第22話 裁きの門

「先走った馬鹿共が消えたか……」


 森でヨハン達を待ち構えていたプレイヤーの一人、ドロソは遠くから仲間達の死を見届けると、深くため息をついた。

 仲間とは言っても、所詮は今日出会ったばかりの人物ばかり。団結力など無く、烏合の衆という言葉がよく似合う。だが、ここ数日、掲示板越しではあるが一緒にヨハンを倒そうと共に頑張ってきた仲だった。ドロソとて、思うところがない訳ではない。


「しゃーねぇ。敵討ちと行くか!」


 ドロソは自慢の剣を構える。チラリと周囲を見やれば、身を潜めた同志達も皆同じ思いのようである。


ある者は覚悟を決めたような顔をして。

ある者は清々しい微笑を浮かべ。

ある者は大丈夫かと心配になるほど青い顔をしている。


「ま、40人同時に攻め込めば、倒せない相手じゃない……さて」


攻めるか! ドロソがそう思った時だった。


「……ありゃ、何だ?」


空に向かって、光の柱が伸びているのが見えた。柱の数は三本、雲の向こうへと吸い込まれていく。


「おいおいおい……なんだよありゃ……」


 光の柱が消えた頃。雲を突き破り、白い大きな三つの門が姿を現した。大きな音を立てながら、扉が開く。

【ゲート・オブ・ヘブンズ】。ソードエンジェルの最強スキルを、三体に増殖したヨハンが発動させたのだ。一体につき、一つ。

だがソードエンジェルのスキルまでは未研究だったドロソ達プレイヤーは慌てる。


「そうだ……何かの攻撃があるかもしれない……準備を……あれ、スキルが発動しないぞ?」


 門から何か攻撃があるのでは? 例えば水が流れ出たり、モンスターが出てきたり。そんな想像に身を震わせたドロソは防御用のスキルを発動しようとする。だが、何故かスキルは発動しなかった。バグか? と思い、ステータスを確認してみると……。


「俺のHPが0だとおおぉ!?」


 ステータスに表示された自分のHPがゼロになっている。周囲のプレイヤー達も、おそらく同じ状況だったようだ。全員がいきなりHPが0になった事に戸惑いを隠せないでいる。

 レベル30以上のプレイヤーともなれば、即死対策は必須となる。即死対策の装備や装飾品、即死を肩代わりしてくれる御守りアイテム等、どれか一つはしておくのが常だ。


 だが今回のヨハンとの戦いにおいて、殆どのプレイヤーがクワガイガーのスタン対策にリソースを割いた事で、この広範囲に及ぶ即死攻撃に対応することができなかったのだ。ヨハンの進化を予測できなかった彼らのミスだった。彼らがこの一月で成長したように、ヨハンもまた、このゲームを楽しみ、成長していた。


「糞……こんなイベントじゃなきゃ……俺だって」


 ドロソとて、普段ならば不意の即死を防ぐ為、御守りアイテムを持ち歩いている。対人でなくとも、見慣れぬモンスターがいきなり即死攻撃を使ってくる可能性だってあるからだ。だが今回のこのイベントはアイテム持ち込み禁止。当然、持っていない。


「あ……なんだ……あわあああ」


 終焉の時。ドロソや他のプレイヤー達の身体が浮かび上がる。彼らの身体はすぐに森の木々を超え、はるか上空へ。そこでようやく、あの門へ吸い込まれているのだと気が付いた。

 そして地上を見てみれば、ヨハンとその仲間であるゼッカ、レンマが、門に吸い込まれていくプレイヤーに向かって手を振っている。


「ちくしょう……チクショおおおおおおおおお」


 最早戦うことすら出来ず、ドロソをはじめとした待ち伏せプレイヤー達は門の向こうへと吸い込まれていった。

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