第7話 義理の両親からの呼び出し

「まぁ、過去の事は振り返っても仕方ないし…これからは未来に向けて進んでいかないとね」


ソファから立ち上がると、早速出かける準備を始めた。まず前世を思い出す前に買い揃えた高級貴金属を全て売りに出すことにしよう。


クローゼットに向かうと扉を開ける。

ハンガーに大量に吊るされたドレスを両端に寄せると、その奥に隠し金庫が現れた。


「それにしても嫁ぎ先に内緒で金庫を持ち込むなんて、今世の私もなかなかやるじゃない」


思わずほくそ笑む。

クローゼットの奥から出てきた金庫は私が実家から持ち込んできた代物で最高級のアクセサリーばかりが隠されている。そしてこの金庫はダイヤル式の鍵で暗証番号は私しか知らない。

早速ダイヤルをカチャカチャと回し、金庫の蓋を開けると中には目もくらむような光り輝くダイヤやゴールドのアクセサリーが大量に現れた。でもこれはほんの一部。他に隠し金庫を私は嫁いで来た時に3つ持ち込んできたのだ。勿論この屋敷の者たちは誰も知らない。


取り敢えずここからいくつかアクセサリーを持ち出して、町に売りに行こう。まず離婚するに当たって、先立つ資金がなければどうにもならない。前世で苦い経験があるから、じっくり準備をしなければ。そこで適当に10点ばかりアクセサリーを取り出すと金庫を閉じて再びドレスで隠す。


「よし、今日のところはこれくらい持っていけばいいかしら」


巾着袋に無造作に金庫から取り出したアクセサリーを入れるとスカートのポケットに突っ込んだその時―。


コンコン


遠慮がちなノックの音と共に、専属メイドのブランカの声が聞こえてきた。


「ゲルダ様、お話がございます。よろしいでしょうか」


「どうぞ〜入っていいわよ」


「失礼致します…」


カチャリと扉が開かれ、ブランカがモジモジしながら私を見る。


「あ、あの…大変申し上げにくいのですが…」


「何?私と貴女の仲じゃない。遠慮せずに言いなさいよ」


するとブランカが両手を胸の前に組むと言った。


「奥様…実は先程大旦那様と大奥様が南塔の自分たちの部屋へ大至急来るようにと伝言が届きました。何でも大事な話があるそうです」


「はぁ?」


この私を呼びつけるとはいい度胸だ。私は前世の年齢46歳+今世の年齢21歳、合計年齢が67歳なのに、共に年齢45歳の夫婦に呼び出されるとは…。しかも伯爵家でありながら私達の援助が無ければとっくに没落している貧乏貴族のくせに…!


しかし、私は大人だ。ここで下手な行動をとって無関係なブランカを困らせるわけにはいかない。


「そう、分かったわ。それじゃ大至急向かわないとね。」


そして足さばきの悪いスカートをたくし上げると、再び遠くの南塔へ向かった。

心のなかで舌打ちをしながら―。




****


「やっと着いたわ…」


歩くこと10分。ようやく義理の両親のいる部屋へたどり着いた。それにしても私がこの夫婦からの呼び出し…一体何度目になるだろう?両手で数えて足りなくなってからは、もう回数を数えるのもやめてしまった。


「まぁ、いいわ。要件だけ聞いたらすぐに退散しましょう」


そして目の前の扉をノックした。


コンコン


ガチャ…


するとすぐに扉が開かれ、目の前には義父が現れた。金の髪に青い瞳…ラファエルにそっくりな男性だ。まさか義父自らが扉を開けるとは思わなかったので、少々驚きながらも尋ねた。


「…おはようございます。お義父様。何か御用でしょうか?」


スカートの両端を少し上げて、貴族風の挨拶をすると義父が言った。


「用が無ければ、わざわざお前を呼び出すはずがないだろう?中へ入れ」


「…はい、失礼致します」


ぞんざいな口で命令され、ムカッときたが、こういう横柄な人間は前世で散々相手にしてきた。うん、気にしないのが一番だ。クレーマーだと思えばいいだろう。



部屋の中に入ると、大きな掃き出し窓を背にソファに座って紅茶を飲んでいる義母がいた。


「おはようございます、お義母様」


すると義母はチラリと私を見ると言った。


「ハァ〜…朝から面倒な…」


は?面倒?それはこちらの台詞なんですが。要件があって呼び出したのは自分たちののくせに面倒と言うのは聞き捨てならない。こちらは10分掛けて南塔へやってきたのに、呼び出した側が優雅に紅茶を飲んでいるとは失礼にも程がある。


 扉を開けた義父は私の近くを通り抜けると、紅茶を飲んでいる義母の隣に座ると私を睨みつけるように言った。


「ゲルダ。何故お前をここに呼び出したか…勿論分かっているだろうな?」


全く…この夫婦は私に椅子を勧めるという配慮すら念頭には無いのだろう。自分たちだけソファに座り、私の事は平気で立たせておくなんて。…それとも嫌がらせか?


「どうしたの?答えなさい」


私がなかなか返事をしない事が気に入らないのか、イライラした口調で義母が口を挟んできた。しかし…。


「申し訳ございませんが、何故呼び出されたのか…まるきり心当たりがありません」


私が答えると2人の顔色が変わった―。




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