大切な思い出
私は今日死にます。
私は山奥にある緩和治療を専門とする病院で入院している。病室の窓から紅葉の葉っぱが赤や黄色に紅葉していて、とてもきれいだった。
そんな風景を6歳になる娘と一緒にぼんやりと見ていた。
「ねぇ、お母さん」
窓から見える紅葉をジッと見ている娘の
「なんで、夏には緑色だった葉っぱさんが、秋には黄色や赤色になって綺麗に見えるの?」
「それはね、お母さんと一緒だね」
私は酸素マスク越しにニコッと笑って答えてみた。
「どうゆうこと?」
灯は首を傾げてベットの上で横たわっている私を見つめていた。
「んっとね、もっと分かりやすく言うと……打ち上げ花火みたいなものかな?」
灯はもっと分からなくなった様子で首を更に傾げていた。
「灯は花火見たことある?」
「うん!あるよ!すごく大きくてドカンってなって、すごくきれいなの」
私は小さなて手で大きな花火を表現している娘の姿を見て胸と目頭が熱くなるのを覚えた。
「そう!それ!花火はきれいだよね!じゃあ、なんで綺麗に見えるの?」
「大きいから?」
「それも当たっているけど、お母さんはね、こう思うの」
「最後の瞬間だから……」
私は自分で言っていて胸が痛くなったが続けて話した。
「最初は身体も心も元気いっぱいだから、葉っぱさんも緑色で、花火さんも空高く行こうとするんだけど、最後に近づくと心は元気いっぱいなんだけど、身体がついて行けなくなっちゃうの、でも、どうにかして、元気だぞ!って見せたいから、最後の力を振り絞って全力で周りの人にね、私はここにいるぞ!まだまだ元気だぞ!って教えてあげているんだよ、だから、きれいなの」
「んっとね、もっと簡単に言うとね、全力で命を燃やして頑張っているからきれいなんだよ」
「灯も命を燃やせるほどの人生を歩んでね!」
「よくわからないけど、お母さんが元気になってくれるように頑張る!」
私の心の中に木枯らしが吹いて、目から涙が出てきた。
今日死んでしまうことが名残惜しい、灯の成長が見れないことが悲しい…
「あれれ?灯、お母さん悲しませること言っちゃった?ごめんなさい…」
私は首を横に振って否定した。
「お母さん、ダメね…葉っぱさんや花火さんみたいに綺麗になれないかも…」
心配そうに私の顔を覗いている我が子の頭を撫でながらそう言った。
灯の目からも涙がこぼれ落ちて、ベットのシーツや布団には水玉模様のシミができていた。
「お母さんは、綺麗だよずっと、だから、泣かないで…灯も悲しくなるから」
私はそんな我が子を力強く抱き寄せ、顔を見せないようにして精一杯元気な声で「もう、灯はいい子だな」って言ってから少し力を弱めた
「ねぇ、灯」
灯は涙でぐしょぐしょになった顔を向けてくれた。
「実はね、お母さん今日ね…」
明日には止まっている心臓の鼓動が速くなった。
「死んでしまうの」
私は言うのを少しためらったが、正直に言った。6歳の少女には残酷だと思ったが、灯には噓をつきたくないと思ったのでストレートに言った。
「え?…」
灯の目から流れる涙が一瞬止まった。
灯が悲しまないように、私は泣くのを我慢して言った。
「死んでしまってもね、終わりじゃあないんだよ!だってさ、灯は今日みた、紅葉のこと明日になっても覚えているでしょ?それと一緒でお母さんは灯の記憶の中で生きていくの」
「これからはずっと一緒だよ!」
「……やった!じゃあ、これからはもっと楽しいことばっかりだね!」
灯の顔は鼻水や涙でぐちゃぐちゃになっていたが、一生懸命に満面の笑みを浮かべていた。
「そうだよ!楽しいことばっかりだよ!」
私も満面の笑みを浮かべて目を閉じた……
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