春の楓
園内晴子
0. 第一夜
「ごめんなさい。」
無意識に呟いていた。本当はそんな事思ってないくせに。相手のせいにしているくせに。
いい子ぶっちゃって。この嘘つき。
それ以来、人を怖いと感じるようになった。自分の化けの皮がはがされ、誰もが離れてしまいそうだから。
人を信じられない。けど人がいないと寂しくてたまらない。
「もう、別の世界に行ってしまいたいな。」
眠る直前、いつも心が痛くなる。その日も眠れず、ベランダでぼーっとしていたら、秋の星空から白い何かがゆっくり飛び込んできた。目が悪いもんで額に当たるまで何か分からなかったが、両手で受け止めると、紙飛行機だということが分かった。
……は? 紙飛行機?
ほぼ必要性のない田舎の街灯に、掌におさまった紙飛行機は確かに照らされている。そこに『この子を受け取った方へ』と小さなカードが貼り付けてあったので、不審に思いながらはがして読んだ。
『親愛なるルピン様
突然のお知らせで恐縮ですが、あなたは『ユービンズ』の新たな相談員・ルピンに選ばれました。詳細は紙飛行機をお読みいただくようお願いいたします。信ずれば、必ず届く。
F-rend社 社長代理
……なんだこれ? とりあえず、俺は「るぴん」とやらになったらしいけど、何それ。初耳。
てか、どうやってこの紙飛行機はここにたどり着いたんだ? 通常の飛距離でこのベランダにたどり着くことは明らかに困難だし、電線に引っかかって落ちたことも考えられない。
うーん……寒。
いそいそと部屋に戻って出窓を閉め、カーテンを閉ざす。勉強机の電気をつけて回転いすに座り、机の上に紙飛行機を置いた。何の変哲もないように思われていた白い紙飛行機だったが、よく見ると裏側に何かが書かれているらしく、小さな文字がうっすらと透けて見えた。
どうしよう。ゆーびんずだの、るぴんだの言葉には馴染みがなく、俺宛だということも特に書かれていない。かといって、飛ばし返したら怖い思いをしそうだ。ああ、どうしよう。
うーん。うーん、うー……んぅ……
唐突な来客を前に眠くなった俺は、消灯して布団にもぐりこんだ。
—・☆・☆・☆・
〖寝落ち少年。〗
やっと眠れた、ぼんやりとした世界で、白いフードを被った男性が俺を見ていた。なんとなく、美形であることは感じた。
〖紙飛行機を受け取ってくれて、どうもありがとう。感謝します。
ルピンは、悩める者の第二の光です。決して、一番星になってはいけませんよ? あくまで、あなたの与える言葉は小さな豆粒。相談者にとって、新たな答えを開く扉の鍵。そのことをゆめゆめお忘れなきよう。
それでは、失礼します。またご連絡しますね。――〗
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