六
扉を開けると、クラスの全員が拍手して迎えてくれた。学級委員が花束を持って千生に駆け寄ってきた。
千生はやがて黒板に目を奪われた。
色とりどりのチョークで、隅から隅まで、千生に対する
全員が、千生の新たな旅立ちを
入学して以来ずっと、クラスに溶け込もうと努力を惜しまなかった千生の行為が、クラス全員からのこのような行動となって返ってきたのだ。千生の心がけは無駄にはならなかった。
啓介とも、今日が別れの日だった。
この期に及んで、もう二人が話すことはあまりなかった。
いや、啓介は本当は言いたかった。
「グループを卒業するまで待っててもいいかな?」と。
しかし啓介はその言葉を呑み込んだ。千生は新しい世界、もっともっと広い世界に自ら果敢に飛び込んで行くのだ。余計な荷を背負わせてどうするというのか。
二人は校門近くの桜並木に背をもたせかけて、言葉もなく、しばらく見つめあっていた。
こういうときは、男から切り出すものだと、啓介は未練を振り切るように言葉を発した。
「俺が千生の最初のファンだからね。そして誰よりも一番
「もちろん」
千生は満面の笑顔を作って応じた。
「じゃあ」と啓介はその場を去った。
早く行かないと、千生に涙を見られそうだった。
校門を出た啓介は、歩きながら、大学に進学したら演劇部に入って、また、一からやり直そうと思った。もしまた舞台に立てるなら、映像作品に参加できるなら、観に来てくれる観客のために、粉骨砕身努力しようと思った。
千生が自分に目標を持たせてくれたのだ。
愛や夢を与えるのがアイドルなら、それは、千生のアイドルとしての初めての仕事だった。――
もっともっと広い世界 柴田書羽 @toshi47
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