勤労感謝の日

第1話

「今月の23日は勤労感謝の日だな」

「憂鬱だな」

「なんでだよ？」

「気後れしてしまうんだよ」

「なんで？」

「おれ、働いてないから」

「それは、しょうがないよ。お前、両親が仲悪くて離婚してて、いわゆるお前、アダルトチルドレンってやつだろう？」

「そうなんだけどさ。なんか、こう……」

「理由はあっても気後れしてしまうのか？」

「ああ」

「でも、お前、はっきり言うけど、怠惰な人間とは全然違うぜ」

「なんでそう思う？」

「だってお前、親から完全に離れて自立してるし、きちんと心療内科に通院して服薬してるし、心理療法も7年間受けただろう。衣食住みたいな家事も自分でやってるし、家計管理もやれてる。それに、アルコール、タバコ、ギャンブル、それから性風俗とかにも手出してないし」

「そうだけどさ……働けてはない。収入は年金と生活保護だ」

「いいんじゃないか、そんなの。お前は、ある意味人並み以上に努力してると思うよ」

「『ある意味人並み以上に努力してる』のは、それが今のおれの仕事だからだよ」

「だったら、『仕事』してるわけだろ。勤労感謝の日に気後れすることなんてないじゃないか！」

「そうだなあ……そう言われれば」