就職面接
ム月 北斗
A
この時期になると夜は早くに訪れる。
就職面接を控えた一人の男子高校生が担任の男性教師と面接練習をしていた。
コン、コン、コン。教室のとびらを叩くノック音が響く。
面接官役の教師が合図を言おうとしたら、とびらの向こうから大きな声。
「失礼します!」
「『どうぞ』って言ってからですよ?」
「うーん・・・先生!」
「なんですか?」
「手応えが薄いのでもう一回最初からお願いします!」
「今が『最初』です。手応え以前の問題ですよ?」
教師の一言も聞かず生徒は廊下へと戻った。
再びとびらを叩く音が鳴る。
ココン、コン、ココン。ココン、コン、ココン。
「ターミ〇ーターですかね?」
「失礼します!」
「『どうぞ』って言ってないですよ?その前にノックについて言いたいことが・・・」
「うーん・・・なんか違うなー。もう一回最初からお願いします!」
「まだ『最初』なんです。『なんか』どころじゃないですよ?」
生徒は残像を残す勢いで廊下へ戻った。
(先生、言いたいことがあるんですけどね?)
僅かな沈黙の後に廊下から威勢のいい掛け声が響く。
ヨォ~~~・・・ッハァ!!
(はぁ?)
ゴン!!!
(はぁ?!)
「失礼します!」
「『どうぞ』言ってないです?いや、それどころじゃなくですね?」
「先生!印象に残りますか?」
「印象どころか夢に見そうです。悪夢です。前代未聞の事態に混乱すら覚えます。」
「くそぉ~!もっと強く印象付けなきゃ!もう一回最初からお願いします!」
「『最初』から進んでません。あと、くれぐれも実際の会場で『くそぉ~』とか言わないでくださいね?」
生徒は話も聞かず、瞬時に廊下へと戻った。
数分ほど経ったが生徒はとびらをノックしない。
すると、天井の一部が人ひとり通れる大きさにずれると生徒が忍者のように現れた。
「失礼します!」
「天井裏から入ってくる人とか聞いたことないですね。この学校、天井裏あったんですね。」
「女子トイレから入れます!」
「男子生徒からのとんでもない
「先生!印象に残りますか?」
「印象に残れば必ずしも就職できるわけではないですよ?あとそれは『好印象』の場合の話しです。」
「これは?!」
「あると思ってるんですか?」
「ちくしょう!!もう一回最初からお願いします!」
「何度目の『最初』か先生もう分かりません。あと『ちくしょう!!』は絶対ダメです。」
生徒は何度目かの廊下へと出て行った。
数十分経ち、突然学校の側にヘリコプターが飛んできて滞空しだした。
教室をヘリのライトが照らし窓際にロープが垂れてくる。
そして、一つの人影が勢い良く迫ってきてガラスを突き破った。
「失礼します!」
「ここまでくると逆に『好印象』かもしれませんね。」
「就職できますか?!」
「ところで、君の希望職はなんでしたか?」
「親のパン屋を継ぐので『ありません』!」
(面接練習の意味・・・)
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