルガロッゾと側に居たゴロゴロを同時に撃破。


「俺の高いHPを一瞬で削り切るとは……一体どれだけの火力だよ」

「えへへ、秘密です」


 ゼッカのキャラクタービルドは筋力と敏捷を重点的に育てる、いわばこのゲームのテンプレ構成だった。だが、他のプレイヤー達と違う点が一つだけある。


ユニーク装備【デッド・オア・アライブ】。


 その効果は複雑だ。白い剣で攻撃した時、確率で自分に【ガッツ】を付与する。運が良ければ三連続攻撃スキルで三重のガッツを得ることが出来る。

 そして黒い剣の効果は、攻撃した時に自分に付与されているガッツを強制的に消費し、消費した分ダメージを倍加させることが出来る。

 この装備は単純に強い訳ではなく、常にランダムに付与されるガッツの回数に気を配り、回避と受けを見極める必要がある。だが、ゼッカは同じ状況、同じ勝ち方というものが存在しないこの剣での戦いが、大好きだった。



「残りは貴方一人ですね」


挑発的に残りの一人、槍使いのビューティーを見据えるゼッカ。


「なるほど、どうやらヨハンの腰巾着ではないようですね」


 傍から見ればヨハン達のパーティは魔王のヨハン、魔王の右腕の闇の剣士ゼッカ、イロモノ系強キャラのレンマといった印象を抱かせている。ゼッカに対し、ヨハンのおまけという認識を捨てるビューティー。


「本気で行かせてもらいます――【ソニックジャベリン】!!」

「【アクセルブースト】!」


敵の高速の突きを絶対回避のスキル【アクセルブースト】で回避。


「くっ……今度は避けるのか」

「貴方の持つその槍はHPを削る毒を与える効果がある。毒のダメージはガッツじゃ防げないですからね、回避させてもらいましたよ」

「なるほど、知識も一流のようだ」


ゼッカは既にビューティーの後ろに回り込み、黒い刀身を首元にピタリと当てている。ビューティーは槍を捨て、降参のポーズ。そして、負け惜しみじみたことを言う。


「ふっ……例え私がやられたとしても……まだ40人。この森であなた方の命を狙っています」

「げぇ……40人ですか……もしかして、貴方たちより強い……とか」

「その通り……と言いたいところですが、さっき会ったばかりの人達なので、なんとも……」

「いや、本当になんなんですか貴方たち……」


少しうんざりしたような口調でそう締めると、ゼッカはビューティーにトドメを刺した。


「どうします? 流石に40人同時に相手するのは……」

「安心してゼッカちゃん。考えがあるから」


 そうすると、ヨハンは玩具型の召喚石を取り出すのだった。

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