第5話 その頃人里では
その日、人類の都、テノグラード皇国は荒れていた。原因は一つ。先日、人類の希望であった勇者シャルロットが魔王に討ち負けたことだ。
「まさか歴代最強と謳われた勇者があえなく返り討ちとはな。いくらお前でも魔王の討伐は荷が重かったかね、シャルロット」
「申し訳ありません。この度は私の至らなさで皆さまに迷惑と失望を与えてしまった。力を蓄え今一度魔王の首を狙います」
「ふん。口では何とでも言える。勇者は結果を残してこそもてはやされる。覚えておけ。能無しのごく潰しは不要なのだよ」
「……っ」
銀色のプレートに身を包み白い外套をたなびかせる女性騎士を目で制す。勇者の率いる兵団の副団長である彼女はあまりに理不尽な勇者への叱責に激昂していた。しかしシャルロットはそこで口を挟んでも余計に自分たちの立場が悪くなるだけだと知っていた。目配せして抑えろと合図をすると、悔しげに下唇を噛んだ。
「……魔王討伐に兵団を出さないとか嫌がらせでしかないでしょっ、糞大臣!」
自分にしか聞こえない程度の愚痴くらいは許容範囲だと、副団長はこっそり毒づいた。
「し、失礼します!」
「何事だ、騒がしい」
「報告がございます」
「何だ? まさかシャルロットが打ち漏らした魔王が暴れ出したか?」
一々言い方が癇に障るんだよ! 再度シャルロットは彼女を目で制す。
「違います!」
「じゃあ何だ?」
暴れていないというのにこの慌てよう。果たしてどういうことなのか。訝しむシャルロットの耳に兵士がもたらした情報は、
「魔王一派は魔王軍を解体して人助けを開始しました!」
「……は?」
天地がひっくり返っても信じられないような内容だった。
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