婚約破棄された王子様の護衛騎士はクーデターに巻き込まれても主君を守り抜きます!
大喜
第1話
「貴方のような婚約者に恥をかかせる男、こちらから願い下げよ。王家から打診された婚約ですが、現時点をもって破棄とさせていただきますわ!」
春の陽射しは園遊会の開かれた王城の庭園を柔らかく照らしていた。その煌びやかかつ和やかな場に場違いと思われる、怒鳴るような淑女の言葉とは到底思えない金切り声のようなものが警護にあたっていたガレスの耳にも届いた。
周りの貴族達はその理不尽な様子を何時もの事かと静観しているようだ。
国王夫妻不在の宴では、誰の顔色を窺う必要もないのだろう者達の容赦のない好機の目に晒される。
ガレスが仕える第三王子は俯きがちに少女から浴びせられた暴言にただ無言で耐えていた。
彼は王子ではあるが、筆頭公爵の娘であるこの令嬢との婚約は王家と諸侯との繋がりを強固にする為のものだ。
それが分かっているからこそ、どんな言葉を投げ付けられようが反論もせずじっと我慢しているのだろう。
公爵家の令嬢といえどまだ十代の少女である。癇癪を起こし、4歳も年下の少年に当たり散らす事も年相応なのかも知れない。
それを冷めたような目で見ている自分がおかしいという自覚はある。
この国は筆頭公爵家の三男が騎士団長として就任してから、貴族間のパワーバランスが崩壊していた。王家は公爵家との諍いを避けるために婚約を打診するという形で、諸々の事情から第三王子を差し出したに過ぎない。
生贄のようなものだと、ガレスは目の前の光景に再度目を向け気分が悪くなるのを感じた。
第三王子は泣きもしなければ笑いもしない。
それが社交界における第三王子セオドアへの認識だった。
黒い髪は平民でもよくありふれた色、緑の瞳はくすんだサファイヤに似ている。そんな者が美貌の侯爵令嬢と言われる少女には釣り合わないと、そういいたいらしい。
何故そんな思い上がりが出来るのかガレスにはわからなかったが、王子本人も自分が地味な容姿をしている事を認めるように目を伏せた。
それが悲しい。
一介の護衛に過ぎないガレスが物理的に少女の口を閉じさせるのは簡単だが、そうすればこの子供が耐えた意味が無くなる。
そうだとわかっているから、黙ってその暴言を聞いているしかなかった。
「婚約破棄、謹んでお受け致します」
子供特有の高い声が静かに言葉を紡ぐ。その声色から感情は読み取れない。怒りも悲しみもなく、書類に書かれた必要事項をただ読み上げたような無機質な声だった。
「本当に気味が悪いわ、さっさと私の目の届かない場所へ消えて頂戴!」
怒りを露わにした令嬢に一礼した王子は踵を返してその場を後にする。ガレス達もそれに続いたが、同僚の騎士の視線が護衛対象に向けるものとは言えない馬鹿にしたようなものである事に怒りを感じていた。
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