第6話 初戦闘とスキル習得

「あれがダンジョンかしら?」


 てくてくと歩いて数十分。虫のダンジョンの入り口に到着する。ちなみに今は装備を最初の服に戻している。理由はカオスアポカリプスを着ていると、色々な人にじろじろ見られるからである。

 他のプレイヤーは見慣れない装備だから気になっているだけなのだが、ヨハンは変な格好だから見られていると勘違いしているようだ。

 なので外では初心者の服を着て、ダンジョンに入ったら着替えようという腹づもりである。


「まるで古代遺跡みたいね……って、あれ? 入り口に誰か居るわね」


 隠れて様子をうかがうと、ダンジョンの入り口に5人のプレイヤーが立っていて、丁度ダンジョンに入っていくところのようだ。全員が小学生男子で、おそらく友達同士で遊んでいるのだろうことがわかる。


「今日こそここを超えて、第二層に踏み込むぞ!」

「おうよ!」

「待ってろボス!」


 と意気込んで入っていく姿を微笑ましく見守るヨハン。


(遠足みたいで可愛いわ。あと数年もしたら甥っ子君もあんな風になるのかしら)


 可愛がっている甥っ子の未来を想像していると、背後に妙な気配がした。


「ギュギュグ」

「うえっ……モンスター!?」


 振り返ると、そこには体長1メートルほどのダンゴムシの姿をしたモンスターが居た。頭上に表示されているモンスター名は【ダンゴロン】。高い防御力を持つモンスターである。ヨハンは急いで携帯玩具型の召喚石を取り出す。


「召喚獣召喚! ――ヒナドラ!」


 幾何学的な魔法陣の中から、黒くて小さな竜が出現する。


「もきゅ!」

「行くのよヒナドラ、私を守って!」


 やる気に満ちたヒナドラを盾に距離を取る。だが先に動いたのは敵のほうだった。


「ギュギュグ」


 その体を丸めると、そのまま転がってきてヒナドラに体当たりする。赤いダメージエフェクトが光ると、ヒナドラの頭上のHPバーが凄まじいスピードで減っていく。


「嘘……一撃……いや、耐えたわ!」


ヒナドラはHP残り1でなんとか耐える。


「ふふ、甘いわねダンゴロン。私のヒナドラにはスキル【ガッツ】があるのよ!」


 敵モンスターに対してドヤるヨハン。【ガッツ】とはHPが0になるダメージを受けても一度だけHP1を残して耐え、さらにそこから10秒間【無敵】状態を得るスキルである。ピンチをチャンスに変えるスキルである。


「今のうちよヒナドラ、反撃のブラックフレイム!」

「もっきゅー!!」


 ヒナドラはもう一つの黒い炎を吐き出すスキル【ブラックフレイム】でダンゴロンを攻撃。炎を弱点とするダンゴロンのHPは一瞬でなくなり、粒子となって消滅した。


 そしてレベルアップを告げるBGMが流れ、新しいスキルを習得した。


【シフトチェンジ】

召喚獣と自分の位置を入れ替える。

《入手条件》

召喚獣を使った戦闘で勝利。


【視覚共有】

召喚獣が見ている景色を表示することができる。

《入手条件》

召喚獣のみを使って戦闘に勝利する。



「これ、ゼッカちゃんが言ってた召喚師必須スキルよね。こんなに早く手に入るなんてラッキーだわ」

「もっきゅ!」


 新しく入手したスキルを確かめていると、召喚していたヒナドラから声を掛けられる。何事かとその姿を見ると、何やらヒナドラの姿が薄くなっている。どうやら今の戦いでMPを使い切ったようだ。


 召喚した召喚獣はHPを0にされれば消滅するが、MPが0になっても消滅してしまう。MPはスキルの使用、そしてフィールドに現れているだけでも徐々に減っていく。

 ヒナドラはブラックフレイムという強力な攻撃スキルを持っているが、そのMP消費量は多く、一発撃っただけで消滅してしまうのだ。そして一度召喚した召喚獣を再度召喚できるようになるまで、丸一日時間が必要だった。


「お疲れ様ヒナドラ。ありがとうね」


 消えゆくヒナドラをやさしく見送った。そして携帯ゲーム機を模したヒナドラの召喚石を仕舞うと、別のヒナドラの召喚石を新たに取り出す。


「うふふ。まだ6体呼べるのよ。最高だわ」


 ヒナドラを7つ持つヨハンには、あまり気にならないシステムだった。ヨハンは先に潜入した小学生たちと鉢合わせしないよう30分ほど時間を潰してから、カオスアポカリプスに身を包み、ダンジョンへと入っていった。

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