第8話 プライドの高い一族
「ゲルダ…昨夜、お酒を飲んだと聞いたが?」
義父は足を組むと両手を組んで顎を乗せ、私を鋭い目つきで見た。
「はい、そうです。飲みましたけど?」
昨夜私は確かにお酒を飲んだ。しかもかなり、浴びる程大量に。自分の今置かれている状況が辛すぎて現実逃避をする為に地下室に並べられた高級ワインを2本貰って泣きながら部屋で飲んだ。どうか生まれ変わらせてくださいと誰に言うとも無しに…そして今朝目覚めると私は前世の記憶を取り戻していたのだ。
「やはり飲んだのだなっ!しかも勝手に!」
ダンッ!
義父は右手拳を握りしめ、目の前のテーブルを思い切り叩いた。以前の私ならこれくらいの事で震え上がっていたが、前世を思い出した私にはこんな事は何てことはない。
「何故許可がいるのでしょう?あの地下室のワインだって、お義父様のリクエストがあったから、私が実家に頼んで手配して届けさせた物ですよね?何故私が飲んではいけないのですか?」
ほら、言い返せるものなら言ってみなさい。
「ぐ…っ!」
義父は顔を赤くしてブルブル震えている。ふ〜ん…肌の色が白いと綺麗なピンク色に染まるのか…。妙に納得しながら義父を見ていると、今度は義母が私を睨みつけながら言った。
「な、何て生意気な口を叩くのかしら…!」
「そうでしょうか?」
生意気?むしろ生意気なのは目の前に座っているこの2人だと思う。
「うるさい!お前はもうこのノイマン家に嫁いで来た身なのだろう?当主である私の許可なしに我が屋敷の財産を勝手に盗むな!お前が飲んだワインはなぁ…私が楽しみにとっておいた30年物オールドヴィンテージワインだったのだぞ!しかも2本も!」
義父はよほどそのワインが飲みたかったのだろう。
「だったらさっさと飲んでれば良かったじゃないですか。世の中、早いもの順ですよ」
「な、な、何だとっ!謝るどころか開き直るとは!弁償しろっ!同じワインを用意するように実家に催促するのだ!」
「は?弁償?催促?」
肩をすくめながら言った。
「お前が勝手に飲んだのだから、責任を取るのは当然だろう?そうだな…この際ついでにワインを1ダースつけてくれ」
ニヤリと笑みを浮かべる義父。
「嫌ですよ。何故私が催促しないといけないのですか?どうしても欲しいなら自分で頼んだらどうですか?だって私には十分あのワインを飲む資格があるのですから」
にべもなく断った。大体、私は離婚に向けて色々準備をしなくてはならない忙しい身だ。それに実家と話をするにはまだまだ準備が足りない。今、下手に父や祖父と関わるわけにはいかないのだ。
「な、何だとっ!お前に拒否権はない!ノイマン家に嫁いできた以上、当主の命令は絶対だ!」
眉間に青筋を立てる義父。…それにしても知らなかった。こんなに怒りっぽい性格だったのか、それとも余程あのワインが大切だったのだろうか?確かに凄く美味しかったけどね。
仕方ない…。私はため息をつくと口を開いた。
「お義父様、それなら申し上げますが、私は巨額の持参金を持って嫁いできたのに
一度も嫁として尊重されたことがありません。別の塔で暮らすことは結婚の条約で記されていたのでやむを得ないとしても、大体結婚前夜までアネットという存在を私に伏せていたではありませんか?恋人がいるなら普通、結婚させないでしょう?詐欺に近いと思いますけど?」
「さ、詐欺だと…っ!」
義父がブルブル震えている。すると義母が私を指差しながら言った。
「そう!それよ!ゲルダ!貴女…今朝勝手にラファエルとアネットの寝所に入っていったそうね!何て恥知らずな…これだから教養がない庶民は嫌なのよ!」
「そうだ!今朝アネットが我らの前に泣きついてきたのだぞ?お前が部屋に乱入し、部屋の窓を開けて嫌がらせをしたとな!」
あ〜あ…あんなに興奮しちゃって…今にも血管が切れそうだ。恐らくこの2人は魚が嫌いに違いない。カルシウム不足だからイライラしやすいのだろう。
「別に嫌がらせをしたわけではありません。部屋に伺ったのは朝のご挨拶の為、窓を開けたのはあまりにも空気が悪かったから換気をしたまでです。その事は2人には説明してありますけど?あまり淀んだ空気の場所に長時間いると身体に悪いですから」
話の途中で口を挟まれるのが嫌だったので、一気にまくし立てた。
「「…」」
義父も義母も呆れた顔で私を見ている。
「…もう行ってもよろしいですか?私は色々忙しいので」
そして2人に背を向けて扉の方へ歩いていき、ドアノブに手を触れた時―。
「お、おい!待てっ!」
義父が私を呼び止めた。
「何ですか?まだ何か?」
顔だけ振り向くと義父を見た。
「ワインはっ!ワインの件はどうなったっ!」
「知りませんよ。ご自分で催促して下さい」
まだワインの事を言ってるのか。くだらない。
「くっ…!」
義父は悔しそうにブルブル震えている。…ふふん、悔しいでしょう?私の家から毎月多額の支援金を受け取りながら、ワインの催促をするなんてプライドの高い義父には到底出来ないのだろう。だからこそ、ノイマン家の連中は欲しいものがあれば全て私に催促させてきたのだ。私が大人しく従っていたのをいいことに…。
「やはり…お前はラファエルの言ったとおり頭がおかしくなったのだなっ?!」
あいつめ…そんな事を言ったのか。
「いいえ、おかしくなったのではなく、正常に戻ったのです。それでは失礼致しました」
それだけ言うと、私は扉を開けて義父母の部屋を後にした―。
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